深夜図書

不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

潤一郎ラビリンス〈1〉/谷崎 潤一郎~快楽に導くのは究極の我慢~

≪内容≫

荷風の激賞をうけ颯爽文壇に登場した谷崎。―清吉と云う若い刺青師の腕きゝがあった。彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む事であった。官能的耽美的な美の飽くなき追求を鮮烈に描く「刺青」ほか、「麒麟」「少年」「幇間」「飆風」「秘密」「悪魔」「恐怖」の七篇を収める、初期短編名作集。

 

 

今、川端康成と谷崎 潤一郎を読んでいるのですが、言葉の美しさというか表現の美しさというものを感じています。

カポーティやチャンドラーは「文章うまいってこういうことか!分かりやすい!」という感じだったのですが、この二人は分かりやすくはないのですが、綺麗です・・・。現代文学は割と言葉より内容の奇抜さや刺激的なものがあってワクワク面白いという印象ですが、この二人の作品はじめっとしてる印象です。

カラっとはしてない。

 

 

 

 

 

オススメは「飇風」

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 とか言っておきながら、この作品はOOOOOという放送禁止用語らしき文字が多いし、暗いお話なので、谷崎 潤一郎作品を初めて読む人は青空文庫で谷崎潤一郎 刺青を読んでみることをオススメします。

カラーリングとか皮膚薬のパッチテストみたいなものです。

「刺青」を面白いと思えたら大体イメージは沸くと思います。谷崎 潤一郎作品は大体そんな感じです。ちょっとね、男の人の隷属願望的なそういう作品です。

 

 

 それでこの「飇風」。

「ひょうふう」とルビがふってあるのですが、意味はつむじ風ですかね。

これまた面白くて、主人公は直彦というニ十四歳の画家です。

彼はなかなかのイケメンなのですが、恋とか道楽には全く興味を持たず、ただ黙々と絵の勉強を続けていました。その姿にときめく女性も数知れず。

しかし当の本人は、同じ門下生が酒に溺れたり、放埓の結果病気になったりするのを見てばかばかしいと感じていた。

そんな直彦を同級生たちは酔わせて吉原の敷居を跨がせたのがニ十四歳の年の暮れのこと。彼は貞操を破ったその日から少しずつ変わっていく・・・。

 

 

ちなみに本書の中の「悪魔」の一文はこうです。

水洟が滲み透して、くちゃくちゃになった冷たい布を、彼は両手の間に挿んでぬるぬると擦って見たり、ぴしゃりと頬ぺたへ叩き付けたりして居たが、しまいに顰めッ面をして、犬のようにぺろぺろと舐め始めた。

 女が鼻水をかんだハンカチを開き、その粘液を舐める図・・・。

この本もね、食事中は気持ち良くないですね!!

 

なんでこの一文を引用したかというと、谷崎 潤一郎はマゾヒズムの作家だとは分かっていても予想出来ない地点に読み手を連れていく気がしたからです。

こんな、こんな気持ち悪いっ・・・とか思っちゃう文章だと分かっているつもりでも、読み手の気持ち悪い限度を超えてくる。

 

初谷崎ではないので、ある程度ぶっ飛んでるのは承知の上で読み進めるのですが、それでも全ての作品が全然予測出来ない終わりへと連れて行ってくれました。

ちなみにこのハンカチへの蹂躙はこれでは終わりません。まだまだ続きます・・・。

 

 

 ニ十四歳の男が吉原で男になる。

もちろん、そこで女性というものに目覚めて人生が変わる人もいるでしょう。

しかし、内容としては割と普通じゃないですか。男じゃないから熟知してるわけではないですが、まさかこの出来事が酒に溺れたり、放埓して病気になったり、堕落していくことよりも深い闇に堕ちることになろうとは誰が予想出来るだろう。

 

そして、更に気持ち悪いのが、読み手や一般的解釈としてはこの主人公の男を憐れに思うであろう最後が、主人公本人にとっては究極の快楽だったのではないか、というところです。

 

正直かなりゾクゾクしました。

結局のところ、彼らは至って正直なのです。

それが無自覚だろうが、自発的だろうが、流される性質なのです。

もしくは、自分の目の前にそれが現れたら迷わず手を伸ばす人たちなのです。

 

そういう人間でありながら動物的な嗅覚を持っている谷崎作品の人間が私は結構好きなのです。

 

 他人の価値観なんて関係ない。自分の快楽を自分で密やかに楽しむ。そこに恥じらいは要らない。