深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

製鉄天使/桜庭一樹~あたしの子供の本物の魂よ、燃えて死ね!~

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≪内容≫

東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す―一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。伝説の少女の唖然呆然の一代記。

 

これ赤朽葉家の伝説のスピンオフなんですね。

「赤朽葉家の伝説」の記事を読む。

 

世界に体当たり。

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暴走族の話です。

主人公・小豆ちゃんは、男の後ろに乗る女の子じゃなくって自分がぶっ飛ばしていく女の子。

こうやって色んな桜庭一樹作品を読んでいくと、彼女の作品の女の子はみーんな戦ってますね。

男に寄りかかる(?)というか、誰かに頼るというのがない気がする。

彼女は生まれもった負けん気の強さと鉄を自在に操れる力で勢力を拡大していきます。

だけど、彼女は何かを征服したいのではなくてただ走りたいだけ・・・というのでした。

 

ハイウェイってぇのは、誰のものでもないんだ。

そして、そしてよ、誰のものでもない場所を手にするために、戦争(ドンパチ)が始まる。それが世の中ってぇものの恐ろしさよ。

 

私は暴走族とか不良ってなんでわざわざ痛いことするんだろう?と思っていました。

ケンカとかもそうだし、ノーヘルとかまずバイクって時点でむき出しじゃないですか。車みたいに守られていなくって全身を曝してるわけなので、かなり危ないと思うんですよね。

 

でもじゃあ自分は何一つ危ないことをしていなかったかというとそうでもなく。私の場合はライブハウスに行ってダイブしたりモッシュしたりっていうのに参加してました。最前列とか行くともう呼吸出来ないくらい苦しくて酸素なくってとにかく危険でした。

 

だけど、その当時16歳~19歳くらいって何か自分を傷付けたくてしょうがなかったんだと思います。自傷行為とか、そういうのじゃなくて、何かに体当たりしたいっていう感じでした。自分を守るより消耗させたい。それで生きてるって実感するような。

男子だとこれみたいに。

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「クローズZERO」の記事を読む。

バイクって全身に風や音を感じます。

それって、世界に体当たりしている感覚なんじゃないかなぁって思います。

 

えいえんの国へ

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風に、なりてぇんだよ。兄貴ぃ。

そんでもって、気のおけねぇ仲間とさぁ、えいえんの国に行っちまいたいんだ。 

 

 この話は小豆の中学1年生から高校2年生までの話なんですが、青春というと大体ここの期間のことを言うと思います。

青春を感じるとき、同時に終わりも感じているんですよね。

大人になることは、成長することは誰にも止められない。今のまま永遠に時が止まることはない。自分たちは変わらない!って意気込んだって、世界はどんどん変わるから自分たちも必然に変わってしまうもの。

そういうのを感じているんですね。。。

 

桜庭一樹作品で思うのは、男の子の方が先に大人の階段を昇るんです。

七竈の雪風も、砂糖菓子の花名島も、荒野の悠也も、そして本書では小豆の彼氏のタケルも。

いつも女の子は置いてけぼりにされたような、それでいて子供ではいられないんだと傷付いたり、悟ったりします。

ここが桜庭一樹作品に漂う少女感の所以だと思います。

 

私が好きな漫画家に安西信行さんという方がいるのですが、

この人の書く女の子は桜庭一樹と真逆なんです。

安西さんが書く女の子には「母性」が絶対あるんです。

ヒロインは守られてばかりで「ちぱちぱ」という拍手をしたり天然MAXな感じなのですが、ここぞって時の芯の強さはピカイチです。

私は烈火では音遠や風子ちゃん、メルではいわずもがな!ドロシーが大好きです。キメラも捨てがたいなぁ・・・。

MAR(1) (少年サンデーコミックス)

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彼女たちも(音遠やキメラは別として)、高校生くらいだと思うんですけど、少女って言うより女性に近いです。

それはやっぱり母性があるからだと思います。

 

桜庭一樹の戦う女の子たちに母性はほとんど見えない。誰かを守りたいとか、誰かのためにとか、そういうものがなくって常に対自分で生きている

そういうところが「少女」なんだよなぁ~って思います。

年齢じゃない。 

 

流れでる血からは、確かに、大人の体臭ってやつがした・・・。

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走れ。

斬れ。

叫べ。

燃えてしまえ。

青春。

 

ここでいますぐ終わってもいい。燃えて死ぬなら本望だぜ。

 

自慢の親友は少年院で落ちぶれて死んで、すげぇカレシも、ある日、一人で大人の階段のぼっちまった。もうすぐ終わる。中国地方統一。せかいでいちばん。走るしかねぇ、ほかになんにもねぇ、貧しい天使の、見果てぬ夢。伝説のメスガキになってやるんだ。みんなでよぅ。初めての偉業を成し遂げたすげぇオンナになってから、死ぬんだ。

 

今夜ここで終わっていい。

どうせみんな大人になるんだ。

魂、なくすんだ。

あたしの子供の本物の魂よ、今宵、この戦いの舞の中で・・・燃えて死ね!

 

 この時点で、小豆はもう自分が半分大人になりかけていることに気付いています。なぜ大人の階段のぼっちゃったのか。いつのぼっちゃったのか。それは本人にも分からない。きっと、私たちもいつなのかなぜなのか、知らずにのぼってきた階段。

 

小豆はスミレという親友を失ったときに、この世にはどうにもならないことがあるんだっていう現実を突きつけられました。

大人のいうことも学校もイヤイヤと放り出しても生きていけるけど、本当に大切なものを失くしたとき、乗り越えるためには「あきらめる」ことが絶対に必要です。

 

私はこの最後の最後、子供の魂の最後の瞬間がとっても美しく描かれていて好きです。美しくて、でも生き生きしていて、汗臭くって、あきらめに抵抗するように戦う小豆ちゃんがすっごくキラキラしてみえるのです。

 

あと、もうひとつ好きなところ。

彼女の愛用のバイクは最初からず~っと小豆ちゃんと話しています。

魔女宅のキキとジジのように。

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それが、小豆ちゃんが自分自身に大人を感じ取ってからは上手く意思疎通が出来なくなっていきます。

それも魔女宅と同じです。ジジの言葉が分からなくなってしまったキキ。

本書と照らし合わせて考えるなら、キキも小豆も大人になったんだ・・・という解釈になります。

それはきっと二人の心に「責任」が生まれたんじゃないかなと思います。

誰かに相談して、誰かと手を繋いで生きていくのはもう終わり。さぁ一人立ちの時間だよって具合なんじゃないかなぁ~と、今更ながら思いました。

 

誰かに自分の子供の魂を殺されたり汚されたり奪われたりするんじゃなくて、自分で燃やして殺してやる!ってところが、本書の魅力だと思います。

自慢の親友にもすげぇカレシにも引きずられないで、自分の幕は自分で下ろす。

そういうめちゃくちゃかっこいい子供の魂をぜひ感じてほしいなぁと思います。

真っ赤な鉄のハートに甘いメランコリック。