深夜図書

毎日23:30更新の書評ブログです。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

リップヴァンウィンクルの花嫁/岩井俊二~幸せに壊されるんじゃなくて、やさしさの中で壊れたい~

≪内容≫

声の小さな皆川七海は、派遣教員の仕事を早々にクビになり、SNSで手に入れた結婚も、浮気の濡れ衣を着せられた。行き場をなくした七海は、月に100万円稼げるというメイドのバイトを引き受ける。あるじのいない大きな屋敷で待っていたのは、破天荒で自由なもうひとりのメイド、里中真白。ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出すが…。岩井俊二が描く現代の嘘と希望と愛の物語。

 

映画版も良かったけど、小説の方がやはり好きだなぁと思いました。

www.xxxkazarea.com ↑映画版の感想

 


原作を映画やアニメから見るとやはりその役者さんの顔や声や雰囲気で想像してしまうので入り込みやすいですね。
昔は大好きなマンガがアニメになると嫌いになっちゃう子供だったので、意識して漫画とアニメは切り分けてたんですが、大人になってから分別がつくようになりました。

 

とはいえ、文字だと風景、人、声、雰囲気・・・そういうものを全部自分で想像するという楽しみがあるなと。

 

真白以外はそこまで執着ないですけど、真白はもうCoccoが離れません。

役者が色んなキャラクターになれる真っ白なキャンバスだとしたら、アーティストは何色にも侵されない真っ黒なキャンバスなのかもしれない。

 

この物語の中にいるのは里中真白で、Coccoは紛れもなく真白なんだけど、それでも100%真白ではない感じがするんです。

 

彼女が主演の映画、「KOTOKO」も見たけど

KOTOKO 【DVD】

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 演じている筈なのに、これは、Coccoのドキュメントじゃないのに、役者に感じないのは彼女がアーティストだからという簡単なことじゃない気がする。

 

 

人生とは奇想天外なもの

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人はみんなそうやって安全で平和な場所を願うわけです。でも奇想天外を望む本能は誰にでもあるんです。その衝動をバーチャルなもので癒しているのが現代人ってところでしょうか。ドラマやニュースもスポーツもゲームも、みんな自分たちの中から摘出して皿の上に置いてみた奇想天外本能細胞です(安室)

 

自分の結婚式で頼んだ親戚代行サービス。

今度は自分が雇われる側で、赤の他人の嘘の親戚に成りすます。

不謹慎と分かっていても楽しい。

 

七海は思う。

旦那に新居を追い出され、泣いて、どこに行けばいいかわからなくて。

絶望のど真ん中にいた筈なのに、私は悲しんでいても、私の細胞は喜んでいた。

起き抜けの血色のやたらいい肌。

バイトが決まった時の心からの喜び。

そして、親戚代行サービスのスリル。

 

一見安全で平和な結婚、専業主婦。

そこから引きずり出したのは安室。

だけど、安室も言ったように「ご自身にその気があるから落ちるんです」が真理。

 

七海が乗った船は転覆して、そこからは安全も平和も手探りで一見危ない橋に見えたとしても、女がその道を選び、その道で生き生きと生まれ変わっていく。

 

人生は奇想天外なもの。

 

誰かのお守で一生が終わるなんてつまらないじゃないか。

 

私の奇想天外本能細胞はいつ、どんな場面で喜んでるのか知りたいな。

自分がもう迷子になっちゃって、出口も見つからなくて、不思議の国のアリスの最後の自分の足元以外の道が全て消えてしまった時、とりあえず寝て、朝顔を見てみよう。

 

これから始まるおそらく前途多難であろう人生にこそ細胞は喜ぶのかも知れない。

 

 

やさしさの中で壊れるなら

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真白と七海の最後の夜のシーン。

映画ではぼんやりと納得したんですが、本ではっきりわかりました。

映画版の感想でも書いたんですが、ここでも引用文を載せておきます。

ちょっと長いです。

あたしね、コンビニとかスーパーで買い物してる時にね・・・

 

・・・お店の人があたしの買ったものを、袋に入れてくれてる時にね、その手をじっと見つけると、その手は、あたしのためにさ、せっせとお菓子やお総菜をさ、袋につめてるんだよ

 

