≪内容≫
お兄ちゃん、なんで死んじゃったの…!?あたし、月夜は18歳のパープル・アイで「もらわれっ子」。誰よりも大好きなお兄ちゃんの奈落に目の前で死なれてから、あたしの存在は宙に浮いてしまった。そんな中、町で年に一度開かれる「無花果UFOフェスティバル」にやってきたのは、不思議な2人連れ男子の密と約。あたしにはどうしても、密がお兄ちゃんに見えて…。少女のかなしみと妄想が世界を塗り替える傑作長篇!
内容自体は端的に言うと「愛する人の死を乗り越える」って話なんですが、感動ラブストーリーにでもなりそうな設定にも関わらず、やはり桜庭一樹らしく"恋愛"ではなく"苦悩"の方に焦点が当たっているのがいいなぁ~って思いました。
無花果の葉
舞台は無花果町。
アダムとイブが股間を隠した無花果の葉っぱ。
無花果の葉で大事なものを隠す町。
主人公・月夜はもらわれっこ。
おとうさんと兄貴とお兄ちゃんの三人で暮らしていて、ケンカもするけど仲の良い家族。
中でもお兄ちゃんの奈落とは格段仲が良かった。
だけど無花果の葉を取ろうとした奈落は死んでしまった。
つまりさ、あんたがそうやって無花果の葉で大事なとこ隠して、発育不良気味の子供っぽい女の子を演じてないと、守れない大事なものでもどっかにあるのかなって、ふと閃いただけ
家族。お父さん、兄貴、お兄ちゃん、そしてもらわれっこの私。
4人の世界。
兄貴とお兄ちゃんの母のことも、彼女のことも、話さない。
大事なところは隠しておくもの。それは家族だから?私がもらわれっこだから?
「発育不良気味の子供っぽい女の子を演じてないと、守れない大事なもの」、みんなが当たり前に恋したり受験勉強していくなかで、月夜は戦線離脱しようとしていた。
大人になると、世界は急に変わってしまう。
18歳の制服と19歳の喪服。
死んでしまったお兄ちゃんは、お兄ちゃんから死者になった。
お兄ちゃんが死者になって、無花果の葉にもうひとつ大事なものが隠された。
それは奈落の話をすることだった。
自白剤にて
語ることではなく、"どうしても語ることのできない重大ななにか"こそが、じつはその人自身なのだ、って。だから、これを飲んで自白しあうことで、互いをよりよく知ることができるって
奈落は月夜が好きだった。
だけど家族の誰もがバランスが崩れないように注意して生きてきたから、家族を壊すようなことが怖かった月夜。
だけど、奈落が死んだのは奈落が月夜にキスしたからだった。
月夜にとって、大人になるということは家族を壊すことになるだろうっていう漠然とした予感があって、だから大人になることを拒否していたのだと思う。
彼女はどういう意味で奈落を好きだったかわからないと書いているけど、分かってしまったら家族を壊すから鈍らせていたんじゃないかなぁと。
それが自白剤によって爆発してしまった。
家族の役割分担も性格も顔も分かっていてもどうしても語ることのできない重大ななにか"はすっぽりと隠されてしまって、話しても話しても分かり合えない。
苦しくて、でもその苦しみを口に出すのも苦しくて、口に出したって楽になれるわけもなくって。
葉っぱをひょいと取り払えばすむのに、羞恥心や恐怖が許してくれない。
自白剤・・・現実にはお酒かな?
人はきっと家族にだって隠しごとがある。
だから他人なら尚更の事、自白剤が必要なんだ。
飲み会ってお酒好きじゃないから嫌いだけど、自白会と思えば分かりやすいなぁ~って思いました。
だから飲み会ってあるんですね。
月夜と奈落
あぁ。
本当なんだな。
あたしが大好きだったあのお兄ちゃんは、本当に、もうどこにもいないんだな。
本当に、あの日死んだんだな。
それでそれきりなんだな。
ここのシーンで思い出したのが「ツナグ/辻村深月」の"待ち人の心得"。
消えた恋人を探す話なんですが、使者に頼んで見つかれば恋人は死んでいることが確定されてしまう。もし待っているだけなら永遠に忘れないで、永遠に恋人でいれるのに・・・という話。
月夜はずっと奈落が死んだことを受け入れられずにいました。
最後の最後に兄貴とお父さんの無花果の葉が取り払われるまで。
奈落が死んだこと、家族の禁忌の中に奈落も含まれるようになったこと、自分のせいで奈落が死んだこと、月夜は現実から逃げるように死に向かっていました。
だけど、ちゃんと受け入れてからは「好き」の気持ちはそのまま、前を向いて「さよなら、お兄ちゃん・・・」と別れを告げられるようになりました。
この血の繋がっていない超モテる高校のアイドルである兄×美人な妹という設定で、兄がアーモンドアレルギーを持っていて、その日たまたま妹がアーモンドチョコバーのアイスを食べた口に初めてキスして死ぬという設定。兄の彼女から嫌われる妹・・・とかすっごいドロドロな恋愛にいきそうな設定だと思うんですが、そんな方向には行かずすっごく清潔というか純粋な印象なんですよ。
最後の奈落が一人で逝ってしまう場面も、悲しみまではいかない切ないくらいに抑えられていて、なんだか純真な感じなんですよね。
私はこの桜庭一樹の悲しみとか恋愛とかに振り切らないで、でもずっと悲しみとか切なさとかが漂っているような世界観が好きです。
「これがいいたいことです!」っていう押し付けがなくて、共感も得られるような女の子でも設定でもないけど、読んでいる内に月夜の不安に自分も眉間にシワを寄せてしまっている・・・みたいな。
イメージではこの作品に近いかなぁ。
今年は桜庭一樹作品の読破いけそうだなぁ。
ファミリーポートレイトより楽に読めます。
ファンタジーではないけれど、ファンタジーとかラノベ的な世界が好きな人は好きだと思います。
好きじゃない人はぜひ桜庭さんから入ってみてはいかがでしょうか。
ドライ無花果が好き。