深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】悪人~私が思う最高の邦画はこれ~

≪内容≫

芥川賞作家・吉田修一の最高傑作を、李相日監督が渾身の映画化。主演の深津絵里がモントリオール世界映画祭最優秀女優賞を受賞、作品も2010年度キネマ旬報ベストテン第1位に選ばれた傑作。ひとつの殺人事件。殺した男と愛した女。引き裂かれた家族。さまざまな視点から事件の真相が明らかになるにつれ、観る者に「いったい誰が本当の“悪人”なのか」を問う。悪意にまみれたこの現代で、ひとは何にすがって生きれば良いのか。人間の善悪を深くえぐる演出と豪華キャストによる究極のヒューマンドラマ。

 

 

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 日本が世界と戦える映画と言ったらアニメかホラーで、こういうヒューマン系はあまりウケないと思う。

 というのも、日本特有なのか派手さとか華やかさがなく、ひたすら曇天って感じの絵だし、内容だから。

 

 邦画がつまらないのは、分かりやすいラストが少ないからスカっとしないし、華やかさや大胆さが乏しいせいで目で楽しめないし、内容暗いし、しかもその内容が白黒つけようもない、ドウシロッテンダ!(鬱)だからだと個人的に思ってる。

 

 でも、邦画って地味~に気持ち悪さとエグさでは群を抜くと思ってる。

乱暴と待機(通常版) [DVD]

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  これとか空気を読むレベルがハンパじゃないから、始終なんか鳥肌立つような空気が漂ってる。自分が日本人じゃなかったら、OH!JAPANESE!CRAZY!!!と思いそう。これほんと気持ち悪いんだ。(褒めてる)

 

 なので、アメリカンでエンターテイメント的娯楽、韓国でフィルム・ノワール、スペインでクレイジーエログロって他国の映画で楽しめるんですけど、邦画見なくなったら終わりだな、と思う

 

 決して気持ち良くはない。スカっともしない。かっこいいアクションもない。めっちゃ美しい人間や風景が出る訳でもない。かといってめっちゃ汚い人間や光景に出会える訳でもない。言うなれば、現実の延長、もしくは自分が知らない現実世界。邦画は洋画みたいに別世界には連れて行ってくれない。そこらへん邦画は厳しい。人間厳しさがなかったら堕落するだけだから、邦画は定期的に見た方がいい、という心理になる。

 

 

 

悪人はだれ?

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 そもそも「悪」という概念はどこから来るのだろう?と思う。

自分にとって都合が悪いものとするなら基準は自分の価値観だし、道徳を外れるものとするなら大衆心理がものさしになる。

 

 「普通」って言葉をほんとにみんなよく使う。普通こうじゃん。普通のことだよ。普通のことしか言ってないよ。普通に考えてさ。etcetc・・・。

 かくゆう私も使ってしまう。そして言ったそばから「あ、いや普通ってまあ普通のことなんてないんだけど・・・」とか早口で訂正し出してかなり周りくどいめんどくさい人間と化している。

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なんでよりによって殺人犯なわけ?

出会い系サイトで知りおうた人よ?
そがん男が本気でねーちゃんのことなんか好きになるわけなかやろ?

 光代は逃亡中に妹に電話をして事情を説明し、少しでも祐一と一緒にいたいと伝える。しかし返ってきたのはこの言葉である。

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 妹は姉と暮らしている部屋に彼を連れ込んだりして、まあオープンな付き合いをしている。二人の出会いは分からないけど、彼女の口ぶりからして出会い系ではないことは確かである。

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 姉と暮らしているけれど、彼を家に入れたときは姉が帰ってくるというのに鍵+チェーンまでかけていた。故に雨に濡れて帰ってきた姉は締め出しをくらう。

 

 姉である光代は恋愛が苦手なようだった。そんな姉が愛したのが殺人犯だった。

姉妹として姉を心配するのは分かる。だけど、「ねーちゃんのことなんか好きになるわけなかやろ?」はあまりにひどくないか?と思ってしまう。

 

 世間的に悪人は祐一である。

社会システムにおいてはそうである。だけど、じゃあ一般市民が彼に石を投げれるのかね?と思うと、私は投げられないと思うのです。

 自分が普通側にいる、常識側にいる、そう思うだけでどうしてそこまで人を否定できるんだろう?

