深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

桐島、部活やめるってよ/朝井リョウ~何を基準にクラスのヒエラルキーが作られてるのか、きっと誰にもわからない~

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 ≪内容≫

映画化大ヒット青春小説!
バレー部のキャプテン・桐島の突然の退部が、5人の高校生達に波紋を起こして……。至るところでリンクする、17歳の青春群像小説。第22回小説すばる新人賞受賞作。(解説/吉田大八)

 

 

さて、タイトルの桐島くんは出てきません!

高校二年生、社会のレールの大きな分かれ目が迫ってくる不安定な時期ですね。6人の男女に視点を当てて描かれています。

 

思春期という不安定

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  • 菊池宏樹・・・クラスの上位の男子。運動も勉強もそれなりに出来る。明るく、空気も読める器用な人物。かっこいい部類。野球部だけど行っていない。
  • 小泉風助・・・バレー部の桐島と同じリベロポジション。桐島が部長で常に試合に出ている為、桐島がやめて初めて試合に出る。
  • 沢島亜矢・・・ブラスバンド部の部長。菊池の友達の竜汰に片思い。自分の友達と竜汰が仲良くしているのを羨ましく思うが、友達は上位の女子だからと思っている。
  • 前田涼也・・・映画部。高校生映画コンクールで特別賞を受賞するも、クラスで下位な為トップの女子に影口を言われたり、体育の授業で存在自体無視されたりする。
  • 宮部美果・・・ソフトボール部。義理の姉と実の父が事故で亡くなる。そのことで義理の母は美果を忘れ自分の連れ子だった姉の名前で美果を呼ぶ。
  • 東原かすみ(14歳)・・・中学時代に前田と映画好きで盛り上がるも、高校では上位の女子になり、涼也をバカにする女子に何も言えずにいる。

ざっくりこんな感じでした。

沢島亜矢ちゃんに関しては、とても複雑な感情で正直わかりません。

でも言ってることはすごくわかります。

 

ピンクが似合う女の子って、きっと、勝っている。すでに、何かに。なんで高校のクラスって、こんなにもわかりやすく人間が階層化されてるんだろう。男子のトップグループ 、女子のトップグループ、あとまあそれ以外。ぱっとみて一瞬でわかってしまう。だってそういう子達って、なんだか制服の着方から持ち物から字の形やら歩き方やら喋り方やら、全部が違う気がする。

 

 これって羨望とも嫉妬とも違う気がして・・・でもあきらめって程達観してるわけではなくて単純に何でなんだろう・・・ってゆう気持ちな気がします。

 何を基準にクラスのヒエラルキーが作られてるのか、きっと誰にも分りません。だから何かに勝ってる。何かを持ってる。でもその「何か」が学校外で通用するかは別の話。

そんな事をひしひしと感じているのが菊池宏樹くん。

 

やっぱちょっと、さみしいよな。映画部の奴を見て思う。自分がミスしたのにそれすらもなんとなくもみ消されて、自分がいないように扱われて、女子なんかにそれを笑われて、なんかやっぱむなしいよな。

だけど、そんな気分も全部一瞬でなくなってしまうくらいのものが、あいつらにはあるんだ。

どっちがむなしいんだろうな、俺と。

 

 運動は何でも出来て、なんとなく野球部に入って、そんなに努力しなくてもバンバン打てて、先輩含めて自分より下手な奴ばっかり。そんなんだから部活サボりがちになって。そんな自分にキャプテンが「試合だけでもいいから来てくれ」って頭下げて。

 予想ですけど、何となく自分の意思とか行動とかとは裏腹に「いいね!」「さすがだよ!」「かっこいいね(かわいいね)」とか全肯定でちやほやされると、それに疑問を持たないでいける人もいれば菊池くんの様に知らずに人のイメージ内で生きてしまっちゃう人がいるのではないかと思います。

 だからかわいい彼女がいようと彼女が「自分」を好きではない事を分かっている。自分も彼女をダサイ・ダサくないで人を決める可哀相な奴だと思って付き合ってる。

 

本気になって、他人の自分へのイメージが壊れるのが怖い。

失敗して、泥だらけになって・・・そんなのはかっこ悪い。

何でも持ってるから・・・いや、何でも持ってると思われてるから

 

 

一番怖かった。

本気でやって、何もできない自分を知ることが。

 

 容姿や、スタイルを保つのって簡単じゃないと思うんです。

 自分が辛いと思う事は美人だから楽に出来るってわけじゃない。誰だって筋トレも、毎日の美容ケアも、おしゃれも、大変。

 だけど、美人には要求してしまう。そしてそれを大変なこととは見ない。

「生まれつき」として、美人の努力は認めない。女でも、男でも。

この作品の中で一番孤独なのは彼だと私は思いました。

そして一番輝いてるのは前田涼也くん。

 

僕らには心から好きなものがある。それを語りあうときには、かっこいい制服の着方だって体育のサッカーだって女子のバカにした笑い声だって全て消えて、世界が色を持つ。 

 

しかも結果として、映画甲子園で特別賞を受賞している。

 彼らには彼らのクラスでの居場所のなさや、ヒエラルキーに対してのやるせなさとか、悩みはあるけれども。

 それでも自分の好きなことを見つけて、それに打ち込む情熱を持ち合わせている人にはどんな人も敵わない。

 文化部はどうしても地味に映ってしまう・・・というか、スポーツのように勝ち負けが分かりづらいので盛り上がらないのかもしれないけど、きっと菊池君の様に思っている生徒はたくさんいるはず。

 

なんだかみんな不安定。それぞれ素敵なモノを持ってるのに、ちゃんと足りない。そしてそこに気付いている。

本当はみんな気付いているかもしれないけど、向き合おうとしてる三人の姿勢が神聖な光に見えてしまう。

この青い輝きってほんと高校生にしか出せないなーて思います。

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

 

中学でも大学でもなく、高校。