深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】オーバー・フェンス~僕らは世間という籠の中の鳥~

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≪内容≫

佐藤泰志の小説を、山下敦弘監督がオダギリ ジョー主演で映画化した人間ドラマ。妻に見限られ、故郷の函館で職業訓練校に通い、失業保険で暮らす白岩。ある日、同じ訓練校に通う代島とキャバクラに連れて行かれた白岩は、風変わりなホステスに出会う。

 

同作家さんのこちらがすっごく好きなので観てみました。

そこのみにて光輝く

そこのみにて光輝く

  • 発売日: 2015/02/14
  • メディア: Prime Video
 

「そこのみにて光輝く」の記事を読む。

同じ作者の作品だからだとは思うのですが女性が強く、男性が脆い。どんなに辛くてもその場所で地を張って生きているのが女たちの共通点。

 

普通の男と狂った女

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 オダギリジョー演じる白岩は妻と離婚し、会社を辞めて函館に戻ってきた。離婚の原因は妻が寝ている子どもに枕を押し付けていたのを目撃したことがきっかけだった。函館で職業訓練学校に通う中、クラスメイトに誘われキャバクラに行くと、街で鳥のマネをしていた変な女・がキャバクラ嬢として働いていた。

 

 白岩は何でもかんでも曖昧で愛想笑いでやり過ごす。世間体に染まりきった男。自分で考えることをやめた男。世間が求める「普通の人間」を遂行していく男です。

  仕事して、結婚して子供作って。仕事に励んでたらいつのまにか家では虐待が起きてて。虐待はいけないことだから離婚して、でも離婚って世間体悪いから指輪は外さないままで。

 

 最初、白岩の心理描写はほぼありませんでした。「あはは~まぁそうですねぇ」とか「うーん・・・あはは。」とか。本気で笑ってるのか愛想笑いなのかも分からないほど。とりあえずその場を乱さないようにやり過ごす毎日。だけど、聡と出会ったことで白岩に変化が表われます。

 

それは他人に興味を持つこと。

相手はなぜこう思うのだろう?自分はどう思っているんだろう?

分かりたい。そういう気持ちが芽生えたから。

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ハクトウワシの求愛知ってる?

がっつすごいよ

空中で足と足をガッッて繋いでさ

ぐるっぐる回りながら落下すんの

・・・ほんとに恋に落ちんの

 

 聡は白岩を好きになって、でも指輪が気になって、離婚してるって聞いたけど、なぜつけているのかって聞きたいけど聞けなくて、そんでとりあえず寝ちゃって。でも寝ても不安が消えなくて、ついに白岩に思いの丈を包み隠さずぶつけてしまう。

 

 あんたが好き。だから嘘つかないでよなんで別れたなら指輪してんの、ちゃんと話して。言いたくない?言ってよ、私が気になってるんだから。え?奥さんが虐待?壊れたのはあんたのせいでしょ?あんたのことなんか知りたくなかった。出てって。もう二度と店にも来ないでね!じゃーね!

 

という展開です。

 白岩的な人間が開くには聡みたいに強引に土足で入ってくるような人間に出会うのが一番いいんだと思います。白岩の元妻は多分、白岩と同じような考えだったから、向き合うことが出来ずに狂ってしまった。

 向き合わなければなぜ狂ってしまったのか、そこに自分はどう関与しているのか、どうすれば良かったのか、どうしたらいいのか、何も見つけられない。

 

 聡のようにむき出しの人はたくさん傷付くと思う。でもそういう人は相手もたくさん傷付けている。彼女が笑うと嬉しいし、彼女の自由さが相手を軽くしてくれるのも分かる。彼女の恋に対する純粋さも美しいし憧れる。

 

 個人的には、こういうドラマチックで映画的な人は観る分には大好きなんですが、日常生活ではむき出しじゃなくたって、言葉が足りなくたって、静かに愛を積もらせる人もいると思ってるし、そういう愛がしっくりくるのでちょっと好き嫌い分かれそうな内容かな?と思いました 。

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  聡は動物園と遊園地が一緒になっているテーマパークで働いているのですが、そこで檻の鍵を開けて動物を放ってしまいます。籠に閉じ込められたハクトウワシに「早く逃げて!」と言うのですがワシは動かない。

 聡は街の人に狂ってると言われているのですが、本当に狂っているのは逃げられると分かっていても逃げないワシか、檻が開いて自由に逃げ回る動物たちか。世間を厭わない彼女か、世間に囚われた人々か。

 

俺さ、全然分かってないんだよな
今も・・・何にも分かんないんだよ

 

お前は自分がぶっ壊れてるって言ってたけど
俺はぶっ壊す方だから
お前よりひどいよな
俺の方が

 

 聡をぶっ壊したのは、彼女を「おかしい」「変わっている奴」と言った社会的に善良な一般市民です。死んだように生きることを諦めて受け入れる白岩と、拒絶する聡。柵の中にいるワシ=白岩で、そこから必死に逃げようと手を伸ばすのが聡。ワシはそのあと白岩の窓に一瞬立ち寄り、白岩もボールを柵の外へ飛ばしたところで話は終わる。

 

 まとめるなら、一人では乗り越えられなかった柵も、二人なら乗り越えられる。ってなところでしょうか。一番いいシーンは、最初は鳥のマネをする聡をあしらっていた白岩が自分から吸い寄せられるように聡の鳥に近づいて行くシーンです。白岩が固定観念という殻を破った瞬間

 

 職業訓練学校の人たちも色んな人がいて、色んな考え方があります。それぞれがそれぞれの空へ飛び立つために生きてる。飛ぶことを諦めることもできるけど、空はいつも変わらず上にある。

オーバー・フェンス 通常版 [DVD]

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 誰の背中にも羽根はある。