≪内容≫
新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。
爽快感200%はうそだろ!!!!
って思いました。
だって、吉田修一ですよ?
というかこの作品、西原理恵子とちょっと感じるものが同じでした。
あとコレ。
独特の堕ちていく感じというか、諦念感というか、厭世感みたいなものが漂っている感じがします。
海に近い土地って、共通するものがあるんですかね・・・。
破片
収録作品は、「最後の息子」、「Water」、「破片」の三編です。
どれも面白いというか、湿っぽさを感じつつ、ページが進んで行く感じなのですが、その中で一番濃いなと私が思う「破片」について書いて行きたいと思います。
正直、「破片」が一番、いろんな箇所が理解に難しくて、一番ざわついた話です。
だから読んでいて気持ち良い話ではなかったです。
「爽快感200%、とってもキュートな青春小説。」っていう説明文がなかったら、絶対に暗い話だと思って読んでいました。
この話が理解に難しいと感じた理由の一つが、母を失った父と息子二人のその後の話であることで、もう一つは女は男が世話するもの、というこの話の世界観です。
「男が世話してやらんで、誰が女の世話するとや?」
「だけんさ、東京の女は自立しとるけん、男の世話になんか、ならんでもよかとさ」
「はははっ、なんが自立や。そがんと女じゃなか!自分一人で暮らしていける女なら、わいと一緒に住む必要なかやっか。早う追い出した方がよかぞ」
東京で彼女と同棲する兄・大海と地元に残りホステスにいれ込む弟・岳志が中心の話なんですが、兄弟の女性に対する思いが正反対です。
俺が女を守る!っていうのが弟で、共働きしながら生きていくのが兄。
兄の彼女はブランドのバッグが欲しくて、そのお金を彼氏である兄が買ってあげられないと言うと、自分で稼ぐといってテレフォンセ・・・のお仕事を同棲している部屋で始める。
弟は七歳上の訳ありホステスの桜に肩入れしている。
店に通い、桜が上がるまで待ち、自宅まで送り、酒屋をやっている自分の家のお金を盗んで毎月渡している。
桜は迷惑がっているが、岳志は相手を守ってやっているのだと信じている。
正直なにひとつ共感できる場面も、「分かる」と感じられる場面もありませんでした。でもそれって、西原理恵子の作品にも言えます。
これが一番分かりやすいかな。
大人になると、男に殴られて、だから子供のことも殴る。
そんな大人になりたくなかった、と西原さんが何かで話していたのを見たことがあります。
「女の子ものがたり」は東京に上京したマンガ家の主人公が、地元の友人である二人の女の子との思い出の回想といった内容です。
これほんとに胸が痛くなる作品でした。
地元でしか生きられないと殴られる道を歩く二人が、迷っている主人公に「あんたは私たちとは違う、友だちなんかじゃない、どっか行け、帰ってくるな」的なことを言うんです。
この作品が何を書いているのか正直分からないでいます。
分かるとか分からないとか、正しいとか正しくないとかっていうのは、自分の中である程度知識があるから出てくるものだと思っています。
なので、私のこの作品に対する解釈はものすっごい見当違いなんじゃないかと思います。
核になっているのは母の存在で、破片というのは母のことなのかな、と思っています。
母は土石流に流されて死んでしまいました。
母に「こっちに来てはだめ」と言われたのに心配で兄弟はその濁流の中に足を踏み入れてしまった。
そして母が電柱にしがみついて、父を待っているとき、後で小さな悲鳴が上がる。
足を滑らせて岳志が流されてしまったのだ。
父が岳志を助けて、電柱に目を向けたとき、母の姿はなかった。
悲鳴も上げず、静かに土石流れの中へ沈んでいったのだ。
男が三人いて、誰も母を助けられず、母は声もなく消えてしまった。
兄・大海は助けられなかった自分から抜け出せず女を守る力がないと思い、弟・岳志は失わないためにいつでも全力で女にいれこむようになる。
なんか、佐藤泰志の作品にしても西原理恵子の作品にしても、吉田修一の作品にしても、すごく男女が密なんですよね。
なんでそんなめんどくさいものずっと持っておきたいの?って思うくらい手放さない。
生活の一部として相手が必ず組み込まれているというか・・・。
このさき、兄弟のおにぎりがどう変わっていくのか、色んな可能性を想像できるような自分になりたいと思う。
どんな場所に生まれようと、今日を乗り越えて生きていくだけなのだけど。