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書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】リップヴァンウィンクルの花嫁~皆アリスに話しかけるけど、誰もアリスの帰り道は知らない~

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《内容》

舞台は東京。派遣教員の皆川七海(黒木)はSNSで 知り合った鉄也と結婚するが、結婚式の代理出席をなんでも屋の安室(綾野)に依頼する。新婚早々、鉄也の浮気が発覚すると、義母・カヤ子から逆に浮気の罪をかぶせられ、家を追い出される。苦境に立たされた七海に安室は奇妙なバイトを次々斡旋する。最初はあの代理出席のバイト。次は月100万円も稼げる住み込みのメイドだった。
破天荒で自由なメイド仲間の里中真白(Cocco)に七海は好感を持つ。真白は体調が優れず、日に日に痩せていくが、仕事への情熱と浪費癖は衰えない。
ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。

 

原作はこちら↓

「リップヴァンウィンクルの花嫁」の記事を読む。

 

強く儚い者たち

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 主人公・七海は自分で判断するより先に相手からの言葉を受け入れてしまう性格で強く言われると従ってしまうし、口車に乗せられてしまう。優しい物言いに穏やかなおっとりした空気を持っているため教師を目指すも「声が小さい」という理由で生徒からいびられ、解雇を命じられる。しかしネットでの家庭教師は向いているのか、生徒から「先生じゃないと嫌だ」と言われるほど。

 

 彼女はSNSで知り合った男と結婚を決めるが、結婚式の参列者が少ないことを咎められ何でも屋に代行を頼む。その時出会った安室によって彼女の人生は大きく変わっていく。

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 今回の代行をきっかけに事あるごとに安室に相談する七海。その悩みを種に色んな手を広げ、稼ぎ、七海という役者を手に入れた安室。そしてこの時点で安室から一つ忠告があります。

 

「例えば僕がその気になったら皆川さんは一時間で落ちますよ。
皆川さんが僕に落とされたらそれは僕のせいじゃない。
皆川さんが自ら落ちるんです。」

 

そしてチョコを渡すシーンで七海が隣に座ると

 

「気づきませんか?この距離。
あなたが詰めたんですよ。」

 

「誰かに凭れかかりたいとか満たされたいとか気をつけたほうがいいですよ。」

 

 安室は「これから起きる事はあなたが選んだことなんですよ。」と何度も言葉を変えて発信します。しかし七海は言葉の裏を読むということはしない人間です。

 ですがこの安室という男も曲者で「人を利用してやろう」という悪意が前面に出てるわけではない。けれど「自分の行いで破滅に向かう人がいても使えるものは使う」という思考回路。


 結局のところ「誰かに凭れかかりたいとか、満たされたい」とか他人に求めて自分で動かない人は、利用されても自分で利用されることを選んでいるという事。
 しかし、誰かに寄りかからなければ生きていけない人間もいる。そういう人にとって安室は助けてくれる善き人だ。自分で考えなくても仕事をくれるし、困ったときにはアドバイスをくれる。それが自分で動ける人から見たら悪人だとしても、動けない人にとっては有難い


貴様,ニュータイプか

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あたしにはね、幸せの限界があるの。
もうこれ以上無理ーっていう限界。
たぶんそこらの誰よりもその限界がくるのがはやーいの。
アリンコより早いんだ。その限界がね。
だってさ、この世界はさぁ、ほんとは幸せだらけなんだよ。
みんながよくしてくれるんだぁー

 

でもさ、そんな簡単に幸せが手に入ったら私壊れるから。
だから、せめてお金を払って買うのが楽。
お金ってさ、たぶんそのためにあるんだよ。きっと。
人の真心とかさ、やさしさとかがさ、あんまりそんな、はっきりくっきり見えちゃったらさ、人は、だってもうありがたくてありがたくてさ、みんな壊れちゃうよ。
だからさ、それみんなお金に置き換えてさ、見なかったことにするんだよ
だからやさしいんだよこの世界はさー
だからあたしは、お金払って買うんだ
お金出して買うの
だってもう限界なんだもん。

 

 七海はその後、夫の不倫が原因で家を出る。無一文で無職の七海は安室の斡旋である屋敷のメイドになる。そこは真白という女性が一人で住んでいる屋敷だった。住み込みのメイドとして働くうちに七海と真白は仲良くなっていく。

 

そして一緒に死んでくれる?と七海に聞いて一人で死んでいった真白。

 

 実は一緒に死んでくれる人間を1千万で安室に探してもらっていたのだ。そこで提供されたのが七海だった。一緒に眠りにつき目を覚ますと、冷たくなっている真白がいた。その姿を見て泣き崩れる七海。
 今までだって、たくさんの悲しいことがあった。騙され、罵られ、いびられて、だけどそれでもなんだか受け入れられた。だが真白との出会いで初めて心を動かされたんじゃないかと思う。


 お金ありきのサービスは人の心がないと言われる。けれど他人から代価を求められない優しさを貰うと疑念や気持ち悪さが残る。真白のいうようにお金に置き換えて納得しているんだと思う。人の優しさとか真心とか目に見えないものをお金に置き換えれば納得出来る。これはすごく哲学的というか倫理的というか、そういう話だと思う。

 
 彼女は安室と出会い転落し真白と出会い失って、それで初めて現実で戦う力を得たのではないかと思う。

 なんだか最後はアリスを思い出してしまった。アリスを導く、白ウサギやチシャ猫、いかれ帽子屋・・・などなど。皆アリスに話しかけるけど、誰もアリスの帰り道は知らない

不思議の国のアリス (角川文庫)

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「不思議の国のアリス」の記事を読む。

 

 自分の居場所も行きたい場所も帰る場所も、自分にしか分からないのだ。それが現実であれ非現実であれ、望まなければ存在しないのだ。

リップヴァンウィンクルの花嫁 [DVD]

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 Coccoはいい。

強く儚い者たち

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 岩井 俊二監督作品↓

www.xxxkazarea.com

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