深夜図書

毎日23:30更新の書評ブログです。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

怒り/吉田修一~悪人と同じくどうにもならない悲しみややるせなさとともに信じるという本質を問う話~

   

≪内容≫

殺人事件から1年後の夏。房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!

 

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個人的に予告2の方が好き。

 

あの悪人のチーム再び!!!!

という事で映画凄く見たいです。でももう手遅れの様です。

 

悪人の時、小説と映画でほぼ変わりなかったので今回の怒りもそうかと思うと見たくてたまりません。

でも見た後目が腫れるのが必至だろうと思うので何ともDVDまで待つか・・・。

 

 

ずばりテーマは「怒り」ではなく「信じるとは」です。

 

愛してるフリして信じていない。

傷付きたくないから信じきれない。

信じていたのに裏切られた・・・。

 

「信じる」口にしたら簡単なのに、綱渡りのように脆く儚い感情。

悪人と同じく後味すっきりしない系。

それでも「悪人」と同様、胸に迫る小説です。

 

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沖縄・千葉・東京編と三篇に分かれています。

それぞれに謎の男が現れる。

果たして殺人犯はいるのか・・・。誰なのか・・・。

 

東京編~傷付きたくないから信じきれない~

f:id:xxxaki:20161211181738j:plain妻夫木×綾野剛

 同性愛者の優馬(妻夫木)がハッテン場と言われている24時間営業のサウナで出逢ったのが謎の男、直人(綾野剛)

無理矢理ことに運んだ優馬は居場所のない直人に自分の家に泊まるよう勧める。

なぜだか直人が気になってしかたない優馬。

優馬を女で一つで育て上げてくれた母に迫る死。

その母に寄り添う直人。

 

しかし、直人の頬にはテレビで見た殺人犯と同じホクロが二つ並んでいた。

そして優馬の知り合いに連続で空き巣が入る。

その知り合いの住所を優馬はスマホに入れていた・・・。

直人への不信感が募った優馬はついに直人へ詰め寄る。

「なんかあるだろ?お前のこと、疑ってんだぞ。泥棒扱いしてんだぞ」

優馬の言葉を直人は鼻で笑った。

そして「疑ってんじゃなくて、信じてんだろ」と真顔で言う。

なぜか優馬は何も言い返せない。

「分かったよ。なんか言ってほしいんだよな。だったら言うよ。『信じてくれて、ありがとう』これでいいか?」

 

自分が仕事に行ってる間、直人がどんな生活をしてるか優馬は分りません。

直人はスマホさえ持っていなかったから優馬が持たせた。そこにはいつまでたっても優馬しか登録されていなかった。

 

優馬は自分が同性愛者であることを後ろめたく思っていた。

女手一つで苦労して育った結果が同性愛者なんて・・・そういう世間の目が嫌だった。

 

半年も一緒にいた直人が帰って来ない。何の脈絡もなく。

犯人は未だ逃走している。そんな時、あの薄暗い発展場で声をかけてきたバカがいたとしたら?バカは自分の家に来いと誘い、そのまま身を隠せる場所まで提供してくれる。金がなくなれば、このバカの友達の家に空き巣に入る。バカの友達なんてバカに決まっている。このバカは騙されてるのも知らずに本気で自分を好きになる。こっちはこのバカを適当にあしらいつつ、やりたくなれば昔の女とも会っていたし、それがバレても「妹だよ」と言えば、バカはその嘘を信じる。笑ってしまうが、このバカは俺と一緒に墓に入ることまで考えている。こっちが話を合わせてやると、嬉しそうにする。本当に嬉しそうな顔をする。

(省略)

実の弟がホモで、おまけに殺人犯を匿っていたなどと世間にバレれば、堅い職業勤めの兄は確実にクビになる。友香も花音も路頭に迷う。

そんな弟は憎まれる。

ただの弟ではなく、ゲイの弟はその何倍も何十倍も憎まれる。

 この後警察から「直人を知っているか」と電話が来たが「知らない」を突き通してしまう。

 

直人を信じるよりも自分が傷つくことが怖い。

直人との関係を知られて幻滅されたくない。

直人が殺人犯かもしれない・・・

 

