⑤新任教師は妖怪以上の存在感?妖怪アパートに(なぜか)滝が出現!一方、学校には超個性派の新任教師が着任して、新たな事件の予感…。
⑥体調不良の続出、客室の怪奇現象、そして、やつれていく千晶先生。思い出作りの修学旅行はとんでもないことに……。魔道士修行中の夕士、高2の冬は、特別寒いゾゾゾゾゾー。
妖怪アパート秋編です!
地獄への道は善意で舗装されている
という話を友人が私にしてくれたことがきっかけで、この妖怪アパートを読むこととなりました。
世の中にはいるんですね~
自分の親切が善であり間違っていないと疑わない人間が。
人がどこに善を見出すかは勝手ですけど、押し付けられた方は大迷惑です。
相手が悪いと思ってないから余計にね。
今回はそんなお話です。
5.6、地獄への道は善意で舗装されている
青木先生
主人公・夕士は両親を亡くし一人暮らしをしているが、そのことと自分の人生は繋がってはいても別に考えています。
しかし、この秋にやってきた青木先生は違います。
「稲葉君にこれをと思って」
「俺?」
それは、分厚い英英辞典だった。
「私が使っているものだけど、稲葉君の英会話の勉強にぜひ役立ててほしいの。英英辞典はとても勉強になるわよ」
「イヤ、先生・・・」
「いいのよ」
青木は、俺の言葉を笑顔でさえぎった。
「普通の参考書と違って、こういうものにまで回す余裕はないでしょうから、遠慮なく受け取って」
青木は俺に辞書を受け取らせると、俺の手の上へ自分の手をそっと重ねた。
「なんでも稲葉君の力になるから、くじけないでがんばってね」
「・・・・・」
それから青木は、田代たちに言った。
「みんな、これを依怙贔屓だなんて思わないでね。稲葉君は特別だってこと、みんなもわかってくれているわよね。ハンデのないみんなは、稲葉君を応援しましょうね。みんながいるから、稲葉君だってがんばれるよね」
俺は、自分の目元が引きつるのを感じた。
俺は立ち去ろうとする青木に言った。
「先生、俺は特別でもねぇし、なんのハンデも感じてねーんだけど?」
すると青木は、嬉しそうに小さくガッツポーズをした。
「その意気よ。がんばれー!」
ピキッ!とキレそうになった。
皮肉も通じやしねー!
先生は腹は立ちますが、相手を思って自分の辞書をあげようという良い行いをしています。
これは善行ですよね。
誰かの為に何かをする。
では、何が問題なのか。
それは、自分の価値観で相手の立場を決めつけていることです。
例え、夕士が自分にハンデがあるとは思っていなくても青木先生は両親がいない=ハンデという自分の価値観を通して夕士を見ています。
つまり、目の前にいる本人は見ていないんです。
善人だから、その善意に人は惑わされる。善人だから、それを否定できない。だって善意を否定することは、悪意になっちゃうからね。誰も進んで悪人なんかになりたくないものサ。だから善人のまわりの人は、けっこう迷惑するんだよネー
価値観というフィルターを通した善行に違和感を感じない人も、その善行に救われる人もいる。
けれど、どんなに現実が汚いもので苦しいものでも、自分の目で向き合おうとしてる人間の行いは善行にはならない。
こういう綺麗事の世界に生きてる人が大嫌いです。
自分の目で向き合う勇気もないのに、人を決めつける神経。
そしてそういう自分が善人だと疑わない神経。
千晶先生のように「言語が違うから」と無視出来ればいいんですが、私は夕士と同じようにムカムカして「言ってやるー!」と思ってしまいます。
自分いいことしてる~♪みたいな笑顔をぶっ潰してやりたい・・・と友人に相談したら「無視しなさい」と冷静に諭されました。
千晶先生
お前らは、人のことをモテていいなあなんて、軽く言ってくれるけどな。女に限らず、他人に意識してもらうには努力がいるんだぞ!?
なんの努力もしないで目立とうなんざ、そりゃいかにも頭が悪い!
そんなことで目立っても、女にモテるどころかすぐに行き詰るだけだ。
まず自分を磨くこと。女にモテることはその後からついてくる。黙っててもな
女にも、男にもモテる千晶。
「他人に意識してもらうには努力がいる」という言葉には、他人がいて自分がいるという前提がある。
千晶にだって価値観はある。
でもその価値観は人によって違うし、ケースバイケースということが世の中の大半であって、自分の考えは一つの指標にしかならないことを知っている。
方法ではなく、思想を伝える。
そこからどう変わるかはその人次第。
地獄への道は善意で舗装されている
この言葉本当に深いな~と思います。
この言葉が出来た由来も。
例えば善人の行いに対して「余計なお世話だ」というようなことを言うと「卑屈・ひねくれている人」と、近所のオバチャンが「や~ね~」なんてひそひそ話をする図が浮かぶ。
しかし、オバチャンは全く無関係の人間です。
これは青木先生に心酔する生徒と同じです。
青木の言葉が自分の言葉。青木の痛みは自分たちが晴らす。
自分で考えることの放棄。
放棄すれば選択肢はなくなります。
放棄された思考は他者を攻撃します。
敵か味方か。
それしかない。
自分にとって都合がいいか、悪いか、それだけ。
自分の善意を受け取る善人と、受け取らない悪人。
受け取らないのは自分のせいではなく、相手が悪人だから。
ここまでいうと二分化しすぎですが、構図はこんな感じだと思います。
端的にいうと、自分が善人だと思ってる奴が一番地獄に近いとこにいるということです。
その道を悪人が通る。
その時、善人は道を作っておきながら「気をつけてね」なんて言うのでしょうか。
それってなんだか矛盾してませんか?
これから苦しむための道を作っておきながら祈る。
もっと深く善悪や、思考、差別、そういうことを掘り下げて考えていきたいなと思う巻でした。
私が善人をぶっ潰してやりたいと思うのは、自分の考えがまとまってなくて腑に落ちていないからだと思う。
本当のところ、ぶっ潰しても何にもならないし、お土産もお菓子とか石鹸とか実用的だし割り切って助かるー!と思えればいいのに、なんだか気に食わないのはそのせいだと気付いた。
妖怪アパート、ほんとにいろんな事に気付かせてくれる。
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ほんとに児童書かね?