深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

メアリー・スーを殺して/乙一~山羊座の友人が読みたくて~

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 ≪内容≫

「もうわすれたの? きみが私を殺したんじゃないか」
(「メアリー・スーを殺して」より)

合わせて全七編の夢幻の世界を、安達寛高氏が全作解説。書下ろしを含む、すべて単行本未収録作品。夢の異空間へと誘う、異色アンソロジー。

 

山羊座の友人のコミックがすごーく気になってて、見たら乙一原作ではないかっという事で、この一人アンソロジー読んでみました。

山羊座の友人 (ジャンプコミックス)

山羊座の友人 (ジャンプコミックス)

 

  

愛すべき猿の日記

ドラッグ漬け廃人大学生の主人公・高橋の元に届いた失踪した父の形見のインク瓶。

これをきっかけに高橋はどんどん変わっていく・・・。

 

大学も行かず、テレビとビデオと寝袋だけの棺桶の様な自室で暮らす高橋。

しかし、インク瓶を手にした事で、

日記を書こう

→ブックエンドを買おう

→背表紙のかっこいい本を買おう

→本を読もう

→本楽しい、本棚買おう

→本棚に合う部屋に引っ越そう

→お金なくなったからバイトしよう

→家庭教師なのに、質問につまると恥ずかしいから勉強しよう

→中高時代の復習

→大学の講義の予習

→勉強楽しい

→猿についてのレポートを教授に褒められる

→就職活動

→最初に買った日記帳発見

→何も書いてなかったので書き始める

→日記を読み返した時恥ずかしい事は出来ない

→面接の日迷子を発見、面接に間に合わず

→その後、その時の自分を見ていた女性に話しかけられ結婚

→子ども生まれる

 

きっかけひとつで視野が広がることってありますよね。

私もテレビでhideさんを見た時に世界に色がついた!!!と思いました。(当時中二)

 

初めて洞窟に絵を描いた猿の時と何も変わっていない。進化はしてきたけど、自然の中で、社会の中で色んな価値を発見してそれを記述して発表する。

人は何かしら産んで、育ててつながっていく。

どこにつながっているかはわからないけど、衝動というものは誰にも止められない。そしてそれがつながって未来になっていく。。。そんなお話。

 

山羊座の友人

風の通り道に立つ一軒家のベランダには奇妙なものがひっかかる。

その日ひっかかったものは、未来である十月二日からの新聞だった。

 

主人公・松田のクラスでは悲惨なイジメが起きていた。金城アキラ若槻ナオトをイジメている。金城アキラには悪い噂がいくつもあり、クラスの皆が脅えていて誰もイジメを咎めなかった。そんな中、深夜にジャンプ(推定)を買いにいった松田は血まみれの金属バットを引きずり歩く若槻ナオトと出会う・・・。

未来からの新聞にはこう書かれていた。

 

先月二十五日深夜にXX県XX市で発生した高一生死亡事件の参考人として事情聴取中の高校生(十五)が、昨晩、XX警察署のトイレで首を吊り自殺した。同級生殺害の容疑を認めた後だった。 

 

若槻ナオトの自殺を止めるために一緒に逃亡する松田。そして、本当の殺人犯の罪をかぶる決意を決めている若槻ナオト。不審に思った松田は真実に気付く。

果たして本当の犯人とは・・・?

 

 

その人物は金城アキラを撲殺した後、金城の携帯から罪を被せる為に若槻ナオトを呼び出した。しかし思ったより早く来た若槻に全てバレてしまう。

そこで若槻は二人は逃げていい、自分がやったことにするからと言うのだった。

 

松田は若槻が自殺するであろう十月二日まで一緒にいようと思ったが、九月三十日に若槻は出頭してしまった。

そこで翌日十月一日に本当の犯人に真実を警察に言って欲しいと話に行く。

警察に出頭した本当の犯人は警察署のトイレから戻ってこなかった。

 

彼らを殺したのは誰か?

