≪内容≫
気づくと、硝煙漂う泥濘を行進していた小田桐……。現在より五分時空のずれた地球では、もう一つの日本が戦後の歴史を刻んでいた。屈指の戦闘国家日本の聖戦を描く、鮮烈なる大長編。
五分遅れた世界では大日本帝国は消滅し、「アンダーグラウンド」と呼ばれる高度な地下都市を拠点とし人口わずか二十六万人になってもなおアメリカを中心とした国連軍を相手にゲリラ戦を続けていた。
この作品中の地上の日本はアメリカ・イギリス・ソ連・中国に植民地にされてます。
これは日本の分割統治計画をベースにされているらしい。(wiki参照)
私はこの作品を読むまで日本にそんな危機があったなんて知らなかった。何故負けたのに植民地にならなかったのかとはうっすら思ったけど、もう日本を支配するだけのお金も力もないのかなーとふわっと解釈していた。
廃案になった説が幾つか書いてありましたが背筋がゾッとしました。そしてこの4つの国がとても憎らしく思えてきました。
もし日本が降伏しなかったら
生きのびていくために必要なのは、食糧と空気と水と武器、そういうものだけではありません。勇気とプライドが必要です。われわれは、この五十年間、一人の戦争ノイローゼも、自殺者も出していません。(中略)われわれはどの国の助けもかりずにいままで生きのびてきて、どの国にも降伏せず、どの国にも媚びず、どの国の文化もまねずに、すべての決定を、われわれじしんがくだしてきて、全世界に影響をあたえつづけています。(中略)敵にもわかるやりかたで、世界中が理解できる方法と言語と表現で、われわれの勇気とプライドを示しつづけること、それが次の時代を生きるみなさんの役目です
作品中の国民学校の社会の教科書から一部抜粋しました。
降伏した今の日本は自殺者多数、うつ病患者多数、引きこもり、ニート等・・・社会に息苦しさを感じている人がたくさんいます。
それが五分後の世界では国民一人一人が生き生きとしている。
なぜか。
この世界はすごくシンプルに出来ていて、無駄がない。
「死なないように生きる」ただそれだけ。
だからわかりやすい。
きっと息苦しさを感じるのは複雑だからだと思うんです。
差別というか、一つの言葉に解釈がありすぎて本質が届く前に途切れてしまう。
お世辞や、社交辞令等の建前をなくして、「痛い」「怖い」「わかる」「わからない」それだけで成り立つ世界なら楽ではないですか?
まわりくどくロマンチックに暗喩や比喩を使う表現は芸術に任せて、限りなくシンプルに会話が成り立つ社会なら少しは息もしやすくなるのでは?と思うんですがどうでしょう?
五分後の世界の中の人が思う降伏した日本
- アメリカの価値観の奴隷状態になる
- 政治的にアメリカのご機嫌取りでアメリカの望む政策しか取らなくなる
- アメリカ人が着たがる服を着る
- アメリカ人の好きな音楽を聴く
- アメリカ人が見たがる映画を見る
- ラジオからは英語が流れ、街の看板もアルファベットばかりになる
- 人々は髪を金や赤に染めて、意味もわからないのにアメリカの歌にあわせ踊る
etc・・・
はい!そのとーりですね。特にそのこと自体を異常だと気付かないこと。というのにドキっとさせられます。だってジーパンとか洋画とか洋楽とか当たり前すぎて違和感が働かない。ハンバーガーもピザも食べたくて食べてる。
確かに、私達の世代はもうアメリカの文化に侵されてると思う。でも、でもですね、心まで明けわたさねーぞ!っていう気を感じるんです。
どこが?と言われると上手く言えないんですけど、他国のいい所を学んで日本流にしてるというか・・・。決して王の座を脅かす事はしないけど、やろうと思えば出来る・・・的な。ま、海外知らないので知ったら絶望するかもしれませんが。
日本は降伏して良かったのか?
降伏しないのだから攻撃は続きます。
広島・長崎に続き小倉・新潟・舞鶴にも原爆が投下。
更にソ連軍の虐殺、ゲリラ戦、飢え、疫病等でたくさんの死者が出た。
難民として国を出る者も・・・。
およそ七千万ほどいた日本人は二千万ほどに・・・。
私は今、幸せだと、日本に生まれて良かったと思っています。
日本人としての信念とか愛国心とか言われると特に思い当たりませんが、例え一番になれなくても、アメリカの犬と言われようと、オタクの国とか、自己主張なさすぎとか言われようと・・・
やっぱ少しでも多くの人に生きてて欲しいし、出来るだけ辛い思いをする人がいないといいと思うから私は降伏した今の世界で良かったと思う。
この話は今の日本人の情けなさに警鐘を鳴らす・・・という事だと感じていて、そう思った小田桐の台詞がこれ。
オレがもといたところはみんなひどいおせっかいで、とんでもねぇお喋りなんだ、駅で電車を待ってると、電車に近づくな、危ないから、なんて放送があるんだぜ
(中略)
放っておいてくれっていってもだめなんだ、自分のことを自分で決めてやろうとすると、よってたかって文句を言われる、みんなの共通の目的は金しかねぇが、誰も何を買えばいいのか知らねぇのさ、だからみんなが買うものを買う、みんなが欲しがるものを欲しがる、大人達がそうだから子供や若い連中は半分以上気が狂っちまってるんだよ、いつも吐き気がしてあたり前の世の中なのに、吐くな、自分の腹に戻せって言われるんだから、頭がおかしくなるのが 普通なんだよ
一人一人が自分で決断出来なくて多数決的な考えで動いてる。
五分後の世界を体験した小田桐の言葉は胸に響きます。
五分後の世界、戦時中の世界、自分の幸せなんて考える余裕もなく生き延びることだけだった時代、たまに羨ましいなって思ってしまう時があります。
優しさも、便利さも揃ってて一人で完結出来てしまう今の時代。自分の必要性がどこにも感じられなくて、誰かの為って頑張る必要もない、自分の事だけ考えてればいい、そんな今が悲しい。自分の必要性なんて考えられることが平和なんだろうけど。
生きがいがない・・・という感じですかね。
母に言ったら「あんな時代絶対イヤよ!!!!何言ってんのよ!!!!」と怒ってました。
たった一度の人生、どうやって生きていこうかな。