深夜図書

不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

新釈 走れメロス/森見登美彦~おもしろき こともなき世を おもしろく~

≪内容≫

芽野史郎は全力で京都を疾走した――無二の親友との約束を守「らない」ために! 表題作の他、近代文学の傑作四篇が、全く違う魅力をまとい現代京都で生まれ変わる! 滑稽の頂点をきわめた、歴史的短編集!

 

 

これ面白いです!!!!

オススメです!

本書に収録されているのは

  • 山月記
  • 藪の中
  • 走れメロス
  • 桜の森の満開の下
  • 百物語

です。

私は上から三作品は知っていましたが、下二作は未読でした。

しかし本書の中で一番好きになったのは「桜の森の満開の下」です。

「山月記」は学生時代に国語で勉強しましたが、「は?」と思っていたので、新釈で読めて感謝です。

全ての物語の登場人物は森見先生のお家芸ともいえる「腐れ大学生」です。

 

おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり!!

 

 

 

 

山月記

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まだ時間が足りぬと言いながら、俺はただ結果を突きつけられるのを恐れ、逃げ廻っていたに過ぎなかった。何者にも邪魔されない甘い夢を見続けていたいがために、いつ果てるとも知れない助走を続けて、結局俺は自分で自分を損なったのだ。 

 己の強すぎる矜持に己が潰された斎藤秀太郎。

原作だと虎になった李徴ですね。

 

引用文は胸が痛く、自分の心に一番刺さった部分です。

夢は語ったり、見ている方が気持ち良いんですよね。

便利な言葉→「いつか」

 

虎(本作では天狗)になってしまうほどの強い矜持はなくても、自分の中で諦めきれない何かって言うのは多くの人が持っている気がします。

 

だけどそこを明確にしちゃったら、本当は才能がないとか、何者にもなれないとか、夢から醒めてしまうわけです。

夢を見ることは大事。

それでその次はその夢から目を背けないことが大事なのだと思いました。

 

アイドルやプロ野球選手やフィギュアスケートなどのアスリート達は若い時から、夢から目を背けない、夢に突き進んでいく強さっていうのを持っていると思います。

だから輝いて見えるし、自分に直接は関係ないんだけど、応援したくなったり、自分の感情を上乗せしてしまったり、特別な感情を持ってしまう。

 

 

夢から目を背けずに立ち向かっていくほど壁は現れるし、他者の目線も交じってくる。

自分への矜持を持ちつつ、負けない強さを持ちたいな、と強く思いました。

 

 

 

 

 

藪の中

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僕の身のうちでは嫉妬の炎がごうごう燃えて、彼女はその照り返しを受けている。だからいっそう美しいのだ。 

 芥川龍之介の有名な作品の一つである「藪の中」。

本作では、映画サークルの監督が作った「屋上」という映画の主人公とその恋人をめぐる話。

主人公は監督の彼女で、その恋人は彼女の元カレである。

そして「屋上」は別れた男女が屋上で逢引きしながらヨリを戻していく話です。

 

問題は監督がなぜそんな作品を作ったのか?なのか、それとも、なぜ彼女はとても平凡な女の子なのに映画だとより一層輝くのか?の二つを感じました。

 

 

引用文は監督の彼女に対する言葉なんですが、なるほどなぁ・・・って思いました。

恋愛中の相手にベタ惚れ状態の言葉とも思えるし、モテる子は可愛いからという理由以外にも、誰かから猛烈に好かれているという事実がモテる所以になっている気がする。

 

監督の強い思いは彼女を何倍も輝かせる。

ふ・・・深い・・・。

 

 

 

 

桜の森の満開の下

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女を負ぶって黙々と歩きながら、男は自分が確かに掴んでいたはずの世界がどこかへ消えてしまったことを考えました。それを何とか取り戻そうと思っても、男にはもうその在処が分からないのでした。自分と女が過ごした時間のことを想い返し、自分がどこかで考え無しにそれを手放していたのだと考えました。

それが女のせいだと言うことはできず、かといってこの淋しさに耐えていく勇気も男にはありません。

女の意志に抗って、失った何かを取り戻すこともできません。男には何を取り戻せばよいのか分からないからです。

ただただ男は自分が情けなく、消えてしまいたいと思いました。 

 本作で一番好きなお話。

 

主人公はアニメのDVDと古本を買うことが好きで、また小説を書くのも好きでした。しかし彼の書く小説は面白くなく、斎藤秀太郎(山月記の主人公)にも才能がないと一蹴されますが、それでも書くことが好きだからずっと書き続けていました。

 

ある時主人公は桜が咲き誇る哲学の道で女に出会います。

早朝の哲学の道は寒く、こんな場所で眠ってしまったら死んでしまうかもしれない、そう思った主人公は女を家に招待しました。

女は主人公が大学に行っている間に消えていました。

 

それからしばらくして女はまた現れました。

そして、主人公の小説の添削をし始めます。

そして、この女が言うことを受け入れると主人公の小説は大層面白くなっていくのでした。

主人公はそれから女の言う通りに小説を書きつづけ人気作家になりました。

 

主人公と女は結婚し、主人公は富も名誉も美しい妻も手に入れました。

しかしそれでも満たされない。

でもなぜ満たされないのか、なぜ淋しいのか分からないのでした。

 

 

主人公の前に現れた女は桜の妖怪か、それとも妖精か。

女に出会ってから主人公は、女に出会うまでのものは奪われ、与えられたものは女のことを書いて得た富と名声。

ゆえに、主人公が主人公たる、いわゆる"個性"は削がれ、無個性の人気作家という肩書きだけが主人公を象るものとなった。

 

美しくて、悲しい物語。

原作は青空文庫で無料で読めます。

坂口安吾 桜の森の満開の下

原作はもっとおどろおどろしいですね。ですがとても綺麗。美しい。

谷崎潤一郎を思い出しました。

坂口安吾・・・好きかもしれない。

 

あれがほしい、これがほしい、お金さえあれば、あの人さえ手に入れば・・・

そういう欲望が満たされたとき、それと引き換えに自分が自分であるという証を失っても幸せでいられるのでしょうか?

 

自分を持っていたころは、桜の森の満開の下に感じる「孤独」が怖かった。だけど、自分を失くした今は、「孤独」になんの恐怖も感じない。

死んでしまえば死を恐れる必要がないのと同じこと。

 

 私は私でいたいし、私でいられる人と一緒にいたい。