深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

書評

壁とともに生きる わたしと「安部公房」/ヤマザキマリ〜何者かであろうとする虚しさ〜

《内容》 不自由で理不尽な社会で、心涼やかに生きるには?自由に生きれば欠乏し、安定すれば窮屈だ。どうしようもなく希望や理想を持っては、様々な”壁”に阻まれる――。そんな私たち人間のジレンマを乗り越えるヒントは、戦後日本のカオスを生きた作家・安部…

書記バートルビー/メルヴィル〜救い難いほど孤独でかつ生きる力が弱いものはどう生きる?〜

《内容》 ウォール街の法律事務所で雇った寡黙な男バートルビーは、決まった仕事以外の用を言いつけると「そうしない方がいいと思います」と言い、一切を拒絶する。彼の拒絶はさらに酷くなっていき…。不可解な人物の存在を通して社会の闇を抉る、メルヴィル…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をどう読むか〜愛は差別化と排除によって成り立つ〜

《内容》 超話題の春樹の新作は名作なのか問題作なのか。そして何を問いかけるのか——強力なメンバーで謎めいたその世界へ挑む必読の一冊を緊急刊行。豊崎由美×大森望、加藤典洋、安藤礼二など。 今更感満載ですがw ふと他の人の感想が気になって読んでみまし…

善人はなかなかいない/フラナリー・オコナー~地獄への道は善意で舗装されている~

《内容》 フラナリー・オコナーは難病に苦しみながらも39歳で亡くなるまで精力的に書き続けた。その残酷なまでの筆力と冷徹な観察眼は、人間の奥底にある醜さと希望を描き出す。キリスト教精神を下敷きに簡潔な文体で書かれたその作品は、鮮烈なイメージとユ…

若者はみな悲しい/F.スコット フィッツジェラルド~太陽は落ちていて、美と言えるものはない。~

《内容》理想の女性を追いつづける男の哀しみを描く「冬の夢」。わがままな妻が大人へと成長する「調停人」。親たちの見栄と自尊心が交錯する「子どもパーティ」。アメリカが最も輝いていた1920年代を代表する作家が、若者と、かつて若者だった大人たちを鮮…

余命10年/小坂流加~どんな10年だったら自分を納得させることができるのか。~

《内容》 20歳の茉莉は、数万人に一人という不治の病にかかり、余命が10年であることを知る。笑顔でいなければ周りが追いつめられる。何かをはじめても志半ばで諦めなくてはならない。未来に対する諦めから死への恐怖は薄れ、淡々とした日々を過ごしていく。…

吹上奇譚 第三話 ざしきわらし/吉本ばなな~この世界は生きている人間だけが作用しているのではない~

《内容》 吹上町の夏が終わり、引きこもりの美鈴がミミのもとを訪れた。「部屋の中に子どもの霊がいるんだ。いつも夜になると出てくる」生も死も、過去も未来も溶け合う吹上町に、新たな風が巻き起こる―人智を超えた世界の理がしみじみと胸をうつ、大好評哲…

吹上奇譚 第二話 どんぶり/吉本ばなな~愛のない思い出も心の中で温めることができる~

《内容》 少女の霊に取り憑かれた美鈴と私は東京へ向かった。飲みこまれそうなほどに激しい動きの中で人生の舵取りをしていくことこそが、生きることだと知った。著者ならではの箴言に富む唯一無二の傑作哲学ホラー。 新キャラクター美鈴が登場。だけど、タ…

吹上奇譚 第一話 ミミとこだち/吉本ばなな〜待つことの意外なヒーロー性〜

《内容》 その街では、死者も生き返る。現実を夢で見る「夢見」。そして屍人を自在に動かす「屍人使い」。二つの能力を私は持っている。吉本ばなながついに描いた渾身の哲学ホラー小説。書き下ろし長編。 実は三作目の「ざしきわらし」から読んだのですが、…

掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン~死んだ夫に会いたくなった場所はゴミ捨て場~

《内容》 死後10年を経て再発見された、奇跡の作家。大反響の初邦訳作品集、ついに文庫化!2020年本屋大賞〔翻訳小説部門〕第2位第10回Twitter文学賞〔海外編〕第1位毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための…