あたしなんかのために。

せっせと袋につめてるんだよ。そのお店の人がさ。こんなゴミみたいなあたしのためにさ。それ見てると胸がぎゅっとしてね、苦しくなって、泣きたくなる。

あたしにはね、幸せの限界があるの。

これ以上無理って限界。

たぶんね、そこらの誰よりもすぐに限界が来るの。

ありんこよりちっちゃいの。その限界が。

この世界はさ、ほんとは幸せだらけなんだよ。みんながよくしてくれるんだよ。宅配便のオヤジは重たい荷物をさ、あたしのここって言うところまで運んでくれるよ。雨の日に、知らない人がカサをくれたこともあったよ。

でもあんまり簡単に幸せが手に入ったら、あたし壊れるから。

だからせめて、お金払って買うのが楽。

お金ってさ、そのためにあるんだよきっと。人のさ、マゴコロとかやさしさとかがさ、あまりにもくっきり見えたらさ、それはもうありがたくてありがたくて、人間は壊れちゃうよ。だからさ、それをみんなお金に置き換えてさ、そんなものは見なかったことにするんだよ。

七海、そんな目で見つめないで。

壊れそうになるよ。(真白)

 

真白は安室に「誰か一緒に死んでくれる子を探してほしい」という依頼をします。

だけど、真白は一人で死んだ。

「一緒に死んでくれる?」という真白の問いに「はい」と答えた七海がいたのに。

 

映画を観た時は、七海が隣にいて手を繋いでいてくれて、真白の真剣な願いを真剣に受け止めてくれて、それで満足したから一人で死ぬことにしたんだと思った。

 

だけど、本を読んで真白はお金では買えないやさしさに出会ったから壊れちゃったんだって思った。

真白は死んだんじゃなくて壊れちゃったんだって思った。

 

「七海、そんな目で見つめないで。

壊れそうになるよ。」

 

やさしさの中で壊れるなら天国にいけるような気がした。

天使のように純白なウエディングドレスのまま空に昇っていくような。

 

 

リップヴァンウィンクルの花嫁は目覚めて、真白が既に死んでいることを知る。

そこはもう昨日までの世界とは別の世界だった。

 

 

ここのシーン、美しいなぁと思います。

切なくて、理由もないのに涙ぐんでしまう。

 

お金でやさしさが買えると思ったから、こういう思考回路になったんだと思う。

真白の背景はほとんど書かれていません。

どう解釈するかは読者次第です。

私は、やさしさの中で壊れて動かなくなるのなら幸せなんじゃないかって思いました。

お金で買えないやさしさは自分が望んだ人からのやさしさだと思ったから。

 

恋人や友人がそばにいるのにお金は発生しないでしょう?

じゃあ恋人がそばにいるのは何のため?

それを考えると答えが見つからなくて、だけど最後に七海の目に見つけられたから壊れてしまえ!と思えたんじゃないかなって・・・。

 

 

ありがとう、おやすみ

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七海と真白が初めて会った日、いきなり消えた真白に送ったメッセージ。

@カムパネルラ

真白さん今どこですか?

 

@カムパネルラ

ありがとうございました。おやすみなさい。リップ・ヴァン・ウィンクルさん。 

最後まで既読がつかなかったメッセージ。

まだ、メイドとして出会う前に送ったメッセージ。

SNSのやり取りをしなくても、その後出会ったふたり。

 

そして、真白が死んで七海がもう一度開くと、あの時自分が送ったメッセージだけが残っていた。

それは、今の七海の心を映すように。

 

 

映画版の時は気付かなかったところです。

これが小説のもつ力なのかなって感動しました。

 

映画と小説で二回も感想を書こうと思うなんて初めてなんですが、これが読書力が上がってきたということなんでしょうか。

 

映画の方が親切でやさしいです。

自分で想像しなくても、役者や音楽や風景が「こうですよ~」と導いてくれる。

 

だけど、最近は最初に映画を見てしまうと自分の想像する楽しみが半減してしまう!と思ってしまいます。

映画のみの作品ってほとんどないじゃないですか。

ほとんどに原作があるのでまずはそれを読んで、自分で思いっきり自分だけの想像をして、補足もしくは他人の想像を知るために映画を見るようにしたいなぁと思います。

 

逆に原作読んで「?」って部分が映画で「なるほど!そういうことだったのか!」と気付く時もありますからね。

 

是非、このお話知りたいなって人は、まず原作を読んであなただけの世界を作ってみてください。

 

リップヴァンウィンクルの花嫁

リップヴァンウィンクルの花嫁