深夜図書

毎日23:30更新の書評ブログです。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】アメリカン・ビューティー~あなたが思う美しさってなんですか~

≪内容≫

サム・メンデス監督がアメリカ郊外の町に住む中流家庭の崩壊をシニカルに描き出した異色のドラマ。リストラされた中年男・レスターは、ある日娘の親友に一目惚れしてしまい、何とか彼女の気を引こうとするが…。“ハッピー・ザ・ベスト!”。

 

とてもシリアスな作品。

どんどん堕ちていく展開とは裏腹にキャラクター達は明るくコミカル。

これぞ大人が見る映画って思いました。

自分が本当に欲しかったものは今の生活だろうか、自分が心から笑えていたのはどんな時だったっけか・・・ふと後ろを振り返ったことがある人は、少なからず胸にくるものがあると思います。

 

 

 

"美"ってなんだ?

f:id:xxxaki:20170301111411p:plain私があなたの年の頃は・・・

 

上昇意識の高い母・キャロリンは堕落した夫と反抗的な娘に悩まされる。

彼女は娘に良い暮らしをさせてあげていると思っているが娘はわがままばかり。

自分が貧乏で辛かったから娘には同じ思いをさせたくないと頑張っているのに、当の娘から「イカれた両親!」と罵られてしまう。

 

美しさってなんでしょう。

イケメンや美女。

田園風景とキラキラ光る都会の夜景。

有名ブランドのバックとお母さんがミシンで作った名入りの布カバン。

キャロリンにとっては、庭にバラを植え立派な一軒家に住み高級な家具に囲まれた暖かい家族・・・それこそが彼女の中の"美"なのだと思います。

 

エロティシズムの書評に

【書評】エロティシズム~やっちゃだめ(禁止)と言われるとやりたくなる心理(侵犯)~ - 深夜図書

「美」とは、より動物的でないものと書きました。

つまり文明社会、よりよい暮らし、より便利で最先端に囲まれた生活。

私たちはすでに衣食住の中で美しい生活をしていると言えます。

服を着て、靴を履いて、裸になるときはお風呂くらい。

食べ物はスーパーに売っている肉や魚。狩りはしません。お金で解決。

家に関しても屋根があり、土間ではなく畳やフローリングの上に立ち、トイレがある。

 

そこから更に匂いを消す努力をし、毛を失くす努力をし、便利さよりデザインを重視した生活をしていく。

 

生活感がない空間ほど高級感があります。

田舎が無条件で落ち着くのは生活感が溢れているからだと思います。

動物性を排除した空間で過ごす三人は、禁止された生活に多大なストレスを感じています。

後々、三人とも性行為に進展していきます。(一番激しいのがキャロラインだという皮肉。)

結局人は動物性を完璧に排除すると生きていられないという風に思いました。

だって私たち、動物的な行為で生まれてきたんだし・・・。

 

 

ジャパニーズ・ビューティー

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これアメリカの話なんですが、日本でも言えるよなぁと思うのです。

誰もが「人よりいい暮らし」をするために、なるべくいい企業に就職したり、安定を求めて公務員になったり、年収の高い男性を求めたり・・・。

だけど、主人公レスターのように大衆的な「美」に窒息感を覚えてリタイアしていく人もたくさんいる。

 

自分なりの「美学」を持っている人はどれだけいるだろう。

電車の中で女性を突き飛ばしてまで座ろうとするおじさん。

自分の不快感のままに満員電車なのに相手を攻撃する人。

女性らしさのために女性らしさを捨てる車内での化粧。

電車に乗っていると誰もが余裕がないんだなぁと思う。

満員電車で立ちながらでも化粧する人(しかも化粧水から)、食べ物を食べる人、香水の匂いがキツイ人、イヤホンの音漏れが激しい人・・・。

これでストレスなく働こうなんて無理な話だと思う。

 

「いい暮らし」の為にどれだけの消耗が必要なのか。

その「いい暮らし」ってなにが「いい」んだっけか。

これだけ消耗してでも欲しかったものだっけ。

そもそも私は本当に「美しいもの」を知っているんだろうか。

知らずに、世間の「美」を鵜呑みにしているんじゃなかろうか。

 

 

 

美に殺される。

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僕のハートは風船のように破裂しかける

 

この映像は白い袋がただ空に舞い上がったり落ちたりを繰り返している映像です。

これを撮影したのは隣人のリッキー。

リッキーはレスターの娘ジェーンにこう言います。

この日は今にも雪が降り出しそうで
空気がぴりぴりしていた
その感じ・・・分かる?


宙を舞う白い袋
遊びをねだる子供のように僕にまとわりついた
15分もの間・・・

 

その日僕は知った
すべてのものの背後には
生命と慈愛の力があって何も恐れることはないのだと
何も

隣人のリッキーの家族構成は「可哀相なお母さん」と「海兵隊大佐のお父さん」、そしてジェーンと同じ学校に通うリッキーの三人。

何よりも規律を重んじる父フランクは実はゲイだった。

そのことを隠すためにゲイを毛嫌いしている。

恐らく愛のない社会的体裁の為だけに結婚した両親。

リッキーはその全てを知っていた。

社会的な立場が崩れることを極端に恐れる父に育てられたリッキーは、隠れて麻薬の売人として生きる。

彼には、マジョリティである「美」がマイノリティを殺すことを知っていたから。

そして例えマイノリティでも、全ての人間には命と慈愛(情)が与えられているからマイノリティのままでも生きていけるし、そのことでマジョリティに脅える必要がないということに気付いたのだ。

 

フランクは麻薬の交渉をしているリッキーとレスターを見て、リッキーがレスターに性的行為をしてお金をもらっていると誤解した。

リッキーは誤解であるにも関わらず、その意見を肯定し父の呪縛を解き放とうとした。

その後フランクは密かに心を寄せていたレスターの元へ向かいいきなり唇を奪うが、ゲイではないレスターは拒否する。

フランクが解き放たれたのは一瞬で、すぐに社会的な地位のために自分がゲイであることを知ったレスターを銃殺するのだった。

 

この白い袋の映像をリッキーは「一番美しい作品」と言っています。

この世で目にする美の数々
それは僕を圧倒し
心臓が止まりそうになる

リッキーにとっての"美"は自然のことなんだと思います。

人が人の作った常識や理想に捉われて生きていく中で得たものに"美"はなくて、自分の意思がどれだけマイノリティでも批判されることでも、ピリピリした空気もおかまいなしにはしゃぎまわる白い袋のように素直で自然体であることが"美"なのだと。

 

そしてレスターのいう

美しいものがありすぎるとそれに圧倒され

僕のハートは風船のように破裂しかける

 というのは、"作られた美"のことだと思います。

「これが美しい」「これが新時代の暮らし方」とか美女とか色々。

世の中には「いいなぁ欲しいなぁ羨ましいなぁ」と思わせるものがたくさんあります。

そういう「美しいもの」がありすぎると、本当に大切にしたいものが分からなくなってしまう。

美女に惑わされたレスターは最後の最後に本当に大切な家族のことを想います。

 

 

 

 たわ言に聞こえるだろう?

大丈夫

いつか理解できる。

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