教養としてのアメリカ短篇小説/都甲 幸治~戦争と暴力と人種問題を内包するアメリカ~

《内容》 戦争、奴隷制、禁酒法……背景を理解すれば、作品がもっとよくわかる「黒猫」のプルートはなぜ黒いのか? 書記バートルビーはなぜ「しない方がいい」と思うのか? 度重なる戦争の歴史、色濃く残る奴隷制の「遺産」等、アメリカという国、そこに暮らす人…

プールサイド小景/庄野順三~似ていても同じ家族は一つもない~

《内容》 大金を使い込み、突然会社をクビになった夫。妻が問いただすと、つらい勤めの苦痛や不安を癒すため毎晩のようにバーに通いつめていたという。平凡な中年サラリーマンの家庭に生じた愛の亀裂――日常生活のスケッチを通し、ささやかな幸福がいかに脆く…

赤い蝋燭と人魚/小川未明~芸術は愛から出発するが殊に童話は、子供を愛さなくては書けない。~~

《内容》 人魚の娘が絵を描いた蝋燭には不思議な力があった。しかし、金に心を奪われた老夫婦は、娘を香具師に売ってしまう-。無国籍風の絵をつけ、新しい装いとなった小川未明の代表作。 これ神保町で見つけて装丁がゴシックで可愛くって500円だったので買…

きみの言い訳は最高の芸術/最果タヒ~「あの頃の原宿」は溶けて消えてしまったと気付いた~

《内容》 至極のエッセイ45本に加え、文庫版の「おまけ」9本&「あとがき」を収録。あなたの心の中でうごめく「曖昧な感情」に、「曖昧なまま」そっと寄り添ってくれる沢山の言葉たち―最果タヒ初のエッセイ集が待望の文庫化! 心の中にめちゃくちゃ言葉が渦巻…

十代に共感する奴はみんな嘘つき/最果タヒ~十代にとって世の中は戦場~

《内容》 女子高生の唐坂和葉は17歳。隣のクラスの沢くんへの告白の返事は「まあいいよ」。いつもヘッドフォンをつけていて「ハブられている」クラスメイトの初岡と、沢の会話を聞きながら、いろいろ考える。いじめのこと、恋愛のこと、家族のこと。十代のめ…

遠い声 遠い部屋/カポーティ~大人の世界に何一つ希望を見出せないまま大人に近づいていく恐怖~

《内容》 父親を探してアメリカ南部の小さな町を訪れたジョエルを主人公に、近づきつつある大人の世界を予感して怯えるひとりの少年の、屈折した心理と移ろいやすい感情を見事に捉えた半自伝的な処女長編。戦後アメリカ文学界に彗星のごとく登場したカポーテ…

草の竪琴/カポーティ~草の穂たちはあの丘に眠るすべての人の物語を知っている~

《内容》 両親と死別し、遠縁にあたるドリーとヴェリーナの姉妹に引き取られ、南部の田舎町で多感な日々を過ごす十六歳の少年コリン。そんな秋のある日、ふとしたきっかけからコリンはドリーたちと一緒に、近くの森にあるムクロジの木の上で暮らすことになっ…

ここから世界が始まる/カポーティ~人生で大切なのは若さでも富でもなく美しいもの~

《内容》 「早熟の天才」はこうして誕生した。グレニッチ高校の文芸誌に掲載された7作を含む、思春期から二十代はじめにかけて執筆された未発表作品14篇をセレクト。出自を隠して白人学校に通う少女、死を目前にした孤独な老婆―社会の外縁に住まう者たちに共…

叶えられた祈り/カポーティ~叶えられた祈りには責任が伴う~

《内容》 ハイソサエティの退廃的な生活。それをニヒルに眺めながらも、そんな世界にあこがれている作家志望の男娼。この青年こそ著者自身の分身である。また実在人物の内輪話も数多く描かれていたので、社交界の人々を激怒させた。自ら最高傑作と称しながら…

暇と退屈の倫理学/國分功一郎~生きることはバラで飾られねばならないが飾るためにはコツがいる~

《内容》 暇とは何か。人間はいつから退屈しているのだろうか。答えに辿り着けない人生の問いと対峙するとき、哲学は大きな助けとなる。著者の導きでスピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなど先人たちの叡智を読み解けば、知の樹海で思索する喜びを発見…

