深夜図書

不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

姫君/山田詠美~短編集には短編集にしかない魅力がある~

≪内容≫

「母が首を吊ったのを見つけた時、ぼくが、まだ五歳だったのは幸せなことだ。十歳だったら泣きわめいていただろうし、十五歳だったら心の病気にかかってた。今だったらどうだろう。きっと笑ってた。二十歳。もう、ぼくは、人が、おかしくなくても笑うということを知っている」(本文より)。人が人を求める気持ち、コトバにできない寂しさを描いた短篇集。人を愛することで初めてうまれる恐怖、そんな“聖なる残酷”に彩られた、忘れがたい物語。

 

 

なんだか女性作家の作品が読みたくなりまして、初めて山田詠美さんの作品に手を出しました。

 恋愛というより「女」ってものを読みたくて、「姫君」を選んだのですが・・・すごく深かった。

掘り下げるとはこういうことか、と思いました。

 

 

 

検温

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恋愛における高温期と低温期みたいなお話です。

付き合い始めや、まだ相手に対して謎が多いときに感じる高揚なり、わくわく、どきどき、ときめき。

普段の自分では出来そうもない大胆なことまで出来てしまうような熱。

"熱に浮かされた"状態。

こういった時期は全てが楽しくて、どんな障害もスパイスにしかならなくて、ただただ全てがハッピー。

 

だけど、こういった時期は絶対に過ぎる。

好きは残っても、熱が冷めて、なんだか白けてしまったと感じる時期。倦怠期。

 

不倫相手の主人公は現在、男に対しての熱が冷め「私何やってたんだろ・・・」と思っているとき。

そんなとき、ある夫婦に出会う。

そこで、そのご婦人からひとつの告白を聞くのだ。

「・・・苦しいのですか」

 

「いいえ。それは病気になる前からのことですの。あの人と出会ってから、私は、ずうっと、死を隠し持っているのです。あなたもそうしてみたらよろしいわ。そういう女を男の人は、決して捨てないのですよ」

 この「死を隠し持つ」ことがどういうことなのか。

明確な記述はありませんでした。(私は分からなかった)

 

私が思うに、恋の始まりは全身で発熱するから必ず冷めるときがくる。

人間の体温はだいたい一定だから。

だから、その恋が一定に熱を帯びるためには、どこか誰にも分らない部分を死なせる必要がある。

そうすれば死んで冷たくなった場所を温めようと身体は熱を出し続ける。

それは恋の始まりほど熱いものではないにしても、冷めることはない。

 

付き合うってことが、彼(彼女)と一緒にいるってことが、当たり前になっちゃってなんだかつまらない。煩わしい。一人になりたい。

それはどこかを死なせたら楽になるのかも。

でも死なせるって諦めるってことなのか、具体的にどういった感覚なのか分からない。

 

理屈は分かるけど、実践するにはかなり難しそう。

だけど、もしそんな状況に遭遇したら試してみようと思う。

 

 

 

姫君

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支配する側とされる側。

そこに「愛」が生まれちゃったら、支配している側は支配されていて、支配されている側は支配していると同じ。

「愛」が二つを一つに戻す方法なら、SとかMとか、男とか女とか、そんなことは関係ない。

だからこそ、「支配したい、支配はされたくないの」と思っている内は逃げるしかない。そんなお話です。

わたくしは、この汚い小さなライヴハウスに、摩周を馬鹿にしに、悪態をつきに、情けなさを嘲笑いに、才能のなさを軽蔑しに、そして、この上もない極上のやり方で、彼に犯されに来たのだ。

頬が熱くなるのを感じた。

わたくしは、今、彼を奪っているような振りをしながら、自分自身を奪わせている。 

 お姫さまと召使いみたいな関係だった、姫子と摩周。

その関係でいられたなら、続くはずだった同棲生活。

 

その関係を壊したのはどちらかではなく、二人の感情だった。

役割分担を超えて、相手と自分の境界線が曖昧になってきたのだった。

もう一度彼女に出会ったら、その時は、自分の腕の中に拘束する。失ったらどうしようと悩む憐れな自分を受け入れてやる。 

 人を愛するって自分も受け入れることになると思います。

だから自分は自分から逃げるけど、あなたは私を愛してねって言うのは愛にはなれない

自分は自分から逃げるけど、あなたのことは愛してるっていうのもそう。

相手を愛するって自分も愛することだから、自分を大事に出来なきゃ相手を大事にしてるつもりでも伝わらないと思うんです。

「こんなに愛してるのに、どうして分からないの?」というのは、こういった内情があるんじゃないかな~って思っています。

 

恋愛って絶対難しいと思う。

だから結婚とか当たり前という風潮はほんとやめてほしい。

昔はね、お見合いだから!

恋愛結婚ってかなりハードモード&運とかあると思ううううう。

 

 

欲望を擬人化した「フィエスタ」も面白いのですが、一番好きなのは一番最初に掲載されている「MENU」でした。

人に必要にされてしまったら、死ぬ自由すら手に入れることが出来ないのを教えてくれた。そして、ある人間を必要としてしまったら、その人の自由を奪ってしまうことも。

ぼくは生きるのが楽だと思いたい。 

人に必要とされても、死ぬ自由は失われないと思うけど、 ある人間を必要としてしまったら、その人の自由を奪ってしまうというのはすごく分かる。

 

一人では生きていけないけど、特定の誰かを作ってしまったら、その人の重荷になってしまうんじゃないか・・・と苦しい。

だけど、本作の最後「シャンプー」ではこう描かれている。

「重過ぎた。だから、捨てた。でも、いつのまにか、空がそれになり変わってた。よかったよ。重荷なしで生きてくなんて、ぼくには出来ない」

※空はぼく(父)の子供

「MENU」で血だらけになった孤独な主人公を、最後の「シャンプー」で綺麗に洗いあげる。

暗闇から光射す場所へ行くまでの道のりとして、葛藤(検温)、欲望(フィエスタ)、喪失(姫君)があるのではないか・・・と思ってしまうほど、全てが繋がっている短編集。

 

短編集には短編集にしかない魅力があるのだと、初めて思った。