深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

さよなら渓谷/吉田修一~許せない人がいる人生は辛い・・・~

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≪内容≫

緑豊かな桂川渓谷で起こった、幼児殺害事件。実母の立花里美が容疑者に浮かぶや、全国の好奇の視線が、人気ない市営住宅に注がれた。そんな中、現場取材を続ける週刊誌記者の渡辺は、里美の隣家に妻とふたりで暮らす尾崎俊介に、集団レイプの加害者の過去があることをつかみ、事件は新たな闇へと開かれた。呪わしい過去が結んだ男女の罪と償いを通して、極限の愛を問う渾身の傑作長編。

 

昔、DVDで観たような観てないような・・・

さよなら渓谷

さよなら渓谷

  • 発売日: 2016/04/15
  • メディア: Prime Video
 

なんとなーく内容は知ってたけど深くは知らない・・・みたいな気持ちでいました。

 

憎む女と懺悔する男

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ざっくり内容を言うと

死んでほしい程憎い男となぜか同居してる女の話。

ですかね?でも主軸が男性っぽいので

昔レイプした女が幸せになるまで付きまとう男の話。

になりますかね?

 

何か極限の愛を問う渾身の傑作長編。とか書かれてますが

 ハァ?(゚Д゚)/ という感じですね。

この作品男性目線的にはどうなんでしょう?

作中の記者の様に「同じ男だから」って理由で許せちゃうんですかね?

「うん、いけない事だよね、でもなんとなく分かるぜ・・・」みたいな

そうして「集団レイプしたなんてお前すげーな!どうだった?どうだった?」みたいになるんでしょうか?

かなこ(被害者)の父の様に「浅はかな女」と「そんな男に着いていった女が悪い」という考えが一瞬でもよぎるんでしょうか?

 

かなこは加害者の尾崎が謝ってきた時に

「許して欲しいなら、死んでよ」

と突き放します。

というかずっと突き放し続けます。

でも尾崎はかなこを探し出し、謝り続けます。

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尾崎は事件後、先輩のつてで一流会社に就職。昇進。

はたから見れば順調な人生を辿っていきます。

けれど尾崎は自分の過ちに縛られたままです。

面白半分に事件の内容を聞きだされたり、ネタにされておちょくられたり

そんな事に辛さを感じているようです。

そして周りの人間から非難の声をかけられていない事に疑問を感じています。

 

かたや、被害者のかなこ(水谷夏美)は

事件後、転校。両親が事件をきっかけに離婚。

就職先で恋人が出来、婚約に至るが恋人の親に素性を調べ上げられ

事件の内容を恋人が知る→恋人が職場で言い触らす→退社。

その後別の会社に就職。

恋人が出来、結婚する際に事件のことを自ら話すがのちに

そのことで暴力をふるわれ入退院を繰り返す。

 

最後のかなこの独白。

最初の婚約の話

 

「俺はお前と結婚したいと思ってる。親の意見なんてどうでもいいんだよ」って、米田は言いました。

「だったら・・・・」

私がそう言おうとすると、米田はがくんと肩を落として、

「自分の嫁さんが、昔、男たちに寄ってたかって犯された女なんだと思うと、自分が貧乏くじ引かされたような気がするんだよ」って泣いたんです。

あの人、泣いたんです・・・・。私の前で。

 

次に知り合い結婚した男の話。

米田との事があったので先に事件の説明をした後

 

この話をするのがどれくらい辛かったか、俺にも分かるって、青柳は言いました。

自分のことを信用してくれたことを、心から嬉しく思うって。

気がつけば、私、大声で泣いてました。

 

私の告白のあと、あの男は大切にできる自信があるって言ったんです。それなのに・・・

初めて殴られたのは、セックスの最中でした。

「白けた顔すんなよ!」

「してないでしょ」

「大勢に姦られるほうが気持ちいいんだろ!」

ベッドから逃げ出そうとすると腕を摑まれました。それでも逃げようとすると、腹を殴られたんです。

呼吸ができませんでした。床に蹲っていると、「お前が悪いんだからな」ってあの男は泣いたんです。 

 

