深夜図書

毎日23:30更新の書評ブログです。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

屍鬼/小野不由美~カインとアベル~

≪内容≫

人口わずか千三百、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習と同衾する外場村。猛暑に襲われた夏、悲劇は唐突に幕を開けた。山深い集落で発見された三体の腐乱死体。周りには無数の肉片が、まるで獣が蹂躙したかのように散乱していた――。闇夜をついて越して来た謎の家族は、連続する不審死とどう関わっているのか。殺人か、未知の疫病か、それとも……。超弩級の恐怖が夜の帳を侵食し始めた。

 

 

独断と偏見によった書評を綴っていきます。

まず第一に思ったのはこれはホラー小説ではありません。

根本は旧約聖書に登場する「カインとアベル」が軸になっています。

ざっくり説明しますとカインとアベルはアダムとイヴの子供で

カイン(兄):農家

アベル(弟):羊飼い

で神様に貢物をする際に、兄は収穫物を弟は羊の初子を捧げるが神様はアベルの貢物だけ受け取りカインの収穫物には目もくれなかった。

その後カインはアベルを殺害した。

詳しくはwikiとかに書かれてますので気になる方は是非見てみて下さい。

 

なぜカインはアベルを殺したのか?

屍鬼はここから始まってる気がします。

 

屍鬼はかなりの登場人物が出て来ます。後は田舎特有の地名、格差、村の歴史等。私は1巻で挫折しそうになったので、まずアニメを見ましたw

もう誰が誰やねん。地名か苗字かわからん。

と思ったので先に視覚から入れましたw

そうすると人物も大体の村の地図というかどこに何があるのかというのも分かってかなり読みやすくなりました。オススメです

 

小説における主人公核は医者「尾崎敏夫」と寺院の若御院「室井清信」の二人。ちなみに室井さんは小説家でもあります。「屍鬼」というのは室井さんが作った造語であり、村では「起き上がり」と呼ばれる伝記有り的な感じです。

 

そして村に災厄を齎しにやってきた屍鬼の首領「沙子(すなこ)」。沙子は室井さんの小説を読んで外場村を知り、沙子の野望である「屍鬼の村」を作るべくやってきます。

もちろん人を殺して。

 

沙子は家族と称するグループで来るのですがそこには人間もいます。

まず屍鬼は人を殺さないと生きていけない訳ではありません。

人間は屍鬼に血を吸われ死んだ後必ず起き上がるわけではありません。

遺伝的なもので両親が起き上がれば子供も起き上がる率は高いようです。

なので起き上がるか分からないから人間のまま沙子と共にいることを選択した人です。

 

屍鬼は意志を持っています。

生前の記憶も性癖も道徳もそのままで起き上がります。いや、起き上がってしまいます。死んでいるから呼吸は必要ないのに、走れば息が上がり、喘ぎ、荒くなる。

まるで人間です。

 

屍鬼になった人々は十人十色の選択をしていきます。

「殺戮を楽しむ者」「性癖を解放する者」「良心に苛まれる者」・・・

生きてる間の禁忌が許される存在になったと楽しむ者・・・

家族と離れたくなくて家族も道連れにする者・・・

家族を人質に取られ友人に手をかける者・・・

そして、人を襲わないと心に決め飢餓に苦しむ者・・・

 

屍鬼になるかは選べません。屍鬼にならずに死ねれば良かったと思う者が多数だと思います。起き上がってしまえば、人を襲わねば生きて行けず、一度死んでいるのに恐怖や悲しみも苦しみも人と同じに感じてしまう。

二度死ぬ恐怖を味わわなければならない。残酷だなと思います。

 

次々死んでいく村人を救うべく村で唯一の医者、敏夫は幼馴染である静信と奔走しますが二人は袂を分かちます。

 

村を助けるべく屍鬼を狩ると決めた敏夫。

村人も助けず屍鬼も助けず傍観し続ける静信。

 