 

  他人を傷つける行為は思ったより自分に返ってくると思う。それに気付かないでいるとどんどん自分が苦しくなって、もっと他人を傷つける。

 

人を許すとか、愛するとか、大事にするっていうのは、その人が傷つけられないようにするのではなくて、その人が誰かを傷つけさせないように見守ること。

 

「いじめ」というのは何だか若者の通過儀礼の様に当たり前になってるような気がするけど、これを失くすのはドラッグと同じ位の姿勢でなきゃダメなのではないか?と思う。本人同士の問題ではなくって、かなり大きな範囲の問題だと思う。親、友達、クラスメイト、恋人、みんなが同じ強さで向かってかなきゃいけない。

 

事件を知っていた松田が真犯人が巻き込まれないようについた嘘が真犯人の不正を暴いてしまったように・・・。

 

宗像くんと万年筆事件

ある日高山君の万年筆が私のランドセルから発見されて、私は泥棒となりイジメられ学校に行けなくなった。クラスメイトの宗像くんは、貧乏で何日もお風呂に入ってないらしく近寄るとぷんと匂うし、服は黄ばんでてクラス中の嫌われ者。だけど、その彼が私の汚名を晴らしてくれた・・・。

 

山羊座とは打って変わりラブコメの様な感じです。

二人の出会いは自販機の下を覗き込んで10円を探してる宗像くんに主人公が10円を貸してあげるというシーン。

宗像くんは夜逃げでいなくなってしまうのですが、何年たっても事件を解決した彼を誰も忘れなかった。

そして夜逃げするとき返してくれた10円玉。へこんだときにはそれを眺め、彼を思い出し彼が今どこで何をしているのか考える。

 

宗像くんは「うち貧乏だから・・・」といえる素直さがあります。これってすごい事だなぁと思います。これは小学生の設定なのですが、小学生って「恥」に対してすごく敏感で他人と同じがステータスという感じなんです。個性うんぬんは中学生から。だから他人とちょっとでも違うと不安になる。ちょっとした失言で奈落の底に突き落とされる。

だから見栄を張ったり嘘をついたりする・・・。そんな中で自分の状況を素直に言える。

素敵です。宗像くん。

 

メアリー・スーを殺して

表題にもなった作品。

メアリー・スーとは自己投影したキャラクターのこと。

サークルで二次創作小説を書く如月ルカは、台福饅頭のような体つきで、引っ込み思案で、口べたで、鈍重で、何をするにも自信がなく、話しかけられたら赤面し、笑い声は醜く、野暮ったい眼鏡をかけており、異性からも同性からも無視され、クラスの中では気持ち悪い女として認識されていた筈。

 

そして彼女のメアリー・スーは

 非の打ちどころのない美少女で、つややかな黒髪に、透きとおるような肌、無条件に誰からも好かれ、愛される顔立ち。右目の虹彩は黒色だが、左目の虹彩は赤色という、いわゆるオッド・アイと呼ばれる属性。

 

 何度もメアリー・スーを作中から追い出すが、そのたび乗っ取られてしまう。そこで彼女は現実の世界で足りないと感じることを、執筆によって埋めるのではなく、同じ現実の世界で埋めてやることにした。

メアリー・スーを殺す方法とは、台福饅頭のような私を消し去ることだった。

 

すごく楽しいお話でした。

彼女はどんどん自分の理想に近づいて行きます。そうしてメアリー・スーが消えた時彼女の執筆への情熱も消えてしまいます。

しかしサークル仲間だった友人に今度は自分の物語を書かないかと誘われた時、自分からメアリー・スーを呼んだのでした。

きっと誰の心にも存在するメアリー・スー。それはその人の願望、情熱、希望、夢、そうゆうキラキラしたものが詰まったもう一人の私。

一緒に動き出した時、なんだかすごく面白い事が起きそうな、そんなわくわくした気持ちになりました。

 

トランシーバー

東日本大震災で妻と子供を失った男は生前子供とあそんでいたトランシーバーに気付く。電池の入っていないトランシーバーからはあの日の子供の声が聞こえてきて・・・

 

