≪内容≫
佐藤泰志の小説を、山下敦弘監督がオダギリ ジョー主演で映画化した人間ドラマ。妻に見限られ、故郷の函館で職業訓練校に通い、失業保険で暮らす白岩。ある日、同じ訓練校に通う代島とキャバクラに連れて行かれた白岩は、風変わりなホステスに出会う。
「そこのみにて光輝く」がすっごく好きなので観てみました。
好きなキャストが誰ひとりいない映画なので不安でしたが良かった。
蒼井優演じる聡(さとし)役は彼女か、池脇千鶴くらいしか思い浮かばない。
そこのみ~でも本作でも感じたのが、女性が強く、男性が脆いということ。
聡も元妻も逃げない。その場所で地を張って生きている。
逃げる男と追求する女
オダギリジョー演じる白岩は妻と離婚し、会社を辞めて函館に戻ってきた。
原因は妻が寝ている子どもに枕を押し付けていたのを目撃したことがきっかけだった。
函館で職業訓練学校に通う中、クラスメイトに誘われキャバクラに行くと、街で鳥のマネをしていた変な女がキャバクラ嬢として働いていた。
白岩は何でもかんでも曖昧で愛想笑いでやり過ごす。
世間体に染まりきった男。自分で考えることをやめた男。
世間が求める「普通の人間」を遂行していく男です。
仕事して、結婚して子供作って。仕事に励んでたらいつのまにか家では虐待が起きてて。虐待はいけないことだから離婚して、でも離婚って世間体悪いから指輪は外さないままで。
最初、白岩の心理描写はほぼありませんでした。
「あはは~まぁそうですねぇ」とか「うーん・・・あはは。」とか。
本気で笑ってるのか愛想笑いなのかも分からないほど。
とりあえず、その場を乱さないようにやり過ごす毎日。
だけど、聡と出会ったことで白岩に変化が表われます。
それは他人に興味を持つこと。
相手はなぜこう思うのだろう?自分はどう思っているんだろう?
分かりたい。そういう気持ちが芽生えていきます。
ムキダシは壊れやすい
ハクトウワシの求愛知ってる?
がっつすごいよ
空中で足と足をガッッて繋いでさ
ぐるっぐる回りながら落下すんの
・・・ほんとに恋に落ちんの
聡はヒステリーというか、ムキダシです、いろいろ。
白岩を好きになって、でも指輪が気になって、離婚してるって聞いたけど、なぜつけているのかって聞きたいけど聞けなくて、そんでとりあえず寝ちゃって。
でも寝ても不安が消えなくて、ついにキレちゃう・・・という。
私は白岩の方なんですね。
とりあえず相手が望むからそれに応えた、だからその後グダグダ言われても「あなたが望んだんじゃない」と思う人間。
反対の立場なら、自分が望んだんだから自分が気になっても相手が言いたくないことは聞かない。
けど聡は違う。
あんたが好き。だから嘘つかないでよなんで別れたなら指輪してんの、ちゃんと話して。言いたくない?言ってよ、私が気になってるんだから。え?奥さんが虐待?壊れたのはあんたのせいでしょ?あんたのことなんか知りたくなかった。出てって。もう二度と店にも来ないでね!じゃーね!
↑
え!?自分で聞いたのに!?
という展開です。
白岩的な人間が開くには聡みたいに強引に土足で入ってくるような人間に出会うのが一番いいんだと思います。
白岩の元妻は多分、白岩と同じような考えだったから、向き合うことが出来ずに狂ってしまった。
向き合わなければなぜ狂ってしまったのか、そこに自分はどう関与しているのか、どうすれば良かったのか、どうしたらいいのか、何も見つけられない。
聡がキレたときに「そんな目で見ないでよ!バカにしてるんでしょ!」って言って白岩は「そんな目で見てない、バカになんかしていない」って言うんですが、これ私も元彼に何度も言われたし、何度も言った、何度も繰り返した光景でした。
ほんとにね、そんな目で見てないし、バカになんかしていないんですよ。
どうしたらいいのかほんとうに分からなかった。
私なりに向き合っているつもりだったけど、根本が違い過ぎて分かり合えなかった。
私は厭世感とかじゃなくって、あきらめとも違くって、前提として人は一人ぼっちだと思っているんです。
だから恋をしたりセックスをしたりすることで相手の全てが手に入るわけでもないし、手に入れたいとも思わない。
水を差すようですが、指輪が気になるのは分かるけど怒鳴らなくてもいいじゃないかと思う。普通に聞けばいいし、感情をむき出しにすることが愛の深さとか純粋さとか真剣さだとは思わない。
相手の全てを知ることが、自分の不安を消すために相手を追いつめることが、愛だとは思わない。
聡のようにむき出しの人はたくさん傷付くと思う。
でもそういう人は相手もたくさん傷付けている。
彼女が笑うと嬉しいし、彼女の自由さが自分を軽くしてくれるのも分かる。
彼女の恋に対する純粋さも美しいし憧れる。
だけど、私はこういう人間とは二度と関係したくない。
怒鳴られるのも、物投げつけたり暴力的な行為を見るのも、すっごい疲れるから。
むき出しじゃなくたって、言葉が足りなくたって、静かに愛を降らす人もいるから。
鳥のように
↑蒼井優(31)って見えるかー!ってくらいの少女感。
こんな頼りない顔で、下唇噛んで、ほっそい指で一生懸命ドアを掴んでいる裸の女がいたら抱きしめたくもなるわ!同性でもなるわ!かわいいかよ!
彼女は動物園と遊園地が一緒になっているテーマパークで働いているのですが、そこで檻の鍵を開けて動物を放ってしまいます。
籠に閉じ込められたハクトウワシに「早く逃げて!」と言うのですがワシは動かない。
彼女は狂ってると言われているのですが、本当に狂っているのは逃げられると分かっていても逃げないワシか、檻が開いて自由に逃げ回る動物たちか。
世間を厭わない彼女か、世間に囚われた人々か。
俺さ、全然分かってないんだよな
今も・・・何にも分かんないんだよ
お前は自分がぶっ壊れてるって言ってたけど
俺はぶっ壊す方だから
お前よりひどいよな
俺の方が
聡をぶっ壊したのは、彼女を「おかしい」「変わっている奴」と言った社会的に善良な一般市民です。
死んだように生きることを諦めて受け入れる白岩と、拒絶する聡。
柵の中にいるワシ=白岩で、そこから必死に逃げようと手を伸ばすのが聡。ワシはそのあと白岩の窓に一瞬立ち寄り、白岩もボールを柵の外へ飛ばしたところで話は終わる。
まとめるなら、一人では乗り越えられなかった柵も、二人なら乗り越えられる。ってなところでしょうか。
一番いいシーンは、最初は鳥のマネをする聡をあしらっていた白岩が自分から吸い寄せられるように聡の鳥に近づいて行くシーンです。
白岩が固定観念という殻を破った瞬間。
職業訓練学校の人たちも色んな人がいて、色んな考え方があります。
それぞれがそれぞれの空へ飛び立つために生きてる。
飛ぶことを諦めることもできるけど、空はいつも変わらずにある。
誰の背中にも羽根はある。