深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

動かないで/マルガレット・マッツアンティーニ~動かないで、ここにいて~

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≪内容≫

外科医ティモーテオの愛娘が交通事故に遭い、彼が勤める病院に運び込まれる。意識不明の娘の枕許で彼が語りだしたのは、惨めで、みすぼらしい、彼が唯一愛した女の話だった-。イタリア文学界の最高峰、ストレーガ賞受賞作。

 

これもばらばら~のために読んだ作品。

「ばらばら死体の夜」の記事を読む。

 

ただ、この話・・・イタリアでは人気らしいのですが、日本だと・・・どうでしょう?日本のドラマや映画でこういう設定のものを見たことない気がします・・・。

「赤いアモーレ」という映画の元のようですが、これがとっても面白そうなので、時間作ってみたいと思います!!

赤いアモーレ [DVD]

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「赤いアモーレ」の記事を読む。

 

動かないで

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動かないで・・・というと分かりづらいのですが、amazonのレビューで「そのままでいて」という言葉を見つけ、これだー!と思いました。

 

この話は、いわゆる勝ち組の男(医者、美人の妻有り)みすぼらしい女・イタリアにハマる。(つまり不倫)妻と離婚するする思いながらもイタリアの妊娠が発覚した直後に妻の妊娠が発覚。結局、中絶したときの後遺症でイタリアは死んでしまう。

数年が経ち、男は、娘が交通事故で生死を彷徨っているとき、罪を告白し始める。

 

という話で、クズ野郎と言われてもしょうがないダメ男が主人公です。

しかし作者は女性!

 

ひどい男です。

でもどこか彼に共感してしまう人っているんじゃないかなぁ・・・と思います。不倫っていうキーワードじゃなくても、いつの間にか自分の希望とは違う道に立っていることに気付き、進路変更しようとしてももう変更出来ないところまで来てしまった・・・ということってあるんじゃないかな、と思うのです。

 

自分の人生ですから「俺はイタリアが好きなんだ!君(妻)とは離婚する!」という決定も出来たでしょう。だけど、職業というのはその人の本質に近いものだと私は思っています。

 

普通のサラリーマンと、政治家と、社長と、医者と、フリーターと、芸術家は、みんな「同じ愛」を持っていると思いますか?

同じ人間だし、男なんだから同じだと思いますか?

愛というか、求めているもの・・・価値観というのか、世間からの評価というか。

 

この男、ティモーテオは妻と別れられなかったのではなく、そういうものを捨てられなかったんだろうと思います。

不倫、離婚、みすぼらしい女と結婚すること・・・これらは世間体が良くないですよね?

自分が愛していても、世間体は今の妻の方がはるかに良い。

 

だから、とても自分勝手だけどティモーテオは望んでいた「動かないで」。

まるで薄氷の上にみんなが立っていて、誰かが動けば壊れてしまうような、そんな繊細な土台で生きていたから。

 

なんでみすぼらしい女を好きになる?

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清潔で美しい妻より、不潔でみすぼらしいイタリアを愛するティモーテオ。

これがね・・・ちょっと分かる。

 

たぶんティモーテオは、自分の好みより世間体を重視して妻(エルサ)と結婚したんじゃないかな、と思います。

世間の大多数の意見が正しいように見えてしまって、自分の本質と向き合う前にそれが正しいと決めつけてしまった。

 

ティモーテオはワガママだし寂しがりです。

そんな人間がエルサのような自己主張強くってこだわりのある人間と合うわけない。

たぶんエルサは"ちゃんとしている人間"です。

完璧な女性。はたからみて羨ましがられるような人。

そういう人って、はたからみる分にはとてもステキですけど、一緒にいると窮屈です。

別にティモーテオに何か強要するわけではなくても、かっこ悪いことは許されないような気になってくる。

 

不潔でみすぼらしいことだけではなく、イタリアは優しかった。

どこか欠点が目につく人って安心するんですよね。

「きっと受け入れてくれる」と思わせる。

それはたぶん防御が薄いからだと思う。

化粧や、美しく手入れされた髪の毛、洗練されたスタイル、ブランドのバッグやヒールは、私には甲冑のように見える。

 

こっちは戦う気なくても、目の前に甲冑付けている人が現れたら構えますよね?

そんな感覚です。

男性で言うと職業と、その職業故の発言が武器。

武器を目の前でちらつかせられると盾を探してしまう。その武器にひれ伏すようなことや、その武器が守ってくれるとは思うことが出来ない。

 

彼女の髪は目を見張るほどきれいなのはたしかだが、おれの好みからすれば量が多すぎる。彼女の胸は完璧で、大げさではなくじつにみごとだ。

でもおれは、そこに触ろうなんてまったく思わない。

 

 

イタリアと娘と

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ティモーテオが愛した二人の女性。

イタリアと娘のアンジェラ。

イタリアは死に、今アンジェラも生死を彷徨っている。

彼がなぜ、娘の緊急事態に罪を告白し始めたのか・・・それは愛する娘を救うためなのだ。

イタリアが死んでから生き生きした感情も苦しみも慰めもなく生きていた自分に、また居場所をくれたのはアンジェラだったのだと。

だから連れていかないでくれと、懇願したのだった。

 

まぁ・・・ティモーテオは言ってもいい男じゃありませんね。

イタリアを強姦して関係を結び、彼女が受け入れてくれたことに甘え、あまつさえ妊娠させ、産んで欲しいと言ったり邪険に扱ったりして不安にさせた。しかも、その間エルサにはひたすら隠し通していた。

イタリアは貧乏だったので、堕胎手術をジプシーに頼んだのだ。

病院で手術したなら死なずに済んだであろう死です。

つまり、ティモーテオに会わなければ、あの日「家の電話をどうぞ使ってください」と親切にしなければ、死なずに済んだ未来があったのかもしれない。

 

受け入れたのは・・・・イタリアなので、きっかけは何であれ、結果がどうであれ、愛・・・だったんでしょう。

悲しいです。

愛し合った結果が死とは。

しかも、小さな命を殺して自分も死ぬ・・・。

 

最近、暗い小説ばかり読んでいると思っていたけど一番辛かったかもしれない。

動かないで・・・は死んだイタリアへの言葉なんだと思いました。

彼と一つになったイタリアが決して自分から離れないように・・・動かないで、ここにいて。