深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

グランド・マザーズ/ドリス・レッシング~美は無知を隠すし、人は美にそれ以上を求めない~

≪内容≫

幼い頃から双子の姉妹のように育ったロズとリル。二人は今、各々息子と孫娘を連れて、光る海の見えるレストランのテラスで、昼下がりの幸福なひと時を過ごしている。だがこの何気ない家族の風景にはある秘密が隠されていた…。互いに相手の息子との恋(?)に落ちた二人の女性の心の葛藤を描いた表題作の他に、「ヴィクトリアの運命」、「最後の賢者」、「愛の結晶」の三つの作品を収録した傑作短編集。

 

 

 

「グランド・マザーズ」は「美しい絵の崩壊」の原作。

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レッシングさんはノーベル賞受賞してるんですね。

本作は四編が収録されている短編集なんですが、確かに社会的なお話もありました。

 

 これは自分の中でぴったりとハマった考えではないですが、作家さんというのはやっぱり個人的な思い入れがある題材、もしくは信念といったようなものを繰り返し手を変え品を変え書いていると思っているのですが、レッシングさんに関しては「無知」が彼女の根にあるんじゃないかなぁと思いました。

 

 四篇に共通しているのは、彼らが旅をしないということです。生まれた場所から離れない。「愛の結晶」は戦争の話なので、強制的に色々な場所に行くのですが、どのキャラクターも自ら他の地に行こうとはしない。

生まれた場所で、自然に身についた諦念を纏って生きている。

 

 

 

 

 

収録されている四篇の紹介

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グランド・マザーズ・・・親友同士が海辺の家で暮らしていた。リルは夫を亡くし息子と二人、ロズは夫と息子と三人で暮らしていたがほどなく離婚。美しい二人の女はお互いの息子たちと愛を交わす。

どうかしている!だが恐らく、狂気こそ、目に見えない、この世界を動かす最も大きな原動力となるに違いない。

 

ヴィクトリアの運命・・・黒人で貧乏なヴィクトリアは偶然にも裕福な白人エドワードの家に泊まることになった。その日からヴィクトリアは夢のようなエドワードの屋敷と優しさを事あるごとに思い出し辛い日々を乗り越えてきた。大人になったヴィクトリアはエドワードの弟トーマスと関係を持ち一人の女の子が生まれる。

だが宿題をやり、懸命に勉強したとしても、ヴィクトリアは無知だった。ひと夏の間、ほぼ毎晩のようにスティヴニー家に通っていたのに、何にも分かっていなかった。疑問を感じるほど好奇心は強くなかった。そもそも何を疑問に感じるべきかも分からなかったし、問いかけるべき問題があることも知らないまま六年経ち、尋ねもしなかったこと、疑問にさえ思わなかったことによって、当時の自分がいかに無知だったか判断できるようになった。

 

最後の賢者・・・十二賢者が築いてきた時代が無残に朽ちようとしていた。残された十二賢者の一人の"トゥエルヴ"はこの国の始まりから今までを回想し始める。そのとき頭首となりこの国を滅ぼす原因となった幼馴染のデロッドの真実にやっと気付くのだった。

そしてこの瞬間、私は悟った。ああ、すべてが次々と明らかになった。遅きに失した感はあるが、すべては私の目の前にあったのだ。 

 

愛の結晶・・・第二次世界大戦に召集されたジェームズは立ち寄ったケープタウンの女主人ダフネに恋をする。その恋は拒絶されようとも永遠にジェームズの中で輝き続ける。

すでに数年が経った。待つことにもすっかり慣れた。彼らのような愛は永遠に続き、かつてのように時を越えて存在し続ける。 

 

 

 

 

美が無知を隠す

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 登場人物に共通しているのは美人だということなんです。

 そもそもグランドマザーズの二人は美女だから、自分達の存在でもう完成されているのだと思います。他に美を求める必要がない。しかも息子も美しいときた。これはもう生まれた場所がパラダイスで、他の世界は悪く言えば野蛮の可能性があるし、むしろ興味さえ掻き立てないのではないだろうか。

 

 ヴィクトリアの運命にしても、ヴィクトリアは美人で、その美貌を見抜いたフェリスという叔母がいた。ヴィクトリアはその美貌で有望な仕事につけたし、たぶんそのおかげで名門家のトーマスとも関係できた。

 

 美が無知を隠すのが顕著に出てるのが「最後の賢者」。どう考えても無能なデロッドを頭首に祭り上げたのは十二賢者たちだったし、彼らはデロッドの有能を信じて疑わなかった。それは彼があまりに美しく愛らしい子供だったから。

 

 愛の結晶では、戦争中の一瞬の輝きがジェームズを永遠に閉じ込める。その美しさが現実を遠ざけ、常に過去へと彼を誘う。

 

 

こうやって見るとレッシングさん、結構辛辣ですね~とか思ったりして。

美男美女って別に相手の美貌に興味がないというじゃないですか。自分で完結してるから。んで、この短編集で感じたのはそういう美を持って生まれると旅をする必要、他人を知る必要性がうすーくなっちゃうのかもしれないということ。そして、他者も彼らには美以上のものを求めず、結果的に総崩れになる・・・ということ。

 

 美って本当にそういう意味で吉とも凶とも出る。才色兼備はほんと生まれた場所と親の価値観が影響すると思います。単体ならスポイルされるか祭り上げられるか。それが二人になると、閉じられた世界になる。