≪内容≫
戦後日本の代表的な作家六人の短編小説を、村上春樹さんがまったく新しい視点から読み解く画期的な試みです。「吉行淳之介の不器用さの魅力」「安岡章太郎の作為について」「丸谷才一と変身術」…。自らの創作の秘訣も明かしながら論じる刺激いっぱいの読書案内。
私はいつも村上さんの本を読むと「なんて丁寧な人なんだろう」と思う。
親切だし、読みやすいし、一生懸命さや誠実さを感じるので、とてもありがたく思っています。
ネタバレ満載で、それでも読みたい
私がなぜネタバレ必至の書評をしているかというと、ほとんどの内容を聞いてから読みたくなる本の方が多いし、そういう本の方が何か良い気がするからです。
そういう感覚が芽生えたのは、地獄変/芥川竜之介やサロメ/オスカー・ワイルドという作品を知ってからな気がします。
本書はめちゃめちゃネタバレしてますし、かなり噛み砕いた解釈も添えられています。
でも、それでもめちゃめちゃ読みたくなるんです。
特に小島信夫の「馬」と庄野潤三の「静物」。
他の作品ももちろん読みたくなったけれど、この二作品のページはぞくぞくしました。
私もこんな風にブログを見た人がネタバレめっちゃしてるけど読みたいって思ってくれるような文章を書きたいなぁ、ほんとうに村上さんすごいなぁ、と思いました。
もし、何を読んだらいいのか分からないという人は手にとってほしい本。
読書で心がけるポイント
いずれの場合も、僕が主催者として参加者(学生)に要求したことが三つある。ひとつは何度も何度もテキストを読むこと。細部まで暗記するくらいに読み込むこと。もうひとつはそのテキストを好きになろうと精いっぱい努力すること(つまり冷笑的にならないように努めること)。最後に、本を読みながら頭に浮かんだ疑問点を、どんなに些細なこと、つまらないことでもいいから(むしろ些細なこと、つまらないことの方が望ましい)、こまめにリストアップしていくこと。そしてみんなの前でそれを口に出すのを恥ずかしがらないこと、である。
村上さん自身が常日頃心がけているポイントでもあるそうです。
村上さんのエッセイを読んでいると、なぜそうなったのか分からないとか、理由を考えることに意味はない、みたいな言葉があったので、村上さんがここまで噛み砕いた読書をしているとは思っていませんでした。
ですが、そういう読み方をしていなかったら語りたいことなんて生まれないのかもしれないなって思いました。
もうその読み方が村上さんの普通になっているから、わざわざ考えるってことをしなくても無意識に分かってしまうから、分からない状態になるのかもしれない。
私がだよなぁって思ったのは、庄野潤三の「静物」についての一文。
相変わらず説明は省かれています。非常にクールに(カッコ内省略)ぽんと結果だけが提出されている。それはそれで良いと思います。正直に言って、僕はそういうスーパー・クールな文章の書き方が個人的には好きです。
情報がありすぎると、読者は自分で考える必要がない。
でも情報がなさすぎると、何をやっているか分からない。
だからこそスーパー・クールらしい庄野潤三の「静物」を読んでみたい。
情報過多の小説は多いと思います。私はそういう本はあまり好きではありませんが、だからといって、語られなさすぎる本を好きかというとそれはそれでまだ分かりません。
村上さんが読んで来た本すべてにこの心がけがなされてきたかは分かりません。
そして村上さんがどれだけの本を読んで来たかも分かりません。
ただ思うのは、読書は勝ち負けでもないし、読んだ冊数の多さで未熟さを確認出来るものでもありません。
それでも読者としての村上さんもやっぱり超一流だと思いました。
じゃあ読者としてのアマチュアと素人とプロの違いってなんやって言われると分からないけど、ネタバレしていて尚且つこんなにも読み手に読みたいと思わせる文章力は、やっぱり紛れもない力なのだと感じました。
本が面白いことなんて知ってる。
そんなことは百も承知です。だって編集通ってるんだもん。
面白いと思う人間がいて市場に出てるんだからある程度の面白さ、表面的な面白さは誰かが「これ面白いよー!」なんて言わなくても分かってる。
だからその面白いを超えて、ここがこんだけ面白かった、こう感じた、こう解釈した、っていう言葉は、その本を好きになってのめり込んで理解したいって気持ちがなきゃ生まれない。
読書するために必要なのは、その物語を受け入れる気持ちだけ。
それだけでどこまでも広がって行ける。
もっと色んな世界を知りたいし、もっと文章上手くなりたい。