≪内容≫
『浮上したら漁火がきれいだったので送ります』。それが2ヶ月ぶりのメールだった。彼女が出会った彼は潜水艦(クジラ)乗り。ふたりの恋の前には、いつも大きな海が横たわる――有川浩がおくる制服ラブコメ短編集!
図書館戦争や3匹のおっさんでお馴染み(?)の有川さんですが、初めて読みました。読みやすく、めっちゃきゅんきゅんしました♡
映画化された植物図鑑も超きゅんきゅんした…
脱柵エレジー
「お願い、無理言ってるの分かってる。でも、私のこと少しでも好きだったら、今会いに来て」
本書の中で一番きゅんきゅんより切ない話かもしれません。
彼女のワガママで可愛いお願いに脱柵を試みる自衛隊員のお話。
先週、上司と先輩と飲みに行ったときの話です。
私は引用文のようなことを言える女の子が割と好きで、可愛いなぁ、と思ってしまう人間なのですが、こういうことを言い続けた挙句フラれてしまった女性の話を上司が話してくれました。
「分かるよ。20代前半までは可愛いと思う。でも30過ぎてもバレンタインに友達とスノボなんてひどい!って泣くようなイベント重視の女性は痛いよ。」
脱柵は重大な違反行為な訳ですが、まだ短大生の彼女と入隊して日が浅い彼氏としてはまだそういう甘いワガママが、どんな意味をもたらすのか分からず、彼は脱柵を決意し、彼女と途中の駅で待ち合わせしようと思いますが、時間は深夜です。
彼女は来ませんでした。
彼氏は最終電車が過ぎた寂しすぎる駅の待合室で二曹に見つかり、隊舎へと連れ戻されます。
恋愛の難しいところは、こういう芝居がかったドラマチックな行為がスパイスにもなるし、毒にもなるところだと思います。
「あなたしかいないの・・・!」なんて言葉は最初はスパイスになっても、本質は誰でもいいんですよね。
「あなたしかいないの・・・!」と言える環境や状況があれば。
本当に「あなたしかいない」のなら、あなたが大切にしたいもの、あなたが頑張りたいこと、あなたがやりたいことを制限したりしないはずだから。
その上司は50代の女性なのですが、全く恋愛していない私に「ああいう女性に対して恋愛をしていてキラキラしていていいなって思うのは、分からないでもないけど参考にはしない方がいいと思うよ。」と言いました。
私は、ワガママを言える女性ってすごい自信あるんだなぁ、と思う。私が相手に言われたら「じゃあそれ相応の楽しい一日にしてくれるのかな」と思うから。
予定が入ってる用事を断らせたり、危険を冒させたりするのを、自分のためって言えるのは、それだけで何か強いなって思う。
書いてて思ったけど、可愛い子って強いんだな。
強いから可愛いのかもしれないけれど。
憧れるけど、そういう強さは回転木馬のデッド・ヒートの「今は亡き王女のための」を感じさせるので、破滅に向かう気がするなぁ。
自分も相手も大切にできる恋愛が理想です。
ロールアウト
「官の要望が揺らいでいたら戦えない。そう言ったんでしょう、あなたが」
ああ、そういえば。そんなことを言ったかもしれない。
「あなたが戦うと言ってるのにこっちが日和れない。あなたが戦ってるなら輸送機くらい何度でも持ってきます」
一番きゅんきゅんした話です。
航空設計士の宮田さんと、高科三尉。
問題は航空機のサニタリーだった。
設計士の宮田さんは会社の意見としてサニタリーにあまりお金はかけられないと言うが、高科三尉はその意見を絶対に認めない。
なぜなら現行のトイレとは、ただのカーテン一枚で区切られたシロモノで、そこで大便をすれば匂いも音も丸聞こえ状態だからだ。
もちろん女性と兼用で使うコックピット内のトイレです。
その現状を見ずに否定する宮田さんに高科三尉は、カーテン一枚で区切られたトイレで用を足してみろと言う。
その荒療治で、高科三尉が言っていることを理解した宮田さんは会社でサニタリーの問題を提示するが、会社の人間は見ていないから誰も理解してくれない。
そのうち、会社で孤立して戦うことになる宮田さん。
そして高科三尉との仲も疑われ、ますます風あたりの強くなる中で孤軍奮闘する宮田さんの前に、高科三尉が問題の輸送機を持ってやってくる・・・。
何これ!!
どっちもかっこいい!!
てかこんなん好きになるぅううううう!
と思いました。
自分のため、というか自分の意を汲んでくれて、それを一人っきりでも曲げずに戦っている姿を見たら好きになりますよね。
恋愛対象じゃなくても、人としてとても好きになっちゃう。
本当に相手のことを考えるって、相手の立場にたって物事を考えるということ。
こう文字にするとサラっとしていて、ありきたりで分かりきっていることのように思うけど、実際これが出来ているか?って思うと、全然出来ていないんじゃないかな、って思う。
宮田さんの立場になったら諦めてしまう人、なんとか高科三尉を納得させようと動く人もいると思います。
だって使うのは自分じゃないから。
この話さえまとめてしまえば、自分は使わないんだし、会社の人から煙たがれることもないわけだし・・・って思ってしまうこともあると思う。
宮田さんは高科三尉に好意を持っていたわけではなく、自分がいざ使ってみろと言われたときに、これじゃいけないって気付きました。
宮田さんが戦ったのは、たぶん自分の設計士としての正義だと思うのです。
なんでもかんでも相手の立場に立ってたら、騙されることもあるだろうし、自分を蔑ろにしてしまう。自己犠牲の精神は誰も救わないから、そんなドラマに酔うより、自分の正義を見極め、その為に動くことが戦うってことだと思います。
全ての話できゅんきゅんしました。
潜水艦を沈むなんて言う人がほんとうにいるのかなぁ?絶対に沈んで欲しくないものなのに。