人の過去なんて変えようがない。

だけど優馬には自分と半年一緒にいた直人だけじゃ信用出来ない。

 

空き巣の犯人が捕まり、殺人犯が捕まり、そのどこにも直人はいない。

直人が女と会ってたカフェで優馬は真実を知ることになる。

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「このカフェで会った時、直人、初めて優馬さんと暮らしていることを私に教えてくれたんです。優馬さんと一緒にいると、なんだか自分にも自信が湧くんだって

「・・・ずっと隠れて生きていくしかないと思ってたけど、今、一緒に暮らしてる優馬さんはそうじゃないって。堂々としてるんだって。一緒にいると自分まで強くなった気になれるって

 

両親を事故で亡くした一人息子の直人は親戚と上手くいかず施設で暮らしていた。

彼女とは施設で出会い、兄妹の様に育った。

その施設でゲイであることがバレ、いじめられてしまう。

都内の旅行会社に就職し、国家資格を取ろうとした矢先、心臓疾患が見つかってしまう。

手術でどうこうという問題ではなく薬と付き合っていくしかない病気だった。

 

あの警察からの電話は

上野公園内で死後かなり時間の経っている直人が発見された時にかかってきたものだった。

財布や携帯などの持ち物はすべて奪われていた。

唯一ポケットにあったメモ紙には、優馬と彼女の連絡先だけが残っていた。

死亡解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止だった。

 

その事実を知った優馬は泣いた。

俺みたいな奴のこと信じるなよ・・・・・。なんで、俺みたいな臆病もののこと、信じるんだよ・・・

ごめん・・・ごめん・・・

 共同墓地に入れられた直人を母と同じお墓に入れた優馬。

やっと兄に打ち明けられた直人への想い。

直人が優馬を信じていたという事実が優馬を強くした。

前へ背中を押してくれた。

 

あぁ、書いてて涙が止まらない。

人を信じられる人って強い。

信じられていると感じられれば強くなれる。

だけどその信じるってことが難しい。

信じれば裏切られるかもしれないから。

信じなければ裏切りはないから。

 

大嫌いな自分を好きになってくれた直人。

臆病な自分の中の強さを見つけてくれた直人。

 

東京編が一番好きです。

悲しいけど、暖かい。

優馬の様に世間に縛られている人はかなり居ると思う。

私もそう。

嫌われたくない。幻滅されたくない。イヤな奴になりたくない。

そこから一歩先に歩きだした優馬。

悲しいけれど、母も直人も笑って見守っているような気がして。

病室で二人で笑っていたみたいに天国で仲良く笑いあってるような気がして。

優馬の人生はここから始まっていくんだろうな。

 

千葉編~愛してるフリして信じていない~

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渡辺謙×宮崎あおい

 

ちょっと頭の弱い愛子(宮崎あおい)が新宿歌舞伎町のソープランドで働いている所を保護された。一人娘の愛子を迎えに行く父(渡辺謙)

 

愛子は流されやすい。

それ故に歌舞伎町でも男に騙されソープに売られたり

彼氏がいても言い寄ってきた人と寝てしまったり。

 

大切な娘に幸せになって欲しいと願う父。

ソープランドから連れ帰って来た娘は自分の会社の部下、田代(松山ケンイチ)と恋仲になっていった。

幸せになって欲しい。

だからこそ気になる部下の素性。

部下が以前働いていたという「サザンロッジ」という宿が検索しても見つからない。

 

そして愛子の友人である明日香の子供の一言で父の疑心は加速する。

テレビに映った殺人犯に驚き

田代の兄ちゃんが映ったと思った!」と言ったのだった。

 

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「私とお父ちゃんさえ黙ってれば、田代くんここにいられるでしょ?私、自分で分かってるもん。私なんかが普通の人と幸せになれるわけないって。でも田代くんみたいなひとなら・・・

・・・田代君くんみたいな人なら、私のそばにずっといてくれるかもしれないって。だって田代くんには行く所がないんだよ。田代くんにはここしかないんだよ」

 

結局、俺は愛子をちゃんと育てられなかったのだと洋平は思う。どこの親が、自分は訳ありの男にしか愛されない、などと言う娘の言葉を受け入れられるだろうか。ちゃんとした親なら受け入れられるはずがない。ちゃんと娘を育てられた親なら、そんな言葉を受け入れられるわけがない。

