≪内容≫
運動神経抜群で学校の人気者のトシと気弱で友達の少ないワタル。小学五年生の彼らはある日、家出を決意する。きっかけは新学期。組替えで親しくなった二人がクラスから孤立し始めたことだった。「大丈夫、きっとうまくいく」(「ロードムービー」)。いつか見たあの校舎へ、懐かしさを刺激する表題作他、4編。
すこし後悔したので、これからこの作品を読む予定がある人は、この作品を読む前にこの作品を読むことをオススメします。
マンガ版もあります↓
私が読んだのはもう10年以上前で、覚えているのは作者と同じ名前の辻村深月という暗い女子と菅兄と春子くらい。
本書はほぼほぼ彼らの成長した姿や、幼き日のハイライトだったりします。
もちろん知らなくても楽しめますが、知っていた方が楽しめます。だってなんか「あれ?これってもしかして・・・」と思わせるんだもん。
冷たい~に出てくる人物は「光待つ場所」でも出てきます。
いやー、デビュー作にして要みたいな作品だったとは・・・。
ロードムービー
「自分自身が何かされたわけじゃないのに、友達のために泣くんだ。それができるような人が、この中に何人いると思う?」
本作「ロードムービー」はトシとワタルの話。
クラスでハブかれていたワタルと友達になったことで、学年のみんなから好かれていたトシはいじめられることになる。
主犯であるアカリの徹底したいじめにより、目標にしていた児童会長を諦めようとしたトシだったが、ワタルはあきらめなかった。
トシのために泣くワタル。
児童会長の応援演説は何度読んでも涙してしまいます。
なんでも持っている(ように見える)トシ。
だから妬まれたり、嫌われたりして、今まさに潰されようとしていた。
そんなトシをみてワタルは「どこに行っても何をしてもいいんだよ」と背中を押すのだった。
周りの悪意にひれ伏せなくてもいい、足を引っ張ろうとする人間のために立ち止まらなくていい、大きな壁の向こうを目指していい。
本書の中の「トーキョー語り」にも出てきますが、傍から見たら一人でも毅然としているように見える子、徹底して高みを目指す人間には、なぜか痛みがないと思い攻撃する人がいます。
弱音を吐かないから、泣かないから痛くないなんてあり得ない。
だけどそんなことにも気付けない人がいる。
トシは泣かない。
だけどちゃんと傷付いていて、その分をワタルが泣いたのだ。
それくらい、友達の痛みを自分のものに感じる人間がどれだけいるか。
そういう友達と出会えたら、その友達だけで、きっとやっていける。
心で繋がることのできない友達がたくさんいることより、心で繋がることができる友達が一人でもいること。
それは難しいけど、そういう友達がいれば、絶対大丈夫なんだって私は思う。
トーキョー語り
「たまに腹立つんだよね。さくらって、本当に親の言う通り、いい子いい子に育ってきたって感じ。
ー未だにお母さんと買い物行ったり、家の手伝いとかしてるんでしょ?なんかそれ、別にさくらのせいじゃないだろうけど、イライラするんだよね。
なんでそんないい子なの?」
本作の主人公・さくらはコンプレックスがない。
ありのままの状況を受け入れ、自分を受け入れ、相手を受け入れる。
高校生にしては珍しい。
高校生といったらほとんどの人間がコンプレックスと戦っていると言っても過言ではないと思う。
誰にも言えない自分だけの悩み、嫉み、嫉妬。
「どうしてOOちゃんばかり」「ずるい」「生意気」
そんな感情と
「いや、彼女にもたぶん辛いことはあるはず」「いや、目に見えない努力をしてるんだきっと」「生意気って同い年なんだから気のせいだ、たぶん」
という感情の狭間で揺れに揺れまくっている時期・・・かもしれない。
だけど、さくらは開けっぴろげでそういう戦いをしていない。
そういう戦いをしなくても生きていける人間がいるということが、戦っている人間からしたら腹立たしい。
さくらは何も悪くないけれど、高校生で自分と他人をくっきり分けて考えられる人はいないと思う。
良くも悪くも距離が近いから、私がこんなに苦しんでいるのに・・・!って気持ちが芽生えちゃうんですよね。
切り札を隠し持っているみんなと持っていないさくらの青春の1ページ。
雪の降る道
覚えているヒロ一人を置いて、みんなが忘れてしまうわけではない。兄ちゃんもみーちゃんも、ヒロと一緒に歩いている。
この白くて冷たい道を歩いている。
一人じゃないんだよ、ってお話です。
自分が苦しいとき、苦しいのは自分だけじゃない。
悲しいときもそう。
本作と最初の「ロードムービー」はボロボロ泣けたので、電車で読むのはオススメしません。
私は行きの電車で「ロードムービー」を読みながらぐしゅぐしゅして、帰りの電車で「雪の降る道」を読んで、またぐしゅぐしゅしていました。
辻村さんの作品の子供ってほんとうに純粋でまっすぐで、とても魅力的です。
私は辻村さんが一番魅力的にかけるのは子供だと思っています。小学校~高校生くらいまでの登場人物の魅力よ。
本書はもう一つ「道の先」が収録されています。
どの作品も、今いる場所から一歩踏み出していく作品で、涙あり、ほっこりありです。
ままならないことも、いつか終わりがくるから。