≪内容≫
城に現われた父王の亡霊から、その死因が叔父の計略によるものであるという事実を告げられたデンマークの王子ハムレットは、固い復讐を誓う。道徳的で内向的な彼は、日夜狂気を装い懐疑の憂悶に悩みつつ、ついに復讐を遂げるが自らも毒刃に倒れる――。恋人の変貌に狂死する美しいオフィーリアとの悲恋を織りこみ、数々の名セリフを残したシェイクスピア悲劇の最高傑作である。
一番びっくりした&感動したのは読みやすさ。
福田恒存さんすごいです。他のハムレットを読んでいないので比べようがないのですが、すっごく読みやすいです。
ここではハムレット王子の魅力をひたすら書いて行きます。
王子なのにすれているのがたまらない
いや、その反対に、ちょっとした魅力も度をすごすと、事なかれ主義の世間のしきたりに弾ねかえされる。
自然の戯れにもせよ、運のせいにもせよ、つまり、それが弱点をもって生れた人間の宿命なのだが、そうなると、たとえほかにどれほど貴い美徳があろうと、それがどれほどひとに喜びを与えようと、ついにはすべて無に帰してしまうのだ。
生来の酒好き、ギャンブル好き、女好き、男好きっていう"弱点"を持っていると、どんなに世間のために寄付しようがボランティアしようが、幾つもの美点よりたった一つの弱点によってつまはじきにされてしまう。
「そういうものなのだ」としめるハムレット。
王子様のキラキラ感は皆無。
どっちかというと、斜に構えたツンデレみたいな王子です。
そこがたまらなくいいんですね~!!
「僕が守ります!」とかじゃなくて、
「復讐してやるうぅううう!僕はハムレットだぞ!!」
という感じがイイ!!
復讐に燃える王子とか設定からイケイケじゃないですか!
なんなの、シェイクスピア面白いぞ。
自分を甘やかすなァアア!と母に説教する王子
習慣という怪物は、どのような悪事にもたちまち人を無感覚にさせてしまうが、半面それは天使の役割もする。
始終、良い行いをなさるようお心がければ、はじめは慣れぬ借着も、いつかは身についた普段着同様、おいおい肌に慣れてくるものです。
おい!毎晩父を殺した男の部屋に行ってんじゃねーぞ!!
お前の父への愛はそんなものなのか!
お前に染みついた悪魔のような習慣をいきなり変えるのは最初は辛くても慣れるから、今夜はつつしみやがれぇェエエエエエイ!!!
ハムレットとしては、父が死んですぐ再婚した母への不信、幽霊となって現れた父から告げられた真実によって母は穢い存在になっています。
これが恋人であるオフィーリアにも向かいます。
女なんか信じられるか!女は大切にしてもすぐ心変わりする!
お前なんか、お前なんか・・・
尼寺へ行けぇえええええ!!!!
さてこの「尼寺へ行け」ですが、私としては「もしもお前の愛が本物だというのなら、このハムレット一人を想ったまま、他の男のことを何も考えずにすむ尼寺で暮らすことくらい出来るだろう?」というオフィーリアを試す場面だと思ったのですが、他の人の感想では、復讐をするハムレットはオフィーリアはそんな自分ではふさわしくないとおもったからという言葉があってびっくりしました。
というかそもそもオフィーリアのハムレットへの想いがそこまで書かれていないので、悲恋とか説明文にあってもよく分からない。
父の言いなりだし、オフィーリアとオフィ父が話してるのをハムレット盗み聞きしてるし、母による女不信に陥っているハムレットがそんなオフィーリアを見て、信じられるかな。
いや、ハムレットはオフィーリアを好きだったとは思う。
でも父への復讐を誓った今では、その父の敵である王の側近の男の娘というのはどういう風に映るんだろう?
オフィーリアが死んだときには、とても悲しんでいるけれど、なんだかちぐはぐな印象です。
巻末の解題で
ハムレットの最大の魅力は、彼が自分の人生を激しく演戯しているということにある。
(中略)
まず最初にハムレットは無である。彼の自己は、自己の内心は、全く無である。
(中略)
あるのはただ語り動きたいという欲望、すなわち演戯したいという欲望だけだ。
この無目的、無償の欲望はつねに目的を求めている。
その目的は復讐である。
とあったので私は自分の解釈に肩を持つことにする。
この物語は「王子が父の復讐をする話」であり、「復讐を誓った王子の悲恋の話」ではない。
ので、オフィーリアに関しては復讐を誓うまでは熱中していたけど、復讐という目的を得てからは、自分を狂人と見せるための存在くらいになっていたと思う。
一応好きだったから死んだら悲しみます。
過去に愛した人間が死んでも動揺しない冷酷な男という弱点が露呈すれば、これからの復讐に影響するかもしれないし。
・・・というハムレットが私の想像です。
生か、死か、それが疑問だ
こうして反省というやつが、いつも人を臆病にしてしまう。
たくさんの名言が出てくるハムレットですが、私が一番好きなのはこの一節。
反省は大切だけど、それと同時に強力なブレーキにもなる。
ハムレットの愛すべき点は、こうやって脅えているところなんですよね。
どうすればいいんだろう?
どうやって生きればいいんだろう?
死んだら楽なのかな?
死ぬのと眠るのって一緒かな。
でも眠ったら夢見るしな・・・。
そうやって迷いながら日々を過ごす。
復讐を誓って準備が整っても踏み出せず、結局王がハムレットを殺そうと仕組んだ舞台で復讐が成功しちゃって、自分も死んじゃうというオチ。
復讐してやるぅうううう!と意気込むも、その事の大きさにちゃんと脅えている。
物語なのに何かリアルですよね。
復讐までうじうじ悩んだり、お母ちゃんにあたったり、スネてみたり、自分はダメなんだー!と落ち込んでみたり。
なんとも人間らしいハムレットでした。
シェイクスピアの物語は初めて本で読みましたが面白いなぁ。
最初がこんなに面白かったので、これ以上面白い作品があるのか?と不安です。
人の思いは所詮、記憶の奴隷、
歓楽きわまらば悲しみふかし。