≪内容≫
殺人事件から1年後の夏。房総の漁港で暮らす洋平・愛子親子の前に田代が現われ、大手企業に勤めるゲイの優馬は新宿のサウナで直人と出会い、母と沖縄の離島へ引っ越した女子高生・泉は田中と知り合う。それぞれに前歴不詳の3人の男…。惨殺現場に残された「怒」の血文字。整形をして逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作!
あの悪人のチーム再び!
という事で映画凄く見たいです。でももう手遅れの様です。
悪人の時、小説と映画でほぼ変わりなかったので今回の怒りもそうかと思うと見たくてたまりません。
ずばりテーマは「怒り」ではなく「信じるとは」です。
愛してるフリして信じていない。
傷付きたくないから信じきれない。
信じていたのに裏切られた・・・。
「信じる」って口にしたら簡単なのに、綱渡りのように脆く儚い感情。
悪人と同じく後味すっきりしない系。
それでも「悪人」と同様、胸に迫る小説です。
沖縄・千葉・東京編と三篇に分かれています。
それぞれに謎の男が現れる。
果たして殺人犯はいるのか・・・。誰なのか・・・。
東京編~傷付きたくないから信じきれない~
妻夫木×綾野剛編
同性愛者の優馬(妻夫木)がハッテン場と言われている24時間営業のサウナで出逢ったのが謎の男、直人(綾野剛)
無理矢理ことに運んだ優馬は居場所のない直人に自分の家に泊まるよう勧める。なぜだか直人が気になってしかたない優馬。そして優馬を女で一つで育て上げてくれた母に迫る死。その母に寄り添う直人。
しかし、直人の頬にはテレビで見た殺人犯と同じホクロが二つ並んでいた。
そして優馬の知り合いに連続で空き巣が入る。
その知り合いの住所を優馬はスマホに入れていた・・・。
直人への不信感が募った優馬はついに直人へ詰め寄る。
「なんかあるだろ?お前のこと、疑ってんだぞ。泥棒扱いしてんだぞ」
優馬の言葉を直人は鼻で笑った。
そして「疑ってんじゃなくて、信じてんだろ」と真顔で言う。
なぜか優馬は何も言い返せない。
「分かったよ。なんか言ってほしいんだよな。だったら言うよ。『信じてくれて、ありがとう』これでいいか?」
自分が仕事に行ってる間、直人がどんな生活をしてるか優馬は分りません。
直人はスマホさえ持っていなかったから優馬が持たせた。そこにはいつまでたっても優馬しか登録されていなかった。
優馬は自分が同性愛者であることを後ろめたく思っていた。
女手一つで苦労して育った結果が同性愛者なんて・・・そういう世間の目が嫌だった。
半年も一緒にいた直人が帰って来ない。何の脈絡もなく。
犯人は未だ逃走している。そんな時、あの薄暗い発展場で声をかけてきたバカがいたとしたら?バカは自分の家に来いと誘い、そのまま身を隠せる場所まで提供してくれる。金がなくなれば、このバカの友達の家に空き巣に入る。バカの友達なんてバカに決まっている。このバカは騙されてるのも知らずに本気で自分を好きになる。こっちはこのバカを適当にあしらいつつ、やりたくなれば昔の女とも会っていたし、それがバレても「妹だよ」と言えば、バカはその嘘を信じる。笑ってしまうが、このバカは俺と一緒に墓に入ることまで考えている。こっちが話を合わせてやると、嬉しそうにする。本当に嬉しそうな顔をする。
(省略)
実の弟がホモで、おまけに殺人犯を匿っていたなどと世間にバレれば、堅い職業勤めの兄は確実にクビになる。友香も花音も路頭に迷う。
そんな弟は憎まれる。
ただの弟ではなく、ゲイの弟はその何倍も何十倍も憎まれる。
この後警察から「直人を知っているか」と電話が来たが「知らない」を突き通してしまう。
直人を信じるよりも自分が傷つくことが怖い。
直人との関係を知られて幻滅されたくない。
直人が殺人犯かもしれない・・・
人の過去なんて変えようがない。
だけど優馬には自分と半年一緒にいた直人だけじゃ信用出来ない。
空き巣の犯人が捕まり、殺人犯が捕まり、そのどこにも直人はいない。
直人が女と会ってたカフェで優馬は真実を知ることになる。
俺みたいな奴のこと信じるなよ・・・・・。なんで、俺みたいな臆病もののこと、信じるんだよ・・・
ごめん・・・ごめん・・・
東京編が一番好きです。
悲しいけど、暖かい。
千葉編~愛してるフリして信じていない~
渡辺謙×宮崎あおい編
ちょっと頭の弱い愛子(宮崎あおい)が新宿歌舞伎町のソープランドで働いている所を保護された。一人娘の愛子を迎えに行く父(渡辺謙)
愛子は流されやすい。
それ故に歌舞伎町でも男に騙されソープに売られたり
彼氏がいても言い寄ってきた人と寝てしまったり。
大切な娘に幸せになって欲しいと願う父。
ソープランドから連れ帰って来た娘は自分の会社の部下・田代(松山ケンイチ)と恋仲になっていった。
幸せになって欲しい。
だからこそ気になる部下の素性。
部下が以前働いていたという「サザンロッジ」という宿が検索しても見つからない。
そして愛子の友人である明日香の子供の一言で父の疑心は加速する。
テレビに映った殺人犯に驚き
