深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

らせん/鈴木光司~ベストセラーというパンデミック~

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≪内容≫

“リング”の恐怖に連なる、カルトホラー!
幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山の解剖を担当し、冠動脈から正体不明の肉腫を発見した。遺体からはみ出した新聞に書かれた数字は「リング」という言葉を暗示していた。

 

リングってリングだけ読むとカルトだけど、シリーズ読み進めるとSFだよね?って思うの私だけでしょうか。

リングだけ読めばめっちゃ怖い。でもその先に進むとかなりロジカルな説明が待っている。トンネルを抜けたような感覚。一度感じた恐怖は消えないけどね。

 

リングシリーズ順番

1.リング

2.ここ!

3.ループ

4.バースデイ

5.エス

6.タイド

 

前回(リング)のおさらい

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  • 呪いのビデオテープの発生
  • 生存期間は七日間
  • ビデオテープは山村貞子による念写(念像)
  • 山村貞子は強姦後井戸の中に突き落とされ殺された
  • 強姦した男は最後の天然痘罹患者
  • 主人公・浅川は八日目を迎えるも、相棒の竜司は七日目に死亡
  • 竜司の死により山村貞子の遺骨の供養するが呪いの解決方法ではないことが判明
  • 呪いのビデオテープは山村貞子の強い念だけで発生したわけではなく、そこにウイルスの特性(増殖)が加わり、解決方法がダビングであることに浅川は気付く
  • ビデオを観てしまった妻と娘を救うため浅川は車を走らせる
  • 一方竜司は死の間際、ある真実に気付く

 

これがざっとした前作「リング」の内容です。

本作「らせん」はこの世界の続編です。

主人公は竜司の旧友であり、竜司の死亡解剖を担当した安藤 満男

 

語る死体

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竜司の死体解剖を担当した安藤。

竜司は心臓を取り巻く冠動脈に肉腫ができ、その結果血管が閉塞し死亡したようだった。彼の死亡原因はそこだと判断したのだが、竜司の死体にはもう一つ不可解な点があた。咽頭部に生じていた潰瘍だ。

 

「冠動脈の閉塞部分のほうじゃねえんだ。関のじいさまが、さしあたって問題にしているのは。竜司の咽頭部に潰瘍が生じてたのを、おまえ覚えてるか」

 

「ああ、もちろん」

(中略)

「肉眼でチラっとだけなんだが、関のじいさん、あの潰瘍部分を見て、何に似ていると言ったと思う」

 

「やめてくれないか、もったいぶった言い方は」

 

「わかった、わかった。じゃ、言おう。天然痘の患者の潰瘍と似てる、だとよ」 

 

ビデオテープの最初の被害者は「リング」の冒頭で亡くなった浅川の姪たち四人組である。次の被害者は竜司。その四体で呪いは終わるはずだった。

しかし、心不全による死亡解剖の結果、咽頭部に潰瘍が生じていた死体は八体になっていた。

残る四体は浅川の妻と娘

そして妻の母と父であった。

 

前作の主人公浅川は本作では昏睡状態のまま死を迎える。

なぜ、妻と娘の分の二本をダビングして、義両親に見せたのに二人は死んでしまったのか・・・前作「リング」を読んでいる人は分かると思いますが、浅川にとって自分の死より二人を救わなければならないという使命の方が大切だった。

その為に恐怖と戦い、深く暗い井戸の底まで降りて山村貞子の骨を拾ったのだ。

それなのに、最愛の二人が眠るように呪い殺されたという事実は浅川の精神を奪った。安藤は浅川とコンタクトをとるも、浅川はすでに彼岸に向かっていたため何一つ彼の口から助言を得ることが出来なかったのである。

 

新たな感染者の登場

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浅川の義両親は娘達の死により絶望し、ビデオテープをダビングすることなく処理して死んでいった。

大元のビデオテープは浅川の交通事故により破棄され、残すところは竜司の家にあった1本となっていた。

この1本が見つかればこの奇妙なウイルスは絶滅するはずだった。

なぜなら見なければいいからだ。更に言えば記録物を破棄してしまえばそれでいい。

呪われれば救われないのだとしても、まず呪われなければいいに越したことはないのだ。

 

しかし、竜司の恋人であった高野舞は竜司が死の寸前に電話をかけてきたことと、浅川の「本当に、竜司はあなたになにも言い残していないのですね。たとえば、ビデオテープのこととか」という言葉が忘れられず、ビデオテープを再生してしまうのだった。

  

呪いに生じた突然変異

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「リング」だけならカルトホラーだった。

しかしここからは遺伝子学の領域がほとんどです。

 

ただし、科学では証明出来ない不気味な増殖はカルトホラーの領域として残っています。

ビデオテープの増殖は、前項目で書いたとおりほとんど絶滅寸前ですし、増殖スピードはかなり短い。ウイルスの使命が増殖なら、彼らは進化する必要があった。

 

もっと早く、もっとたくさんの人間に感染させなければならない。

ビデオテープではない、何か。

 

感染した高野舞はもちろん死亡。

しかし、彼女の死亡原因は心不全ではなく、ビルの排気溝に落ちたときの骨折で動くことが出来ず衰弱死、または凍死、という解剖結果になった。

浅川の死も老衰のような死だった。

彼らは感染したにも関わらずなぜ前の八人のような死ではなかったのか

 

さらに奇妙なことは、高野舞が死ぬ前に妊娠していたことであった。

安藤は高野舞と接触している。そのときの舞はスリムで妊娠とはほど遠い体型だった。

それにもし、彼女が妊娠していて赤子を産んだのなら、その赤子はどこにいるのだ?

 

はたして、彼女は何を産んだのだ・・・?

 

高野と浅川の死が別の原因だったのは、彼らが産んだからなのです。

もちろん、そのウイルスにとって都合のいいものを。

 

最後にもうひとつ、教えてやろう。人間はなぜ文化的に進歩を遂げたのか。人間は大概のことには耐えることができる。だがなあ、たったひとつ退屈にだけは我慢できない動物なんだ。出発点はそこにある。退屈から逃れるため、進歩せざるを得なかったのさ。 

 

らせん - (角川ホラー文庫)

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  • 作者:鈴木 光司
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: 文庫
 

  To BE CONTINUED