 

 借金を残して死んだ両親の代わりにヤミ金に追われているという田代。

その為偽名を使っていると説明するが、今までの暮らしについては教えてくれない。

不安になった愛子はついに警察に電話をしてしまう。

 そして消える田代・・・

 

「田代くんから信じてくれって言われたのに!私、信じるって言ったのに。お父ちゃんが信じてくれなかったからだ!愛子のこと、お父ちゃんが信じてくれなかったからだ!」

「お父ちゃんが・・・、もしお父ちゃんが私みたいな人間でも、好きになってくれる人はいるって!その人は優しくて立派な人だって!愛子は幸せになれるって!そう言ってくれたら・・・、私、電話なんか・・・、警察に電話なんか・・・」

 

 「お父ちゃん、お前のこと、信じてたぞ。お前は幸せになれるって信じてたぞ」と言ってあげられれば、どんなに楽かと思う。しかし、こんなに打ち拉がれている自分の娘を、もうそんな嘘で騙したくない。自分は娘を信じてやれなかった父親なのだ。

 

 一人娘の愛子の幸せを願う反面で幸せになれないんじゃないかという疑念がいつも取り巻いている父。

 

この愛しているけど信じていないという構図はかなり身近にあると思います。

 

「愛しているから」「大切だから」「心配だから」

こういう綺麗な言葉で「信じていない自分」を正当化してる人。

 

そして質の悪いことに「信じていない自分」に気付いていないから無意識に相手を傷つけている。

 

「こんなに愛してるのに!」

「こんなに大切に思っているのに!」

「こんなに心配してるのに!」

 

でもこれって自分にも言えることで

自分を信じられていないと

 

告白されても「なんで私なの?」

褒められても「何か裏があるかもしれない」

信用されても「何か居心地が悪い・・・」

 

自分の身近な人を信じるということ。

自分自身を信じるということ。 

 

一番出来てそうに見えて簡単そうに見えて難しいこと。

当たり前に出来ていそうだから出来てなくても気付かない。

 

住所不定な人間、訳アリな人間を信用出来ないのは理解がたやすい。

でも家族や自分を信用出来ないのは理解されにくい。

 

本当に目の前の人を信じられているかな?

家族を信じているかな?

そして自分は信用されてるかな?

 

身近な人を信じる難しさ、大切さを問いかけてくる章です。

信じれば信じられた方は強くなれる。

だからまず信じる強さが欲しい。

 

沖縄編~信じていたからこそ許せなかった~

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広瀬すず×佐久本宝×森山未來

 

山場です!

男関係にだらしない母を持つ泉(広瀬すず)はその為に転校を繰り返した。

そして今回の転校先となった沖縄で事件に巻き込まれてしまいます。

 

泉を波留間島へとボートで送る同級生の辰哉は民宿の息子。父は沖縄の反対運動に熱心でそんな父に嫌気をさしている。

無人島で泉が出会った田中(森山未來)を民宿で雇う。 

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無人島で暮らす田中とたまたま出会った泉。

田中から自分の事を口外しないように言われた泉は律儀に守る。

 

那覇市に辰哉と買い物に行った時にそこで田中と会い、三人で食事に。

その帰り道、一人で歩いていた泉は米兵に襲われてしまうのだった・・・。

 

自分が那覇に誘わなければ・・・と自分を責める辰哉は泉という事は伏せて田中に相談する

だってさ、同じような事件がこれまでにも何度もあって、それでも何も解決しなくて・・・、もう解決なんかしないんじゃないかって、みんな心のどっかで思ってて、でもやっぱり解決させなきゃいけなくて・・・。

何度も勇気を出してみんなで立ち上がってるのに、見てくれるのは最初だけで、いつの間にか誰も見てなくて。簡単に立ち上がれるなんて思ったら大間違いで、みんなほんとに勇気振り絞って立ち上がってるのに。

・・・結局、誰も助けてくれない。

 

泉のこと、父のこと、辰哉は父が熱心に活動している運動が何の解決にもなっていないことを知っている。

そして泉が警察にも誰にも言わないでほしいと被害者が泣き寝入りするしかない現実を目の当たりにしてしまった。

 

