深夜図書

毎日23:30更新の書評ブログです。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】リップヴァンウィンクルの花嫁~180分間のダークファンタジー自分の世界を作るのは自分~

《内容》

舞台は東京。派遣教員の皆川七海(黒木)はSNSで 知り合った鉄也と結婚するが、結婚式の代理出席をなんでも屋の安室(綾野)に依頼する。
新婚早々、鉄也の浮気が発覚すると、義母・カヤ子から逆に浮気の罪をかぶせられ、家を追い出される。
苦境に立たされた七海に安室は奇妙なバイトを次々斡旋する。最初はあの代理出席のバイト。次は月100万円も稼げる住み込みのメイドだった。
破天荒で自由なメイド仲間の里中真白(Cocco)に七海は好感を持つ。真白は体調が優れず、日に日に痩せていくが、仕事への情熱と浪費癖は衰えない。
ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す。

 

岩井俊二監督の作品。
タイトルからどんな内容かとかわからないけど
それだけでワクワクしちゃいます。

スワロウテイル」ではCharaが出演していましたが今回はCocco
それだけで期待感すごいなぁ。

ただ180分という長さに一瞬固まりましたが
その前に「64」前編・後編で計240分見てるので長くは感じませんでした。
サスペンスではないけど飽きない180分でした。

 

ジャンル的にはダーク・ファンタジーなのかなぁ?と思う。
パンズ・ラビリンス」の現代版っぽい印象を受けました。
あと、後編の真白との生活からは「ノルウェイの森」を思い出させます。

 

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 主人公・七海 

 

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主人公・七海は自分で判断するより先に相手からの言葉を受け入れてしまいます。
強く言われると従ってしまう。
口車に乗せられてしまう。
優しい物言いに穏やかなおっとりした空気を持っている。
教師を目指すも「声が小さい」という理由で生徒からいびられ、解雇を命じられる。
しかしネットでの家庭教師は向いているのか、生徒から「先生じゃないと嫌だ」と言われるほど。

七海は兵士としては弱い。
でも戦いに敗れた兵士や傷ついている兵士を受け止めて抱きしめてあげることが出来る。
それが彼女の強さでもある。
終始騙されっぱなし、挙句の果てに知らないうちに「心中」の相手に宛がわれるという大変な役回り。
だけど、彼女は生きていた。
それが彼女の強さである。

 

 謎の何でも屋・安室

 

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SNSで知り合った婚約者との結婚式の親族が足りないと言われてしまった七海。
「結婚式って憂鬱。まず親族が足りない」と呟いたところ、今時は親族を雇うことが出来るサービスがあるとある男性から返信をもらう。
そしてその男性とは綾野剛扮する安室だったのだ。

これをきっかけに事あるごとに安室に相談する七海。
その悩みを種に色んな手を広げ、稼ぎ、七海という役者を手に入れた安室。

そしてこの時点で安室から一つ忠告があります。

「例えば僕がその気になったら皆川さんは一時間で落ちますよ。
皆川さんが僕に落とされたらそれは僕のせいじゃない。
皆川さんが自ら落ちるんです。」

そしてチョコを渡すシーンで七海が隣に座ると

「気づきませんか?この距離。
あなたが詰めたんですよ。」

 

「誰かに凭れかかりたいとか満たされたいとか気をつけたほうがいいですよ。」

 


この忠告の後、七海は転落していきます。
安室からの「これから起きる事はあなたが選んだことなんですよ。」という最後通告です。

この安室という男が曲者で。
「人を利用してやろう」という悪意が前面に出てるわけではない。
けれど「自分の行いで破滅に向かう人がいても使えるものは使う」という思考回路。

真白が転落したのもきっかけは安室だったんではないか?と思うほど。
人の不安に一瞬で入り込む。
そしてジワジワと侵していく。
けっして「クリーピー偽りの隣人」のような支配欲に塗れているわけではない。
逃げようと思えば逃げられる。
結局のところ「誰かに凭れかかりたいとか、満たされたい」とか他人に求めて自分で動かない人は、利用されても自分で利用されることを
選んでいるという事。
しかし、誰かに寄りかからなければ生きていけない人間もいる。
そういう人にとって安室は助けてくれる善き人だ。
自分で考えなくても仕事をくれるし、困ったときにはアドバイスをくれる。
それが自分で動ける人から見たら悪人だとしても、動けない人にとっては有難いもの。


貴様、ニュータイプか。

 

 Cocco×真白 

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「あたしにはね、幸せの限界があるの。
もうこれ以上無理ーっていう限界。
たぶんそこらの誰よりもその限界がくるのがはやーいの。
アリンコより早いんだ。その限界がね。
だってさ、この世界はさぁ、ほんとは幸せだらけなんだよ。
みんながよくしてくれるんだぁー」

 

 

「でもさ、そんな簡単に幸せが手に入ったら私壊れるから。
だから、せめてお金を払って買うのが楽。
お金ってさ、たぶんそのためにあるんだよ。きっと。
人の真心とかさ、やさしさとかがさ、あんまりそんな、はっきりくっき見えちゃったらさ、人は、だってもうありがたくてありがたくてさ、みんな壊れちゃうよ。
だからさ、それみんなお金に置き換えてさ、見なかったことにするんだよ
だからやさしいんだよこの世界はさー
だからあたしは、お金払って買うんだ
お金出して買うの
だってもう限界なんだもん。」

 

 

そして一緒に死んでくれる?と七海に聞いて
一人で死んでいった真白。

本当は一緒に死んでくれる人間を1千万を安室に渡して探してもらってたのに。
真白は本当は一緒に死んでくれる人を探してたわけじゃなくて
自分に寄り添ってくれる人を探していたのかもしれない。

冷たくなっている真白を前に泣き崩れる七海。
今までだって、たくさんの悲しいことがあった。騙され、罵られ、いびられ。
それでもなんだか受け入れられた。
だけど、真白との出会いで初めて心を動かされたんじゃないかと思う。

真白が死んだ後、誰かの結婚式で家族ごっこをした父と母と弟がまた家族として葬儀に現れる。
お金で雇われ、偽名でその日限りの家族として過ごしただけなのに、自ら葬儀に来たのだ。
真白という一瞬の仮初の娘の死を悲しんで。


お金がなきゃサービスしないとなると冷たいとなる。
けれど他人から代価を求められない優しさを貰うと疑念や気持ち悪さが残る。

真白のいうようにお金に置き換えて納得しているんだと思う。
人の優しさとか真心とか目に見えないものをお金に置き換えれば納得出来る。

これはすごく哲学的というか倫理的というか、そういう話だと思う。

 


最後の最後で七海は大きな声で「ありがとうございましたー!!」と安室に礼を言う。
最初はボソボソと小さな声でしか話せなかったのに。
そして新居でのネット家庭教師をする姿にも目が輝いて髪もあげて、積極的になった印象。
目に見える婚約者との指輪を捨てて真白と交換し合った架空の指輪を嵌めた薬指を見る七海。


彼女は安室と出会い転落し、真白と出会い失い、それで初めて現実で戦う力を得たのではないかと思う。

なんだか最後は「不思議の国のアリス」を思い出してしまった。
アリスを導く、白ウサギやチシャ猫、いかれ帽子屋・・・などなど。
皆アリスに話しかけるけど、誰もアリスの帰り道は知らない。

自分の居場所も行きたい場所も帰る場所も、自分にしか分からないのだ。
それが現実であれ非現実であれ、望まなければ存在しないのだ。

 

不思議な180分の世界。
あなたが本当に望んでいるものは何なのか。

もしかしたら分かるかもしれません。