猫を棄てる 父親について語るとき/村上春樹~文化的雪かきは親子の歴史から始まる~

《内容》 時が忘れさせるものがあり、そして時が呼び起こすものがある。ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた。―村上文学のあるルーツ。 なんという私的な…

我々は、みな孤独である/貴志 祐介~私を殺した人を見つけてくれますか?~

《内容》 探偵・茶畑徹朗の許にもたらされた、奇妙な依頼。「前世で自分を殺した犯人を捜してほしい」と言う依頼人・正木栄之介は八十歳に近いが、一代で企業を築き上げた傑物らしく未だ矍鑠としている。前世など存在しないと考える茶畑と助手の毬子は適当に…

夜の樹/カポーティ~彼女は私の壊れたイメージの総体であり、彼女を殺すのは私なのだった~

《内容》 ニューヨークのマンションで、ありふれた毎日を送る未亡人は、静かに雪の降りしきる夜、〈ミリアム〉と名乗る美しい少女と出会った…。ふとしたことから全てを失ってゆく都市生活者の孤独を捉えた「ミリアム」。旅行中に奇妙な夫婦と知り合った女子…

彼女の思い出/逆さまの森/サリンジャー~初恋を叶えるためには相手を幽閉するか自分もおかしくなっちまうしかなかった~

《内容》 サリンジャーの輝けるエッセンスを示しながら、本国では出版されないままの中短篇を集成!これが最後の「9つの物語(ナイン・ストーリーズ)」! いくつかの映画の題材になるなど、今なお注目を集める伝説の作家J.D.サリンジャー。 第二次大戦前に留学…

続 氷点/三浦綾子~包帯をまいてやれないのなら、他人の傷に触れてはならない~

《内容》 辻口病院長夫人・夏枝が青年医師・村井と逢い引きしている間に、3歳の娘ルリ子は殺害された。「汝の敵を愛せよ」という聖書の教えと妻への復讐心から、辻口は極秘に犯人の娘・陽子を養子に迎える。何も知らない夏枝と長男・徹に愛され、すくすくと…

氷点/三浦綾子~自らのアイデンティティーを失ったとき、人はどう生きる?~

《内容》 ある夏、北海道旭川市郊外の見本林で3歳の女児が殺される。父親、辻口病院院長の啓造は出張中、母親の夏枝は眼科医の村井の訪問を受けている最中の出来事だった。夏枝と村井の仲に疑いを抱いた啓造は、妻を苦しめたいがために、自殺した犯人の娘を…

積木の箱/三浦綾子~地獄とは、もう愛せないということだ~

《内容》 親と子、教師と生徒の絆を深く描く問題作。旭川の私立中学校に赴任した教師の杉浦悠二は、生徒のひとり、佐々林一郎の暗い表情が気になっていた。じつは一郎は、実業家の父を持つ裕福な家の息子であったが、姉だと信じていた奈美恵が父・豪一の愛人…

戦争童話集/今江 祥智~生を絶対肯定するのはいつだって戦争の物語だった~

《内容》 「わたし、馬と話ができるのよ…」あのこはそういった。村の遠くでサイレンがなり、高い空に、きれいな鳥みたいな飛行機が、いくつもいくつも町へむかって飛ぶのが見えた。町が空襲にあったのは山あいの村からあのこが消えた夜のことだった。日本が…

水木しげるのラバウル戦記/水木しげる~一致団結とか挙国一致とか、言葉とは希望や願望でしかないのだ~

《内容》 太平洋戦争の激戦地ラバウル。水木二等兵は、その戦闘に一兵卒として送り込まれた。彼は上官に殴られ続ける日々を、それでも楽天的な気持ちで過ごしていた。ある日、部隊は敵の奇襲にあい全滅する。彼は、九死に一生をえるが、片腕を失ってしまう。…

本当に強い人、強そうで弱い人 心の基礎体力の鍛え方 /川村則行~もし私が私じゃなかったらきっと今よりはマシな人生だったに違いない~

《内容》 職場で、家庭で、友人関係で……なんとなく”生きづらさ”を感じているあなたへ。「心が強い」とはどういうことだろうか? 「心の基礎体力」の鍛え方の第一歩は、自分の弱さを受け入れること。自分を知り、心と体の関係を知れば、強く生きるコツが見つか…