そんな辰哉の悩みに田中は「俺はお前の味方だ」と言った。

その言葉で辰哉は自分には何も出来ないと諦めるのではなく何か出来るのではないかと前を向くことにしたのだった。

 

田中=殺人犯

事件の後、塞ぎこんだ泉だったがふと田中と会った無人島に行きたくなった。

そこで田中が過ごしていた廃墟に行き、反対側へ行ってみた。

 

目の前に白壁があった。

半分は崩れ落ちているが、まだ二階部分まで残っている箇所もある。その白壁に赤いペンキで「怒」と書きつけられてあったのだ。 

 

恐怖と田中の異常性を感じた泉は辰哉に一緒に来てもらうことにした。

その時、警察が沖縄まで来ていた。

このラクガキをした田中が殺人犯であることが泉には分かっていた。

 

ラクガキを見た辰哉は言った「泉ちゃんは心配しなくていいから」と。

 

辰哉、田中を刺し殺す

白壁に「怒」と赤い文字があった。田中が書いたものだと直感で分かった。その時、何か感じたはずだが、今となってはもう思い出せない。泉の元に戻ろうとして、ふと足が止まった。白壁の左下、雑草で隠れたところに何か書かれているのが見えた。赤いペンキではなく、黒マジックで書かれた文章だった。

辰哉はゆっくりと近づいた。生い茂った雑草を手で掻き分ける。

 

「米兵にやられてる女を見た 知ってる女だった ウケる どっかのおっさんがポリスって叫んで終了 逃げずに最後までやれよ米兵 女気絶 ウケる」

 

今、自分が何を読んだのか、理解するのに時間がかかった。あの時、公園に倒れていた泉の姿が浮かんだ。「やめて・・・、誰にも言わないで」と泣いた泉の声が蘇った。

 

 自分がポリスと叫んで米兵を追いかけたけど捕まえられなかったと辰哉に悲しそうに言っていたのに、実は田中は傍観していた。

しかも「ウケる」などとバカにしている。

 

辰哉は刺した理由を「ムカついたから」を貫いて、泉との「誰にも言わない」という約束を守る。

しかし、不審に思った泉はもう一度ラクガキを見る。

そして辰哉が見つけたラクガキを発見した。。

 

怒りとは

 

「電車遅延で 駅員をドーカツ 顔真っ赤 ウケる 人身事故なんだから仕方ねーだろ おっさん」

 

「ファミレスで店員に苦情 ブツブツ ブツブツ かっこ悪 馬鹿夫婦 家で食え 家で」

 

田中が残したメモ。

沖縄の廃墟に残したようなラクガキと同様、激怒している他人を見下す内容。

 

田中は辰哉に接していたようにこういう気持ちを上手に隠して他人と付き合えるけど、それがいきなり爆発してしまうんじゃないかと思う。

 

作者が言っているように田中の殺人の理由も、こういう思考回路の原因も何一つ描かれていないし、この話が訴えているのは「信じるとは何か」だから、動機とか、とにかく田中に関して考えるのは無意味に思う。

 

結局、泉は迷いながらも警察に自分の事件のせいで辰哉が田中を刺したのだと説明した。警察には自分が言ったことを言わないでほしいと伝えたが、島にはあっという間に噂は広がり、また泉は転校することになった。

 

そして刑務所にいる辰哉に手紙を送り続けるも、「もう忘れてほしい」という返事だった。

辰哉は警察に殺人の動機を「信じていたから許せなかった」と証言している。

 

 

信用って重い。

信用一つで幸せを手に入れられる人がいるんだから、それだけの重みがある。

 

そして信じて裏切られた場合、裏切った相手だけではなくて、信じた自分も許せなくなる。

 

人を信じられなくなるのは悲しい。

でも信じたからこそ生まれる憎しみもある。

 

全てが綺麗なユートピアはあり得ない。

 

生きてく中で全ての人を信じることはしなくていい。

だけど、愛する人、愛したいと思う人は、信じたい。

信じていいんだって思える自分になりたい。

そう思った作品でした。

 

映画観たい・・・。