静信は最後の最後まで何も決断しません。人を傷付けるのは駄目だ。屍鬼もなりたくてなった訳じゃないんだから傷付けては駄目だ。という精神のようです。

 

敏夫は一般的に正しい、理論的というのでしょうかね。そうゆう判断です。一人でも多くの命を救う為に自分の奥さんが起き上がるのに賭け、起き上がった瞬間から殺す為に人体実験をしていく。苦しみも悲しみもあるから叫び、涙を流しても黙々と確実に殺す為に傷付けていく。

 

そんな敏夫を非人道的だと怒り、非難し、拒絶する静信。

屍鬼を殺すためには杭を心臓に打ち込み出血多量で殺すか、首と胴体を切り離すという残酷な方法しかない。人体実験の有様を見て嫌悪感を露にし立ち去っていく。

 

村を救う為に既に屍鬼に殺された奥さん一人を非道な方法で殺した敏夫を拒絶し

自分が生きるために(おそらく)何万人も殺してきた沙子を非難出来ない静信。

 

たくさんの村人が死に、若御院である静信は何度も葬儀を行ってきた。悲しんできた。胸を痛め、原因を探すため奔走し、残された人々を励ましてきた。聖者のように。

なのに、いざ屍鬼を狩る方法が見つかり現実に向き合うとなると目を背けてしまう。

私には敏夫のせいにしてこれから惨劇になると分かりつつ逃げてるだけとしか思えませんでした。

敏夫が村人に説明し、自分が「でも屍鬼だって心があるんです」なんて言ったって通用しないことは静信には分かっていた。自分が異端であり、世界と調和出来ないことを。

 

何が正しいかというのはものさしがありません。大多数の道徳観が一般的な正義になっていると思うのです。

実際私が外場村に住んでいたら敏夫を支持したと思います。

敏夫は村の外に現状を伝えなかった事を静信に自分がイニシアチブを取りたいからだと責められ認めますが、私には静信がいかにも正論を言ってるようで的外れな事を言ってるとしか思えず理想主義の現実逃避な静信には言われたくないと思いました。

 

話がカインとアベルに戻りますが、

アダムとイヴは林檎を食べて追放されますよね?

罪人となった訳です。

そしてその二人の子供カインとアベル、そして他の人々。

人類みな罪人の子供となりました。

神様は罪人には何も求めていないのです。ただ神様が決めた貢物、秩序を守ればいい。それ以上でもそれ以下でもなく。

どんなに愛しても認められず、どんなに憎んでいても認められる。基準は秩序を守るだけ。神は形式だけを認め、個々の感情など求めていない。

そう悟った時のカインの絶望。

寺院の一人息子として生まれ、個人の人柄や感情などは求められず優秀な御院になることだけを求められている事に絶望した静信。

 

アベルを殺し、神に見放され、カインは絶望から逃れた。

求めるから傷付く。神の寵愛を求める故にどう足掻いても得られない現実に嘆く。

放たれた荒野でカインはやっと満たされた。

 

では何故アベルを殺さなければならなかったのか。

静信によると、もともとカインには弟はいなかったとの解釈で、アベルは自分であり、殺したのは自分自身。殺されたのも自分自身。となっている。

アベルは絶望から生まれた自分自身であると書かれています。

 

きっと静信にとって沙子はアベルなんだと思います。

静信は大学生時代にリストカットをしたが理由は自分で分かっていない。分からないまま寺院を継ぎ演技をしてきた。

別に優しくないわけでもないし、悲しみも慈悲深さも感じてはいるがどこか自分だけ調和していないという孤独を感じていた。

 

そこに現れた沙子。自分の小説を「よく分からない」と言い困る村人たちとは違い理解し、興味を持ち近づいてきた沙子。すでに荒野に放たれているにも関わらず満たされず神の寵愛を求め続け足掻く沙子。

