深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

第四解剖室/スティーヴン・キング~やさしい少年が書いたやさしい物語たち~

≪内容≫

私はまだ死んでいない、死んでいないはずだ。ゴルフをしていて倒れた、ただそれだけだ。それだけなのに。だが、目の前にある解剖用の大鋏は腹へと迫ってくる……切り刻まれる恐怖を描いた標題作のほか、ホラーからサスペンス、ファンタジー、O・ヘンリ賞を受賞した文芸作品まで、幅広いジャンルにわたって天才ぶりを発揮してきた巨人キングの十年を総決算する全米百万部の傑作短篇集。

 

 

 

キングは映画は割とみてると思うのですが、小説は初めて。

キングの有名な小説って長いので、とりあえず短編から。

思ったのは、やっぱりキングってめっちゃ優しい少年なんだということでした。

 

 

 

 

 収録されている六編の紹介

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第四解剖室・・・生きているのに死亡判定を下された男が自分の解剖を行う瞬間を目の当たりにする。

わたしの望みはただひとつ、ゴルフで十八ホールをまわりきることだけだった。それなのに、いまや胸毛を生やした白雪姫になりはてている。

 

黒いスーツの男・・・老人が若き日に出会った黒いスーツの悪魔との出来事を語る。

一九一四年のあの土曜日まで、わたしは森に棲むもっとも恐ろしいものはクマだと信じていた。

 だが、あの日、そうではないことを知った。

著者がオマージュにしたというホーソーンのヤンググッドマン・ブラウンはこちら→

ヤング グッドマン ブラウン ナサニエル・ホーソーン

 

愛するものはぜんぶさらいとられる・・・自殺を決意した男はありとあらゆる落書きを記したノートを手に持って農地の片隅に立ち、涙を流していた。

もうこれまでみたいな生き方はつづけられない。それだけはわかっている。たった一日だってごめんだ。ひと思いに拳銃自殺するほうが、どんな生き方の変化よりもらくだろう。

 

ジャック・ハミルトンの死・・・ギャング達の逃走劇。三人のうちの一人、ジャックが死ぬまでの日々が描かれている。

おれたちはめいめいの運命から出るに出られないが、そいつはしょうがない。神さまの目からすると、おれたちはみんな糸につながれたハエみたいなもんさ。

(中略)

最後にシカゴでジョニー・デリンジャーに会ったとき、やつはおれのいったなにかの冗談でげらげら笑った。おれはそれだけで満足なんだよ。 

 

死の部屋にて・・・尋問室にて尋問される新聞記者フレッチャーの物語。三人の拷問者たちが尋ねるヌニェスという男について、フレッチャーは思う。

あのときヌニェスはニューヨークにいた。ニューヨーク大学にいたんだ。だから、あの男は、カヤ川べりで修養中だった尼僧たちを見つけた兵隊グループにはいなかった。そのグループがなにをしたかといえば、そう、三人の尼僧の生首を棒に刺して、その棒を川べりの地面に突き立てたんだ。ついでにいえば、まんなかの尼僧がおれの妹だったんだ

 

エルーリアの修道女・・・長編「ダーク・タワー」シリーズに関係しているようだが、これのみでも楽しめる作品と著者は語る。実際、私は「ダーク・タワー」を知らないが楽しく読めた。緑色の民と奇妙な修道女たち。

 もう、こんな生き方はしたくないの。たとえ、呪われようとも、自分で生き方を選びたい、彼女たちの生き方ではなく。

 

 

 

 

 

 

愛するものはぜんぶさらいとられる

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 この中で一番好きなのは、「ジャック・ハミルトンの死」です。

これはとても単純というか、肩を寄せ合うギャング達の青春という感じで、夕暮れというよりかは、太陽の光が若葉の葉裏を透かすほど強い光りの中、輝きに溢れた作品で、とても切なくかなしい。

 

 そして、この「愛するものはぜんぶさらいとられる」は、青春を過ぎ、家庭を持ち娘もいるセールスマンの男が全てを投げ打ってしまいたい自棄と、かすかな希望の間で揺れ動く物語である。

 アルフィーは狂ってるし意味などないような落書きを自分のノートに書き写し、センテンスのリズムやセンスを熟考してみたり、その背景に思いをめぐらせてみたりする。

 しかしそのノートの存在は人からすれば意味不明なもので、アルフィーを狂人たらしめるものである。アルフィーは自殺を決めるものの、このノートの始末に悩む。こんなものが発見されれば、アルフィーはもちろん残された家族にも「頭のイカれた亭主の置き土産」と世間に噂されてしまう。

 

アルフィーはなぜ落書きを自分のノートに集めるのか。

それはアルフィーが言葉を愛しているからである。それがどんな言葉であろうが、生まれた以上、そこには意味があり、作者がいる。アルフィーはその言葉達が語りかけてくる物語を愛していた。

だけど、それは世間的にはオカシイもので済まされてしまう。

自分一人の衝動で動きだせないのは、家族というものを背負ってしまったから。

 

変りたい、変わるのが怖い。

ならばいっそ、死んでしまえば。

六十までかぞえよう。もし、そのあいだにあの農家の明かりがもう一度見えたら、その本を書いてみることにしよう。 

 

 やさしい物語たちだった。やっぱり人気作家の作品ってやさしさを感じるんだよなぁ。