オスカーの出生にまつわる秘密……。それが父母の愛を破局に導き、思いがけない悲劇を呼び寄せた。母を亡くしたオスカーと父グスタフのあてどもない旅が始まる。名作「トーマの心臓」番外篇表題作ほか、戦時下のパリで世界の汚れを背負った少年の聖なる怪物性を描いた「エッグ・スタンド」、翼ある天使への進化を夢想する「天使の擬態」など、問題作3篇を収録。
- 訪問者
- 城
- エッグ・スタンド
- 天使の擬態
の4作品が収録されています。
一冊にするには胃もたれするくらい濃厚な4作品です。
どのお話も簡単には飲み込めない重厚なお話。
きっと何度も何度も読み返すだろうなぁと思います。
それくらい、読むたびに違う感情を引き出されそうな気がしてならない一冊です。
訪問者
寄宿舎では大人でリーダー的なオスカーの物語。
そこには父の愛を求める少年がいました。
彼は父のことが大好きだった。例え家では自分を無視していても。
あるとき・・・雪の上に足跡を残して神様がきた
そして森の動物たちをたくさん殺している狩人に会った
「お前の家は?」と神様は言った
「あそこです」と狩人は答えた
「ではそこへ行こう」裁きを行うために
神様が家に行くと家の中にみどり児が眠っていた・・・
それで神様は裁くのをやめてきた道を帰っていった
ごらん・・・
丘の雪の上に足跡を探せるかい?
オスカー
父がしてくれたこの「神様がきた話」が物語の軸になっています。
家の中にいて許される子供になりたかったオスカー。
本当の父ではなく、母を殺した父だった。
それでも父の子供でいたかった。
寄宿舎で彼を迎えたユリスモールは父に似ていた。
自分が父の子供なら父を裁く神は来れないとそう教えてくれたのは父だったのに、父は違う家へオスカーを置いた。
神に裁かれる旅に出た父とはもう二度と会えないと悟ったオスカーだった。
エッグ・スタンド
ナチス・ドイツによるフランス占領の時代。
占領下パリでのお話。
当時ヒトラーによるユダヤ狩りがフランスでも行われていた。
ベルリンからパリにきたユダヤ人少女ルイーズと少年ラウルの物語。
戦争でたくさんの人が死ぬ中、人殺しをしていくラウル。
タマゴの中に死んだヒヨコが入ってるんだ
孵化しないでカラを割れないで死んだ黒いヒヨコ
見たことある?ルイーズ
そのヒヨコはずっとねむってて・・・
自分が死んだことも知らないでいるのかもしれない
ぼくは目を覚ましてカラの外に出たくてママを殺して村をとびだしたけど
村からずいぶん遠くへ来たけど・・・
まだ自分が生きてるのか死んでるのかわからない
人殺しはいけないことだというレジスタンスのマルシャンにラウルはこう問う。
マルシャン
人殺しってそんなにいけない?
ならどうしてみんな戦争してるの
ヒヨコはどこから世界を見ていたのか。
死んだ世界から?それともまだ目覚める前の夢の中から?
戦争は死んだ世界?それとも悪い夢?
現実はどこに。
天使の擬態
いつか人は翼ある天使に進化するのだろうか
じゃあそれまでは
せめて
天使のふりでもしていよう
進化した側と淘汰された側のお話。
次子は前の彼氏との間に出来た子供を中絶していた。
悪い方に進化した自分によって淘汰されてしまった子供。
淘汰された側に進化はないけど、その子に翼ができてほしいと願う次子。
萩尾さんの作品で大人の男女がメインの作品ってほとんど見なかったので新鮮でした。
かつ、やはりとても良かった。
天使に進化するかもしれない・・・という夢見がちな言葉の裏にある次子の切実な願いとそれを受け入れ抱きしめる先生がとても素敵でした。
萩尾さんの作品はいつも「愛」ってなんだ!?と重く問いかけてきます。
愛を持っていないキャラクターが一人もいないからです。
それぞれが悩み、苦しみ、生きている。
むき出しの人もいれば、それが分からずに彷徨う人も、受け止める人も、求める人も・・・。
人は恋愛だけじゃなく、色んな愛で出来ていると思う。
だけど「これはこういう愛」「こっちはこういう愛」と区別することは難しい。
「愛」は一纏めにされ、簡単に使われるけど、自分が求めている「愛」や苦しんでいる「愛」は同じ「愛」でも違うはず。
次は萩尾作品、何読もうかな。