一人の男を巡る妻と愛人の執念の争いを描いたブラックな話から、読書クラブに在籍する高校生の悩みを描いた日常ミステリー、大学生の恋愛のはじまりと終わりを描いた青春小説、山の上ホテルを舞台にした伝奇小説、酔いつぶれた三十路の女の人生をめぐる話、少年のひと夏の冒険など、さまざまなジャンルを切れ味鋭く鮮やかに描く著者初の短編集。著者によるあとがきつき。
この表紙をむかーし見たことがある気がするんですが、インパクトがすご過ぎて覚えています。少女の髪の分け目がカントリーロードと繋がっているなんて、とんでもなく発想豊かだなって思います。
違和感ないしぃ!!
青年のための推理クラブ
ノリだけ楽しいけれど、おとなには気楽な女学生だと思われてるけれど、じつはなにか、姿の見えないものにわたしたちは圧迫されている。でも少なくともこの部室には、清く正しく無個性な学校生活を同じように息苦しく感じている仲間がいるし、お互いのことをよく知っている。気後れせずになんだって率直に話し合える。
そう思うと玲菜は、ちょっとだけほっとするのだった。
知らない人はこちらを読んでみてください。
こちらの番外編という感じです。
ちょっと変わった部活動。
それぞれを好きな作家の名前で呼び合い、ヴィクトリア朝のヨーロッパにいる青年のふりをしてかっこよく会話するという伝統ある読書クラブ。
先輩も後輩も関係なく、ふだんは話せない真面目なことも好き勝手話せる"ごっこ遊び"なのでした。
「青年のための読書クラブ」と同様、学園から弾かれたクラブの部員たちは暖かく冷静で友達思いです。
それは熱に浮かされたような暑苦しい友情でも涙を誘うような感動青春ストーリーでもないけれど、部員みんなで苦しい季節を乗り越えようとするささやかな戦いが行われています。
今回は読書ではなく、推理。
部員の不正な行いを見て見ぬフリをするか、罪を告発するか、どちらが本当の友達のすることだろう?
推理と合わせて本当の友達ならどうするか?を犯行現場を目撃した部員たちは話し合います。
そこには「見て見ぬフリしよ!」「そうだね。それがいいね!」と簡単に終わらせない「いや、そうは思わない。」「自分だったら見て見ぬフリをしてほしくない」という討論になっていく。
本当の友情は討論から生まれると私は思っています。
そして孤独を癒すのも他者との会話だと思っているから、青年のための~作品は大好きです。本当のやさしさって全て受け入れることじゃなくて、相手と一緒に考えることだと思う。それが寄り添うってことだと思う。
冬の牡丹
いったいどうすれば、ほんとうに一生懸命生きる、なんて奇跡のような芸当ができるのか。
わたしたちがどう戦えば、あなたたちは満足するのか。
わたしたちを赦してくれるのか。
32歳の牡丹、独身、派遣社員、襤褸アパートに一人暮らし。妹が一人いて、すでに結婚している。
肩書きはコンビニ人間と同じような感じですね。
牡丹は美人で恋愛経験も豊富な設定ですが、彼女もまた苦しんでいます。
共通するのは「家族を悲しませたくない」というところです。
もはや恋愛や結婚は自分の将来にのみならず、家族の問題なんですよね・・・。
私も自分が一人でいることにそこまで寂しさはないんですが、親の心配そうな顔を見ることが唯一気が重いです。
だからといって好きでもない人と結婚するのも自分の意思に反するし・・・というかしたくないことをするのはいやだ。
絶対「親の為にしたのに」って人のせいにしちゃうから。
そういう人生はいやだ。
牡丹と老年の男性の話なんですが、恋愛ではありません。
でもどこか「私の男」感があって好きだなぁと思いました。恋愛じゃない。でも欲しい言葉をくれる人、私を分かってくれそうな人。
父の期待を一身に背負った姉と、反抗してきた妹。
父の愛は姉の牡丹だけに注がれていたのに、いつの間にか仕事一筋の自分より、さっさと結婚した妹の方を正しいという目で見ていた父。
大人になったようで、大人のフリを続けているワガママで優柔不断な牡丹は迷いながら震えている。
大人になるなんてどうやったら出来るんだろうな。
どうやったらあるものの中から選ぶってことができるんだろうな。
今は見えなくても、見えるときを待つのはワガママなことなのかな。
女ってむずかしい。
赤い犬花
いきなり知らない村に置いていかれて、悲しくてパニックになって、そしたら、どうしてか納屋のダンボールの中が落ち着くから隠れてたんだと話したとき。
わけのわかんない話だから恥ずかしかったんだけれど、ユキノはフンフンと聞いてくれてて、で、こう答えたのだ。
なんなんだか、自分でもわかんねぇけど、でもぜったいにそうしたいんだってこと、たまーにあるもんなぁ。
ショックでおかしくなっちゃって一生懸命へんなことする、のところはなんかわかるかもー。って。
あとがきから「Bamboo」の前作というのを知って納得。
確かにこういう話だった。↓こちらの本に収録されています。
バンパイアの話で結構この話も好きだった。
赤い犬花は東京の小学生が夏休みにおじいちゃん家にひとり置いていかれちゃって、そこでそこに住む田舎の少年(少女)と出会うお話です。
ひと夏の冒険・・・みたいな。
その夏、僕はひとつ大人に近付いた・・・みたいな。
少年の素直な心情が描かれていて、ドロドロした要素が一切ない作品。
二人の子供の家庭環境はドロドロしているのに、子供たちは無垢で純粋。
それがすごく輝いていた。
大人の事情ってヤツに振り回されても、子供の魂は汚れない。
そこで戦死するか、生き延びるかは合っても、魂はキレイなままなのだ。
↑
こういうところが桜庭さんらしいというか、どんな場合も子供の魂は純潔なのです。じゃあ純潔ではない子供は?というと、白夜行の雪穂ちゃんあたりが私の中では思い当たるかなぁ。
実際は分からないけど作品の中に雪穂ちゃんの心情や描写が少なかったからそう思った気がします。
本書の中の「五月雨」や「モコ&猫」も好きです。
「五月雨」は「伏・贋作里美八犬伝」ぽい感じです。伝記ものというか。
次はどんな作品が出るのか楽しみ!