深夜図書

不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

太陽の塔/森見登美彦~愛すべきバカとは反骨精神の持ち主のことである。~

≪内容≫

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

 

 

 私、アニメで好きなのが有頂天家族なのです。

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 人間と狸と天狗の物語。

かわいくて、おもしろくって、ちょっぴり切ない。

こんな物語を書く人は誰なんだろう?と思ったら、なんと原作は小説ということで。著者のデビュー作から読んでみることにしました。

 

 

 

愛すべきひねくれ者の青春

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かつて、私は彼女に恋しているという妄想に惑わされ、ジョニーの暴走を食い止められず、はなはだ見るに堪えない醜態を演じていた。

(中略)

私にとって彼女は断じて恋の対象などではなく、私の人生の中で固有の地位を占めた一つの謎と言うことができた。

その謎に興味を持つことは、知的人間として当然である。

主人公は京都大学の休学中の五回生。

初めて出来た彼女の水尾さんに袖にされたことを遺憾に思い、彼女の研究をすることにした。

これは決してストーカー行為ではなく、彼女の生態を探るのは純粋な研究への熱意である。

 

巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

という紹介文通りの内容です!笑

 

 

この物語は、男臭くて情けなくてちょっぴり切ない物語です。

いやー、面白いです。

暗い本をずっと読んで辛くなったら180度反対側にあるこの本を薦めます。

 

失恋って認めるのに時間がかかる。

立ち直るのに時間がかかる。

その方法は人それぞれで、この物語は一冊を通して主人公の失恋を一緒になぞっていき、最後に主人公が本当の気持ちに落ち着いたところで終わります。

 

だから自分も本気で水尾さんに恋していたような気持ちになってぽろっと涙が出てしまうような気持になりました。

 

 

 

反骨精神を持っている奴は愉快である

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我々は人類を救うことになる絶大なエネルギーを想った。

挫折、失恋、死に至る病、あらゆる苦悩が有益なエネルギーに変換され、自動車を走らせ、飛行機を飛ばし、インターネットは繋ぎ放題、アイドルビデオは見放題となる。

これほど素晴らしい未来はない。 

 THEエンターテインメント!

 

主人公の友人たちもまた恋愛に縁のない学生たちであった。

主人公の愛すべき点は、「フラれた・・・俺はダメな奴なんだ・・・」と落ち込むのではなく、「この俺がフラれるのはおかしい!そう思うだろう!?友よ!!」となり、友人も「そうだ!鴨川に座っている男女を焼き払ってやる!!」という展開になることです。

 

友人たちは一緒になって主人公の研究の手伝いをします。

一緒に彼の失恋を共有しているんですね。なんともいい友人ではないですか。

 

彼らは落ち込むことはあれど、タダでは転ばない。

失恋という痛手さえエネルギーに変えてやるという反骨精神の持ち主です。

こういう人間は心から愉快な存在である。

なぜなら傍にいる人間は心配はそこそこに見守っているだけでいいからです。

 

挫折や失恋でこの世の終わりかと思うほど嘆く人間には、また恋をして失恋したら死んじゃうんじゃないか・・・と心配になり背中を押せなくなりますが、反骨精神を持っている奴には気軽に「よっしゃ!次行こうぜ!」と言えて、傍にいるのが楽なのです。

 

しかも見てるだけで面白い。

愛すべきバカとは反骨精神の持ち主のことである。

 

 

ええじゃないか騒動

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踊り狂う人々は金持ちの人間の家を見つけてあがりこみ、めちゃめちゃに騒ぎ回ったあげく、めぼしいものがあると「これくれてもえじゃないかえじゃないか」と叫びだすのだが、そうなると家主の方も「それやってもえじゃないかえじゃないか」と言うほかなく、そうして人々は何でも持って帰ることができたという。

 

痛快にもほどがある。

恋人たちの聖夜クリスマスイヴにええじゃないか騒動を起こそうとする男たち。

この騒動は思いがけず成功し過ぎたため、自分たちも手に負えず、自ら仕掛けたくせに被害を蒙ります。

このクライマックスは圧巻!

 

クリスマスイヴとは恋人がいる人間からいない人間への暴力である。

恋していることがそんなに偉いのか、と憤る主人公たちは自ら「ええじゃないか騒動」を起こしておいて、「ええわけがない」と不満気です。

 

「失恋したってえじゃないかえじゃないか」「これ(カップルの女性)くれたってえじゃないかえじゃないか」「(道行く女性に)俺と付き合ってもえじゃないかえじゃないか」とはならないわけです。

 

「ええじゃないか」と逃げない、逃げることが出来ない不器用な男たち。

失恋するのは解せないし、女なら誰でもいいわけでもないし、好きじゃない人間とクリスマスイヴだからって付き合うなんてもっと良くない。

 

あぁ・・・俺は水尾さんのことが好きだったんだ・・・と認めざるを得なくなってしまうのです。

水尾さんとクリスマスイヴを過ごしたかったんだ・・・と。

 

ここからちょっぴり切ない展開になっていくのに、背景は相反する気楽な「ええじゃないか騒動」です。

ここに森見さんのサービス精神、エンターテインメント性を感じます。

 

 

人の失恋を笑うなんてご法度なところを、こんなにもユーモアたっぷりに描かれると素直に笑えるし、素直に「頑張ったなぁ」と思う。

恋愛を恥ずべき行為と言いながら美しく書かれていて、小汚い部屋だったり男臭さを感じるシーンはあるものの、全体的にすごくきれいだった。

 

 

悲しいときは、「ま、いっか」と流さないで「ちくしょう!」と思ってとことん突き詰めてとことん悲しんでこそ「傷はいつか癒える」になるのだと思う。

「ええじゃないか」とやり過ごすと、ずっとわだかまりが残るもの。

 えじゃないかえじゃな・・・・ええわけがないっ!!!