殺人は大罪である。だけど、本作の殺人犯である祐一と他の人間はそこまで違いがないように思うのです。

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 彼女は殺されてしまったのですが、なんでそんなこと言うんだ!!ってくらいひどい言葉を祐一に吐きます。そのシーンはホラーより怖いです。誰もがグっと息を呑んだはず。言うなれば、彼女も山道の一件では悪人でした。

 

 だけど、彼女の両親には関係ないのです。

たった一人の大事な娘なのです。

お前はわるうなかぞ

 わるうなか

  本作のテーマは「悪人は誰か」ということよりも、「大切な人との繋がり」の方が私には強く感じました。

 

 祐一も、佳乃も、世間的には悪人なんです。

でも、祐一のことは光代が、佳乃のことは両親が大切にするのです。

 我々は社会で生きている以上、そのシステムの中で生きるしかないです。そこから逃れるなら自給自足で山奥に住んだり未開の土地を探して野性的に生きていかなければなりません。

 どんなに大切な人だろうが、システムに否認された人間は罰を受けなければならないし、悪人のレッテルは貼られてしまう。例えそこで起こったことの真実を誰も知らなかったとしても。(三度目の殺人)

 

 だからこそ、社会に生きるからこそ、大切な人を思うときは、心をシステムの外に逃がして個人的な感情にライトを当てないといけないと思うのです。

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 おかしかね
娘が殺された父親の姿がそんなにおかしかね

 

そんなにおかしかね

  この大学生も悪人です。こいつは 祐一や佳乃と違って一人も大切にしてくれる人が出てきません。でも、こいつは捕まらないし死んでもいないし、無傷っちゃあ無傷です。

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 法に触れなきゃ人のことバカにして、死なない程度に暴行加えて生きてっても捕まらない。何の痛い目も見ない。本当に腹が立つ。

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今の世の中大切な人がおらん人間が多すぎる
自分には失うもんがないちゅう思い込んでる
それで強くなった気になっとう


だけんやろ


自分は余裕のある人間って思いくさって
失ったり欲しがったりする人をばかにした目で眺めとう

 

そうじゃないとよ
そうじゃ人間はだめとよ

 本作で傷つくのは、誰かを大切にしたいって思う人たちだけです。

そういう人たちが、人をバカにしたり金を巻き上げたりする悪人たちにやられていくのです。

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 私は辛いときとか、もうここからいなくなりたいって思ったとき、いつもこの光代の

でも今の私たちにはここしかなかやん

って台詞が浮かんできます。「私」じゃなくて、「私たち」のまま脳内再生されてます。私は今光代と祐一みたいに想い合うような相手がいるわけじゃないんだけど、「私には」って思うのと「私たちには」と思うのでは精神的負担がけっこう違うんです。

 

 私が一番好きな作家さんは桜庭一樹さんですが、「作家」ってこういう人のことを言うんだ、と胸が痛くなったのは吉田修一さんです。人間にここまで触れてる作品って本当にないと思います。しかも彼の作品の特徴として、全ての人物と事柄に関して客観的に書かれていると思うので、読む側、見る側が存分に考えることができるし、考えざるを得なくなります。

 

 答えがある小説というのは楽かもしれないのですが、そこに書かれている答えなるものは作者の感情でしかないと私は思っています。だから、あまりに「こういう意味です!!」っていう本は答えを通り越して押し付けに感じてしまう。しかも作家って肩書なだけで同じ人間ですから、彼らが出す答えを読者が鵜呑みにしてしまうと、洗脳にもなり得ます。作家は神じゃないし、全てを知ってるわけじゃない。

 

 だから、何が言いたいかって言うと、体力があるとき(重要)見る時間があったら見てみてください。

悪人

悪人

 

  日本が嫌で、家庭が嫌で、職場が嫌でどこかに行きたいと他の国に行ったって場所変ったって、パラレルワールドに行けるわけじゃないし、結局「私たちにはここしかなかやん?」そんなことをたまに思いながら生きてます。