「田代の兄ちゃんが映ったと思った!」と言ったのだった。
「私とお父ちゃんさえ黙ってれば、田代くんここにいられるでしょ?私、自分で分かってるもん。私なんかが普通の人と幸せになれるわけないって。でも田代くんみたいなひとなら・・・
・・・田代君くんみたいな人なら、私のそばにずっといてくれるかもしれないって。だって田代くんには行く所がないんだよ。田代くんにはここしかないんだよ」
結局、俺は愛子をちゃんと育てられなかったのだと洋平は思う。どこの親が、自分は訳ありの男にしか愛されない、などと言う娘の言葉を受け入れられるだろうか。ちゃんとした親なら受け入れられるはずがない。ちゃんと娘を育てられた親なら、そんな言葉を受け入れられるわけがない。
借金を残して死んだ両親の代わりにヤミ金に追われているという田代。
その為偽名を使っていると説明するが、今までの暮らしについては教えてくれない。
不安になった愛子はついに警察に電話をしてしまう。
そして消える田代・・・
「田代くんから信じてくれって言われたのに!私、信じるって言ったのに。お父ちゃんが信じてくれなかったからだ!愛子のこと、お父ちゃんが信じてくれなかったからだ!」
「お父ちゃんが・・・、もしお父ちゃんが私みたいな人間でも、好きになってくれる人はいるって!その人は優しくて立派な人だって!愛子は幸せになれるって!そう言ってくれたら・・・、私、電話なんか・・・、警察に電話なんか・・・」
「お父ちゃん、お前のこと、信じてたぞ。お前は幸せになれるって信じてたぞ」と言ってあげられれば、どんなに楽かと思う。しかし、こんなに打ち拉がれている自分の娘を、もうそんな嘘で騙したくない。自分は娘を信じてやれなかった父親なのだ。
一人娘の愛子の幸せを願う反面で幸せになれないんじゃないかという疑念がいつも取り巻いている父。
自分の身近な人を信じるということ。
自分自身を信じるということ。
一番出来てそうに見えて簡単そうに見えて難しいこと。
当たり前に出来ていそうだから出来てなくても気付かない。
住所不定な人間、訳アリな人間を信用出来ないことに疑問を抱く人は少ないだろう。でも家族や自分を信用出来ないのは理解されにくい。
本当に目の前の人を信じられているかな?
家族を信じているかな?
そして自分は信用されてるかな?
身近な人を信じる難しさ、大切さを問いかけてくる章です。
信じれば信じられた方は強くなれる。
だからまず信じる強さが欲しい。
沖縄編~信じていたからこそ許せなかった~
広瀬すず×佐久本宝×森山未來編
山場です!
男関係にだらしない母を持つ泉(広瀬すず)はその為に転校を繰り返した。
そして今回の転校先となった沖縄で事件に巻き込まれてしまいます。
泉を波留間島へとボートで送る同級生の辰哉は民宿の息子。父は沖縄の反対運動に熱心でそんな父に嫌気をさしている。
無人島で泉が出会った田中(森山未來)を民宿で雇う。
無人島で暮らす田中とたまたま出会った泉。
田中から自分の事を口外しないように言われた泉は律儀に守る。
那覇市に辰哉と買い物に行った時にそこで田中と会い、三人で食事に。
その帰り道、一人で歩いていた泉は米兵に襲われてしまうのだった・・・。
自分が那覇に誘わなければ・・・と自分を責める辰哉は泉という事は伏せて田中に相談する
だってさ、同じような事件がこれまでにも何度もあって、それでも何も解決しなくて・・・、もう解決なんかしないんじゃないかって、みんな心のどっかで思ってて、でもやっぱり解決させなきゃいけなくて・・・。
何度も勇気を出してみんなで立ち上がってるのに、見てくれるのは最初だけで、いつの間にか誰も見てなくて。簡単に立ち上がれるなんて思ったら大間違いで、みんなほんとに勇気振り絞って立ち上がってるのに。
・・・結局、誰も助けてくれない。
泉のこと、父のこと、辰哉は父が熱心に活動している運動が何の解決にもなっていないことを知っている。
そして泉が警察にも誰にも言わないでほしいと被害者が泣き寝入りするしかない現実を目の当たりにしてしまった。
そんな辰哉の悩みに田中は「俺はお前の味方だ」と言った。
その言葉で辰哉は自分には何も出来ないと諦めるのではなく何か出来るのではないかと前を向くことにしたのだった。
目の前に白壁があった。
半分は崩れ落ちているが、まだ二階部分まで残っている箇所もある。その白壁に赤いペンキで「怒」と書きつけられてあったのだ。
ラクガキを見た辰哉は言った「泉ちゃんは心配しなくていいから」と。
怒りとは
生きてるから生まれるもの。
それがあるから強くなったり弱くなったりするもの。
怒りが人を支配して殺人者にするのか、人が怒りによって殺人者になるのか、この物語のトリガーは怒りだった。
人を信じられなくなるのは悲しい。
でも信じたからこそ生まれる憎しみもある。
映画の感想記事はこちら↓
全てが綺麗なユートピアはあり得ない。
生きてく中で全ての人を信じることはしなくていい。
だけど、愛する人、愛したいと思う人は、信じたい。
信じていいんだって思える自分になりたい。
そう思った作品でした。