尾崎を追う記者とは反対にかなこを追う女性記者の言葉

彼女の人生についてどう思うか聞かれて

 

そりゃ、言ってみれば何度もレイプされたようなもんですよ!事件のあと、彼女なりにがんばったんだと、私は思いますよ。自分でも忘れようとしたんだろうし、生まれ変わろうと必死だったはずですよ。でも、結局、誰も忘れてくれない・・・。ヒドイ話ですよ。

 

尾崎を追う記者が尾崎に話しかけるシーン

 

もし、好きになった女が、そんな事件に遭ってたとしたら、自分はどんな風に思うんだろうって・・・。普通、そんなヒドイ目に遭った女なんだから、男として守ってあげなきゃって、思いますよね。だけど、もしかしたら、それってきれいごとなんじゃないですかね。あんな事件に遭った女と、ちゃんと向き合えるか。そんな目に遭った女を、そんな目に遭わなかった女と同じように見られるか。そんな目に遭ったのは彼女の方なのに、まるで自分がそんな目に遭ったような気がしてきて・・・なんか誰かに負けたような気がしてきて。でもこの誰かって誰なんすかね?

 

どこにいっても受け入れられないかなこは死んでほしい程憎い尾崎と暮らし始めます。

尾崎は加害者だし、何度も謝罪に来てて、かなこの無茶ぶりにも答えています。(金くれとか今ここで金捨てろとか)

かなこという名前はあの事件の時、先に帰った女の子の名前らしい。

かなこと名乗ることで、あの事件には関わっていないと思うことにしたらしい。

 

かなこはあの事件を許してくれる人をさがしていて 尾崎は許してくれない人をさがしてた。

 

かなこも自分を許せなかったんだろうなぁと思います。

あの夜なぜ、尾崎たちに着いて行ってしまったのか。一度は断ったのに、何故着いて行ってしまったのか。

そのせいで両親は離婚。恋人たちも泣かせてしまった。幸せに出来なかった。

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最後、かなこは許したと思います。尾崎を。

だから出て行った、もう許してくれない人にはなれないから。

尾崎を許したことで自分を許すことが出来たんじゃないかなぁと思うんです。

だからもう尾崎には探してほしくないです。

もうかなこと尾崎の人生は交わってほしくないです。

最後に「俺は探し出しますよ、どんなことをしても、彼女を見つけ出します。」「・・・俺は彼女にとんでもないことをしてしまったんです。彼女は俺を許す必要なんてないんです」と言ってますが、迷惑なんですけど。

 

許せない人がいる人生って辛いと思うんですよ。

それを強いるってどうゆう事ですか?どこまで彼女に甘えるんですか?と思います。

自分だけが彼女を守れるとか思ってるんですかね?

それとも彼女を利用して「僕はヒドイ事した人間なんです!許される価値なんてないんです!!幸せになる資格なんてないんです!」と幸せにならない理由にしたいんですかね?と思います。

 

人間誰でも過ちを犯す事はあると思います。

でも絶対にしてはいけない過ち、許されない過ちっていうのはあります。

 

尾崎は許されない過ちを犯しました。それはもう変えようのない事実ですから

一人で背負って生きてくしかありません。だって結局かなこが望んだ死は無理なんでしょ?死ぬことは出来ないけど償いますって自分の都合のいい償い方ならOKと一緒じゃないですか?そりゃ、かなこだって本当に死んでほしいという意味ではないと思います。死んでいると思えるほど無関係になりたいんですよ。

レイプした奴がちょいちょい自分の世界に入ってきたら恐怖でしかないですし、一生忘れられないし、誰だって思い出したくない苦い思い出ってあるじゃないですか。

さよなら渓谷 (新潮文庫)

さよなら渓谷 (新潮文庫)

 

そんなのと比にならない位の傷をいつまでも癒えないように舐められてるみたいじゃないですか。