そもそも屍鬼は人を殺さなくても少しづづ血を貰えれば両方生きていける。

それでも沙子は殺し続ける。

殺し続け、起き上がりを待ち、仲間を作り、帰る場所を作ろうと足掻く。

人を殺すくせに、人恋しくって、傷付く。

 

静信も生きるのが辛かったろうなと思います。

よく中二病って言いますが、私もありましたw

でも、その時は本気で世界といったら大袈裟だけど周りの人が自然に馴染めてる空気にどうも入れない。入ってもなんだか上っ面だけで面白くも無いのに笑ってる自分が演技してる自分を感じてここでいう「調和」に入りきれない孤独のようなものを感じていました。

大人になるにつれて、多くの人は強くなっていくと思います。

人がどうのうではなく自分を軸として生きて行けるようになっていく。

「まぁいいか」で流せるようになったり、人を愛し、愛され、二人の世界というのを築いたり、家庭というコミュニティを自分で作るようになっていく。

 

敏夫には奥さんがいて子供の描写はありませんでしたが、父は他界していて、母と妻という守るべきものがある。

 

しかし静信には居なかった。作中に何度も若御院に嫁が出来ない的な話が出てきます。母もリストカットという過去がある為、静信に言えずという表現がありました。

彼女が居た描写もなかった気がします・・・(うろ覚え)

 

そんな静信が出会った守るべき存在が沙子であったと思います。

村人はもう強いんですね、家族があり、村という社会、規律、絆で結ばれてる。

静信がいようがいまいが関係なく、居ないなら居ないで新たな若御院を作るだけ。

だから屍鬼側についた。

 

人はそこに自分の存在価値というものが欲しい生き物です。

誰かに必要とされたい、認められたい。そう思う生き物です。

 

静信は沙子に出会ってやっと荒野に出れたんだと思います。

辰巳も正志郎もきっと。

 

終盤の屍鬼VS人間はもう人間の方が悪に見えてきます。

アニメなんて死体処理をして血だらけの手でおにぎりを食べるシーンがあるんですが

エプロンで一応拭くんですが取りきれず、でも気にせずその手で食べちゃうんです。

血が海苔に染みこんで見えなくなって、だからまぁいいやみたいな。

しかも周りは死体だらけ。皆も血だらけ。でも平和に「休憩するよー!」って感じですw

狩る男たちも段々手馴れてきます。屍鬼を殺さなければ人間が殺されるという大義名分の元、屍鬼でない人も殺していきます。沙子も嬲り続けられます。

結局一番怖いのって人間だよね

と思ってきます。実際そうですけど。

 

村は焼かれ、静信は沙子と逃げ延び終わります。

 

 

ちなみにアニメ版で主人公格だった結城夏野は小説では起き上がりません。

けど、彼が一番の被害者なのには違いありません。

小説ではさらっと終わってますが、彼に自分を重ねてしまう人は多いのではないかなと思います。

私は家族を大事に思っています。でも家族が来ても招かないかもしれません。

でももし親友が来たら。

親友が生前のまま私の名前を呼んで助けてくれと言ってきたら

私はきっと招待してしまうと思います。

 

一番胸が痛くなった文章

「いいんだ、何となくおれ この村から出られないような気がしてたんだ」

ごめんと謝る徹に言った夏野の最後の言葉。

夏野が冷たいのは家族への苛立ち、村への苛立ちもあったと思うけど、もし誰かと深く仲良くなってしまったらこの村から出るという決意が鈍ってしまうと思ってたからじゃないかなと思います。

だから徹に心を開いてしまった時点でこんな日が来るんじゃないかと思ってたのではないかな・・・と思えてしょうがない私です。

 

とても深く色んな視点で心揺さぶられまくるお話でした。

時に敏夫になって、次は静信になって、はたまた恵になったりしてまた読み直したいと思います。

 

ただ、めっちゃ時間かかります!!!

連休取らないと・・・

マンガ版も出てるようなので、時間がない人はマンガ版だと一気に読めそうですね!