≪内容≫
伝統あるお嬢様学校「聖マリアナ学園」。転入生・烏丸紅子は中性的な美貌で一躍、学園のスターとなる。その裏には異端児たちの巣窟「読書クラブ」の部長で、容姿へのコンプレックスを抱えたニヒリスト妹尾アザミの、ロマンティックな詭計があった…。学園の創設から消滅までの百年間に起きた数々の事件の背後で活躍した歴代の「読書クラブ」員。その、あらぶる乙女魂のクロニクル。
ニヤニヤしながら読んでしまいました。笑
うーん、桜庭さんの戦う少年少女シリーズも好きだけど、こういうコミカルでファンタジー感があるのも好きなんですよねぇ・・・。
烏丸紅子恋愛事件
寝ぼけて目を開けた乙女心も、たちまち覚醒し、少女がときめく青年たるもの、現実にはいない、少女が演じるからこそ少女に愛されるそれ、その、青年たるものをイメージした。
本書は聖マリアナ学園の読書クラブの歴史であります。
聖マリアナ学園は男子禁制、花の女子高でございます。
本書の記念すべき第一章は、一人の庶民出身という異端でありながらも端正な顔立ちをした孤独な紅子と、成績優秀ながらもスターにはほど遠いかんばせを持つアザミの話です。
アザミは紅子を校内の王子にしようと企み、紅子をいっちょまえの王子様に作り替えていきます。
なにこれ!ポップな禁色!?
読書あるあるだと思うんですが、読んでいる本ってなんとなく内容がカブったりしますよね・・・。まぁ禁色と似ているのは、醜いが頭脳明晰な人間が未熟な美人を意のままにするというところです。
異端ゆえにぼっちだった紅子はアザミの策略により王子様に変身。校内の女生徒から圧倒的な支持を得て、その年の王子に選ばれました。
中身の詰まった醜いアザミと、中身は空っぽだけど美人な紅子。
世間はいつの世も美しい者を求める。
紅子が王子に選ばれたことはアザミに満足感を与えたが、同時にかすかな望みを失ったのだった・・・。
少女たちは、男を野蛮だと拒否するくせに、自分たちの中からそれに代わる代替案を必ず毎年選出する。
王女さまではなく王子さまを造り上げる。
それは世間が求めている男の王子ではなくて、中身が少女だからこそ意味のある王子さま。
女性でもボーイッシュな人っていますが、どこかユニセックスな感じがあってかっこいいなぁ~と思います。
イケメンとは違うなにか。
女性の中の少女を呼び起こす神聖な何か。
哲学的福音南瓜
神など、おらぬ。
悪魔も、おらぬ。
諸君、世界は南瓜の如く、空っぽなのである!
人の心は欲望をもち、欲望は愛をつくり憎しみをつくり時間をつくり国境をひき所有をし自分を軽蔑することを発明しそしてなにより罪深いことに、おぉ神をつくり悪魔をつくった
一番好きな章です。
聖マリアナ学園の創立者である聖女マリアナのお話。
聖女マリアナと無神論者の兄・ミシェールの昔話。
カボチャって種の部分をくり抜くと空洞になりますよね。その様子と、ミシェールの空虚感を繋ぎ合わせるセンスが大好きです。
「病んでいる」よりも「メランコリック」、「空虚」よりも「南瓜」。
物はいいようで、こういう表現が少女感というかゴシック感というかファンタジーというか、そういう世界観を造り上げていて、悲しすぎず、切なすぎず、だけど小さな棘はチクチクとしっかり仕事をしてくる辺り、大好きです。
このお話はネタバレしたくないので、ぜひ創立者が誰なのか、読んでみてもらいたいです。感覚では「ジャングリンパパの愛撫の手」に似たようなものを感じます。
切なくって、甘くって、やさしい。
慣習と振る舞い
この謎の喫茶店『慣習と振る舞い』は、聖マリアナ学園における異形の少女たち、読書クラブOGによって経営されていた。
(中略)
全員の生きる道は、なるほど見事にばらばらであったが、それでも読書という共通項が依然として残されていた。
当時は学園の中でも冴えなくって学園中に忘れられていた読書クラブ。
部員はみんな静かに本を読み、紅茶を飲んで過ごしていた。
特別に派手なことも大きな活動もして来なかったから、地味で輝いた青春ではなかったように思うけれど、おばあちゃんになっても集ってしまう読書クラブの絆はとても感慨深い。
懐かしいあの日の部室のようにカビ臭い書物で囲まれた部屋で読書をする老人たち。慣習も習慣も読書であり、本はどんな道においても常に読まれるのを待っている。
最後の最後がこれまた素敵です。
内容は「読書」というか、聖マリアナ学園の読書クラブの歴代の事件について書かれています。この事件を書く書き手もまた面白いんですね~!
楽しい!ってだけで一日中飽きもせずに遊んでいたような、そんな感覚を呼び起こす作品です。
「青年」に戻って、どうぞページを捲って見てください。
きっと若返ります。
もしくは、読後に若返るかも。