≪内容≫
パリの女優殺害に端を発する連続殺人。両手を縛られ現場で拘束されていた重要参考人リオンは「神が殺した」と証言。容疑者も手がかりもないまま、ほどなくミラノで起きたピアニスト絞殺事件。またも現場にはリオンが。手がかりは彼の異常な美しさだけだった。舞台をフランクフルト、東京へと移し国際刑事警察機構の僕は独自に捜査を開始した―。
センセーショナルなタイトル。
そして友人が自分を殺人者だと証言したという不可解な所から始まるお話。
ワクワクするじゃないの・・・!
月桂冠の意
複数の現場に残されている月桂冠。
これは何か意味ありげ・・・
ある日アポローンは弓矢で遊んでいたエロースを揶揄する。そのことで激怒したエロースは相手に恋する金の矢をアポローンに、逆に相手を疎む鉛の矢を近くで川遊びをしていたダプネーにそれぞれ放った。
金の矢で射られたアポローンはダプネーに求愛し続ける一方、鉛の矢を射られたダプネーはアポローンを頑なに拒絶した。追うアポローンと逃げるダプネー、ついにアポローンはペーネイオス河畔までダプネーを追いつめたが、ダプネーはアポローンの求愛から逃れるために、父である河の神に自らの身を変える事を強く望んだ。
その望みを聞き届けた父は、ダプネーの体を月桂樹に変えた。あと一歩で手が届くところで月桂樹に変えられてしまったダプネーの姿を見てアポローンはひどく悲しんだ。そしてアポローンは、その愛の永遠の証として月桂樹の枝から月桂冠を作り、永遠に身に着けている。
アルカディア地方やエーリス地方の伝承によると、ピーサ王オイノマオスの息子レウキッポスがダプネーに恋をした。しかしダプネーは男を避けていたので、女装して、自分をオイノマオスの娘だと偽って近づいた。ダプネーは他の女よりも身分が高く、狩りの腕にも秀でていたのですぐにレウキッポスのことを気に入った。しかしアポローン神は腹を立て、ダプネーや他の女たちにラードーン河(en)で泳ぎたいという強い思いを抱かせた。しかしレウキッポスが泳ぎたがらないので、女たちはレウキッポスの衣服をはぎ取り、男であることに気づくと剣で殺した。
なお、セレウコス1世はアンティオキア近郊のダプネ―の地にアポローンの神殿を造営したが、そこにはダプネ―が変身したとされる月桂樹があったという。(Wikipedia参照)
ギリシャ神話って、結構心狭くない?
と思うのは私だけでしょうか。
どう揶揄したか知らないけど、それでそんなに激怒するの?
人の心に作用させる弓を撃つなんてひどくないか?
近くで川遊びをしていたダプネーとんでもなく被害者じゃん。
最後木になるまで追いつめられて、木になってもなお身につけられちゃってるじゃん。
これを愛の証という神経がイミワカラン。
さて、現場に月桂冠を残したのはミシェルなのかリオンなのか。
なんかどっちにも取れるしな。
ミシェルはレナルドへの永遠の証として。
リオンなら神への信仰の証として。
サロメ
各章の冒頭引用に使用されている「サロメ」。
第一章の引用の引用↓
不義の子よ、世にお前を救ひうるものはたゞ一人しかをらぬ。
おれの言つたあの男だ。
その男を探し求めるがいゞ。いま、その男はガリラヤの海に舟を浮かべ、弟子たちと話を交わしてゐる。
岸辺に膝まづき、その名を呼ぶがいゞ。
その男がお前のところへ来たとき、その男は必ず来よう、自分を呼び求める者のもとへは、そのとき、お前はその足もとにひれ伏し、罪の許しを乞ふがいい。
第一章「加護」第二章「原罪」第三章「背信」第四章「懺悔」第五章「犠牲」となっている。
一読した限りだとレナルドが全く知らない世界での出来事が全く描かれていないので、ミシェルとリオンの関係は読者に任せますみたいな感じ。
この不義の子とはリオンなのかミシェルなのか。
リオンがレナルドを神と信じているように、ミシェルもまた彼と出会った時彼を唯一に思ったのではないか。
そしてレナルドはどちらも好きだけど、理性を失うようなことはしなかった。
だから、なんというか原因はレナルドだと思うんだけど、レナルドは蚊帳の外という感じ。
結局レナルドはミシェルと付き合っていたが、ルームメイトのレオンの写真を見たことでミシェルはレオンを好きになった。
でもレオンはレナルドと双子のミシェルをレナルドだと思った。
つまりミシェルにとっては自分を介してレナルドとレオンが愛し合ってるという事に耐えられなかったということ?
それとも、ミシェルをレナルドとしか見ないということはレナルドとリオンが既に自分の知らない所で恋仲になっていると思ったってこと?
なら何故リオンに近づく輩に嫉妬したのか?
殺しつづけたのか?
リオンを愛してたから?
でも死ぬ間際にはレナルドに「貴方を愛してるからよ!」と言っている。
わからん・・・。
アポローンはミシェルで、ダプネーはリオンということ?
ここの心理めっちゃわからないー!!!
ムズカシイ!
どういうことなの!?
美とは虚しいもの
読了してからもう一度読むともしかしたら?と思う節があった。
実は彼が来た一週間後くらいに、指導教官と寮の生活指導担当の先生に呼び出された。二人の先生が僕を待っていた。何事かと思ったけれど、最初の言葉はこんなふうだった。
「私たちはみんな、君のことを信頼しているんだ、レナルド」
最初の言葉がこれってまず疑われてません?
この時点でミシェルとリオンが親密になっていたのではないでしょうか?
更に
現に僕の同級生で、リオンの態度について怒ってやってきた者もいる。「俺のことを笑っただろう」という理由だ。
自然にそういう風に思わせてしまうのだ。
そのときは、僕が間に入った。
そうしなければ、リオンは殴られていただろう。
でも、そいつが帰ったあと、リオンは澄ました表情で僕にこう言ったのだ。
「殴られても良かったよ。殴れば、あの人はきっと後悔することになったから、その方が良かったかもしれない」
この時点でミシェルがリオンに都合の悪い奴に制裁を喰らわせていたんじゃないかと思える。
殺人になったのは、どうやってもリオンがミシェルを認識しないと分かったから。
レナルド(ミシェル)が殺人を行えば、リオンは脅えてレナルドから離れるだろう。
そうすればレナルドとリオンが結ばれることはない。
自分は今まで通りレナルドと共に生きていける。
けれど、殺人をしてもリオンの中でレナルドへの想いは断ち切れなかった。
だから最後にリオンに手をかけた・・・
という私の仮説。
悲しいことに女にしては美しすぎる中性的なリオンに出会う人、みんなが彼を求めてしまう。
それは奪い合いになり、死をもたらす。
美とは虚しいもの。
それほどまでに美しい人に出会ったことがないからわからないけど、好きな人を閉じ込めるようなことはしたくないなぁ。
森博嗣作品。無駄なことは何も書かれていないという印象。
読後もさっぱり、後引かず。
この無駄の無さがすっごい好き。