 なんとも言えない作品。

なんだか「良かったね」とも思えないすっきりしない感じ・・・。

これぞ、読者の考え方にお任せします的な。これをほっこり作品と思うか、ホラーと思うか。私にはわかりません。。。

 

ある印刷物の行方

男は私の元彼が自殺したと言った。

あの自殺率の多い研究所で研究員として働いていた彼。そしてその研究所の焼却処分をしていた私。高額な報酬と引き換えに私が焼却していたものとは・・・

 

3Dプリンター赤ちゃんを作るという研究をしていた彼。そして失敗作である赤子を焼却処分していた私。最後の仕事の日、私は赤子を処分せず、持ち帰り土に埋めたのだった。

 

 3Dプリンターの出現によってこれから本当に人間も出来てしまうのかも知れない。そうしたら、この話のように何度も実験し、焼却しを繰り返すこととなるだろう。

 子供を産めない女性が子供を産めるようになる。きっと義手や義足もいらなくなるのかもしれない。たまに人間はどこまで行くんだろうと思う時がある。動物実験をしてる時点で狂ってるのかもしれない。研究所のマウスは当たり前になっていて、ウサギは非人道的だとか、境界線は曖昧だ。どこまで尽きない望みと共に行くんだろうか。

 

エヴァ・マリー・クロス

びっくりする程グロテスク。

本気でちょっと気持ち悪い。ご飯食べられないよ・・・となりました。

 

エヴァ・マリー・クロスは孤児院のボランティアを行う心優しき女性。そしてそのボランティアを支援していたジャームズ・バーン・スタインという老人はこの街では知らない人はいないという程の富豪で社会に貢献していた。

 だが彼の遺産の中から出てきたアコーディオンは人間の骨、皮膚、歯、頭髪で出来ており、弾いてみると少年のような声を発したという。

 主人公は記者でビックニュースを探していた為この話に飛び付いた。そしてジャームズ氏に届いていたサーカスのチケットを発見し、見に行くとそこにはあらゆる人体楽器が演奏を行っていた。生きている少女に弦を打ち込んだヴァイオリンからときおり少女のうめき声が聞こえる・・・。

 ジャームズと別人とばれた主人公は捕まり解放する代わりに「愛を捧げよ」と言われる。意味もわからず恐怖から受け入れてしまう主人公。月日がたち主人公にあのサーカス団からの招待状とレコードが届いた。

 レコードから聞こえてきた弦楽器の音色にまじって聞こえる女の声はエヴァ・マリー・クロスその人だった。

 

 このサーカス団のマークは孤児院のマークと同じで、暗に孤児院の子供達が楽器となっていることを示唆しています。

 そしてこの屋敷の主人はビル・ケインではないかなと思います。

 ビル・ケインとエヴァ・マリー・クロスは顔見知りであり、ビルはエヴァを気に入っていた。そしてエヴァを楽器にする為主人公がサーカスに来るよう焚きつけた・・・と思っています。

 

 まず、なぜこんな発想が出来たのか謎ですし、気持ち悪過ぎて怖いです。夢に出てきそう・・・。もっと詳しく楽器の詳細が小説には書かれてるので興味がある方は読んでみて下さい。エヴァがかわいそうすぎるのと、子供達は生きたまま楽器になっているので永遠の苦痛というのが惨過ぎて何か色々ダメです。

 ジャームズ亡き後、夫人が拳銃自殺したのもショックからなのか脅されたりしてたのか、自分も楽器にされてしまうかもと思ったからなのか分からないけど怖すぎてビビりますー。

 あーなんかすごく唾液が出てきたので終わります。

 

何か貴志裕介の天使の囀りとか大丈夫だったのにこれは無理ー!!!

天使の囀り (角川ホラー文庫)

天使の囀り (角川ホラー文庫)

  • 作者:貴志 祐介
  • 発売日: 2000/12/08
  • メディア: 文庫
 

山羊座の友人が読みたくて手を出したのですが、最後の最後で大ダメージを受けました・・・涙

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション

メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション

 

でもやっぱり山羊座の友人が一番良かったかな。