深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】エル・スール~帰りたい、帰れない、戻りたい、戻れない~

≪内容≫

1957年、秋。ある朝、少女エストレリャは目覚めると、枕の下に父アグスティンの振り子を見つける。エストレリャは父が死んだことを悟る。彼女は回想する。内戦下のスペイン、<南>の町から<北>の地へと引っ越す家族。8歳のエストレリャが過ごした“かもめの家”での暮らしが語られる…。父アグスティンを演じるのはスペインの名優、オメロ・アントヌッティ。

 

 

 

エル・スールとは"南"を意味する言葉でした。

南から北に引っ越してきたエストレリャ一家のお話。

主人公は8歳のエストレリャ。

エストレリャが追いかけるのは父の背中でしたが、年齢を重ねるごとに父の神秘性は失われ、エストレリャは混乱し、家族はバラバラになっていく・・・。

 

 

 

 

 

娘から見た父親

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正直観たくなかった、というか観なければ知らずに済んだ・・・と思えた作品でした。

 

 主人公エストレリャはダウンジング使いの父親のことを尊敬していたし、自分の父親なんだからこんなことが出来ても普通なのだ、と思っていました。

 彼女は父親の力を欲しがり、父親の後をついてダウンジングの助手のようなこともしていました。母親との仲は普通だけど、特に記憶はない。あるのは、輝かしい父親の姿だけ。

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エストレリャの初聖体拝受の日に南から父の母親と父の乳母がお祝いのために駆けつけてきました。この南からの風が、エストレリャに変化を起こして行きます。

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数日後、エストレリャは父の秘密を知る。

ひそかに父親を尾行したり観察したりして彼の心情を探ろうとする。

父は度々夜家からいなくなり、朝方誰にも気付かれないように帰ってくるようになる。そんな状態の中、エストレリャも母親も不安が募っていく。

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彼女は家族と距離が離れていく父親への抗議として、ベッドの下に隠れることにしました。ダウンジングができる父親ならすぐに探し出せるし、何より慌ててほしかったのだと思います。娘がいなくなって血相を変えて探す父の姿を見れたら、不安もけし飛ぶと思ったのだと思います。

しかし父親のそんな姿は見れなかったのでした。

そこで彼女は父親からの無言のメッセージを受け取ります。父親は自分よりも深い悩みを抱えているのだという事を。

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全てが輝かしかった幼少期から、父親の家出、母親の病気と重苦しい雰囲気の中で育ったエストレリャはだいぶ影のある少女に成長します。

彼女は同級生から好意を寄せられても、それを受け止める心を持っていません。

彼女は一人で夜の街を歩く。

そんなとき、父親の姿を見つける。

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あんなに素晴らしかった父が、人よりも優れているのが当たり前のような父が、煙草の火さえロクにつけられず、道行く人に頼んで火をもらっている。

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エストレリャは父親を知らずに追い詰めてしまう。

大人になれば、お酒を飲まなきゃ話せないようなことや、全てに誠実でいられないことや、事故を回避するために笑ってしまうことがあるということを、経験則で知れる。

だけど、子供っていうのはまだその経験が出来る場所にいない。

個人的にはその無邪気さが尊いから、それが誰を傷付けても罪とは思わない。

子供から学ぶ、とはそういうこと。

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この悲しいやり取り。

自分が自分の父親とこんな会話をするところを想像しただけでかなりショック。

分かったか分かっていないかで言ったら、家族だろうが分からないでしょう。だけど、分かる自分でいたかったんだよ・・・・大好きな父親だから。

分かり合えてると思いたかったんだよ、せめて父の背中を追いかけてた時だけは・・・涙

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未来に向かう娘と、過去に生きる父は分かり合えない。

この悲しみ。この俳優さんの悲しげな瞳。親が子供を見る目だろうか。

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父親の弱い部分って見たくないんです。他人とか同級生とか恋人ならかまいませんし、男性の方がこういう過去への郷愁ってあるような気がするので、理解はあるつもりなのですが、父親ってやはり特別に感じます。

 

この作品の主人公、語り部はエストレリャなのですが、観る人によって(特に男性)は父親の気持ちがリアルに沁みてくるのかもしれません。

それは現代ではあまりないかもしれませんが、生まれた場所にずっといることができない、という状況になるのが男性だからです。

奪われた、とは言い過ぎかもしれませんが、生まれた場所に帰れないということが、すごくキツイ人もいると思います。

 私の父親は物心ついたときから母親に「お前はこの家にはずっといれないんだよ」と言われて育ったそうで、定年を過ぎて田舎に帰るとか、故郷を懐かしむとかそういう感情は全くないそうです。

 もしも父親が帰りたい、でも帰れない・・・というジレンマを抱えて生きていたら、私はこうやって好きなことに没頭することは出来なかったように思います。他人の人生観てる場合じゃないってなりそうで。

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この映画は父から娘へ受け継がれる物語のようにも思いました。父が生まれ育ったエル・スールに彼女は行くことになります。父の物語を娘が辿って行くのです。

エル・スール HDマスター [DVD]

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 親も人間。超人では、ないんだよなぁ。

たぶん、辿る途中、生きてく中で父親の気持ちに気付くときが来るのだと思う・・・。