深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】蠅の王~ラスト20分からの恐怖、人間と動物の違いとは何か、供犠はどこから来るのか~

スポンサーリンク

≪内容≫

時代は核戦争が起こる近未来。陸軍幼年学校の生徒たちを乗せた飛行機が墜落した。一命を取り留めた24人の少年たちは、近くの無人島へ漂着する。しかし彼らは、世間から隔絶されたこの島で、己の内に秘めた野性に目覚め、やがて理性と秩序を失ってゆく…。ノーベル賞作家W・ゴールディングの傑作小説を映画化。

 

 これは「エロティシズム」の動物と人間の違いを如実に表していると思います。私たちは動物的な本能から現在の人間になるために社会や労働を作りました。すなわち社会性がなくなれば動物に戻るということをこの映画は描いていると思います。 

エロティシズム (ちくま学芸文庫)

エロティシズム (ちくま学芸文庫)

 

「エロティシズム」の記事を読む。

 人の子だった彼らがどんどん言葉を失い、道徳を失っていく様は恐怖そのもの。彼らの狂気は人間における最高の禁止を犯した侵犯によるもの。故に凄まじく恐ろしいものになっています。

 

人間の象徴・ピギー

f:id:xxxaki:20170225152824j:plain

どっちがいいと思う?

 無人島に置き去りにされた少年たちはルールと役割を決めて救助を待とうと試みます。しかし思春期の少年たちにとって、それが何であれルールが生まれれば地位も生まれます

 純粋な助けを求める少年と、子供たちだけの島ということで自分の王国に作り変えたいと企む少年に別れて行きます。

 助けはいつ来るか分からないので子供たちは協力して食料を確保しなければなりません。ここにくるまではスーパーでパックに入っている肉を親が料理したりファストフードなどで原型が分からない形で口にしていた。

 しかしこうなったら生きている動物をしとめ、自分たちで殺さなければなりません。このとき、権力は"できる"人間に与えられます。怖気づかずに血を流させる者こそが強いのです。そして血は触れたものの変えていく力があった。

 

 生きるために野性に近付く少年たちの中でピギーは「ルールと話し合い」を求めます。しかし社会的に正しいことは自然の中では無力です。

 

 彼は殺されます。事故ではありません。この意見を言ったのが他の者なら石を落とされなかったでしょう。幼稚ないじめの結果が、最後まで残っていた人間としての道徳さえも殺します。

 

 ピギーと一緒に人間側にいたラルフは仕留めらた豚のように追い詰められて行きます。彼が追い詰められていくシーンは、最初の方に野性側であるジャック達が豚を追い詰めたシーンを彷彿させます。

 動物と人間の境がいよいよ無くなったところで救助船が到着し物語は終わりを迎える。

 

供犠と殺しの正当化

f:id:xxxaki:20170225154625j:plain

 無人島に着いた彼らに芽生えたのは"獣"という得体のしれない化け物への恐怖心です。これは無人島に不時着し死んだ人の姿でした。恐らく事故死であり、岩に叩きつけられた姿のままヘルメットや服、パラシュートもそのままついていました。

 しかし恐怖という先入観により真実よりも恐ろしいものとして彼らの目に映ってしまったのです。

 そこで彼らは殺した豚の頭を獣に供えるという供犠を行うようになったのです。獣の怒りが自分たちに向かないように。

 

 この「獣は姿を変えてくる」とは人殺しの免罪符です。

 人を殺しても獣が人間の姿になってきたのだと言いかえれば殺す理由が出来るわけです。彼らは夜の宴の中で森から出てきたサイモンを殺しています。殺す合図は「獣だ!殺せ!」です。その一言でかつて仲間だった人間を殺しているのです。だんだん合図は言葉ではなく奇妙な口笛に変わります。

 

 このまま救助が来なければ彼らは言葉を失っていただろうと思います。道徳はもちろん羞恥心も消え、生への本能と恐怖だけが残ったような気がします。

 すなわち人間はもともと生への本能と恐怖が根本であって、道徳や羞恥心は人間が進化していく過程で生き残るために受け継がれていっただけにすぎないという風に思いました。

 

宗教が生む残虐性

f:id:xxxaki:20170225160436j:plain

 聖歌隊ってキリスト教ですよね?汝殺すなかれ。はどうした。先陣切っていじめるわ、狩りをするわ、殺すわ、やりたい放題。

禁止が強いほど侵犯は深い。

まさにこの心理が表現されています。

無人島+子供だけという状況が彼を禁止から解放した。

 

 宗教が怖いのは禁止が強いからです。それゆえに侵犯が恐ろしいほど残虐。

  真実を見る目を潰し(サイモン)、人間性を殺し(ピギー)、反逆者(ラルフ)を痛めつけようとする。

 そしてありもしない空想の獣に脅える。

 人間の卑劣さ、汚さ、弱さ、そういうものの象徴が聖歌隊のリーダーであるジャックという皮肉。救われたいというのは、救われるためなら何でもしていいということなのだろうか?そう問われてる気がしてならない。

 

 最初は豚にナイフを突きつけるのを躊躇していたジャック。しかし生きるためにその恐れを真っ先に捨てたのはジャックです。

 

 実際自分がこんな状況に陥ったならどうなるだろうか、考えたくもないです。生きるためにジャック側についていたかもしれないし、恐怖と絶望にかられて海に身を投げたかもしれないし・・・。

 

人間と動物の違い。

それってどこからなんだろう。

何がどうして今の人間になったのでしょうか。

そんなこと興味ないですか?

蠅の王 [DVD]

蠅の王 [DVD]

 

 カラー版↓

蝿の王 [DVD]

蝿の王 [DVD]

 

 こうやって人は人を殺してきたんだろうな。