深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】カッコーの巣の上で~必要なのは治ることじゃなくて、生きること~

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≪内容≫

刑務所の強制労働から逃れるため、精神疾患を装って精神病院に入所させられた男の巻き起こす騒動と悲劇を描く、ケン・キージーのベストセラーを映画化した作品。

 

 これは・・・重い作品でした。

 主人公、マクマーフィーがみんなを連れ出して釣りするところとかすっごいほっこりなのに、最後・・・。なんか先日みた「時計仕掛けのオレンジ」とダブる。オレンジの方は犯罪者でカッコーは精神病棟。

時計じかけのオレンジ (字幕版)

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「時計じかけのオレンジ」の記事を読む。

バイオレンス具合はオレンジの方が強いけど、こっちの方がメンタルにきます。

  

自由と管理は同一か

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 本作の舞台・精神病棟に収容された人たちには常に監視が伴う。規則通りに薬を飲みディスカッションをする。(させられる)

  そもそも彼らは何が悪いのか、どういう理由でここにいるのかは説明されていません。ただ、管理側に立つ人間の価値観で「おかしい」と認定されたからいるのかもしれません。

 

 彼らの中には、出て行ってもいいのに自ら進んでここに留まってる人がいます。

 健常者であり精神疾患があるフリをしている主人公・マクマーフィーはそのことこそ「イカれてる」と言います。だって、街を歩いてるバカたちと変わんないんだぜ、と。

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 その言葉に触発されて患者の中で反発が起こります。

 これって、約束された場所で―underground 2で出てきた小さな箱の話と同じだと思うんですよ。

約束された場所で (underground2)

約束された場所で (underground2)

 

マクマーフィーが来るまで、精神病棟という小さな箱の中看護婦長・ラチェッドの思想が絶対だった。それ以外のことを考えることさえ出来ない場所だった。

 「これはあなたのためなんです」「これは治療の一環なんです」そう言った言葉で患者を支配する。タチの悪い宗教と同じじゃねーか!と思いますね。

 そう、彼らは何も出来ない小さな子供じゃないのです。

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 だけど、そんな反抗は罰を受けます。

 現代に生きてると考えられないですよね。電気ショックですよ。頭に。心臓にだってびっくりするのに。だけど、この電気ショックでもひれ伏さない患者にはもっと恐ろしい罰が下るのです。

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 チーフと呼ばれるこの男は実はマクマーフィーと同じ全く正常な人間なのです。

 彼はネイティブ・アメリカンです。病棟では耳が聞こえない聾唖として認識されていたのですが、実際は聞こえるし喋れるのです。彼もまた、マクマーフィーによって開かれた人間です。ただ、彼はマクマーフィーの逃亡の誘いを断ります。自分には出来ない、と。

 

 マクマーフィーは一人でここを出ようとします。別に皆を見捨てるわけではなくて、来たい奴はついてこい、と言うのですが、誰もここから出る不安から逃れられなかったのです。

 しかしマクマーフィーの門出を寂しがったビリーによって最大の悲劇が幕を開けます。

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なぜ無理強いするのです。

別のことをやっては?

 

ー話すことがこの療法の基本なのです

 

どうもそれがよく分からんのです

 

 悩みがあるなら話してごらん。それは問題解決の基本の姿勢なのかもしれません。

だけど、無理に相手の中から引っ張り出そうとすることは暴力に思えます。

  私は精神病について詳しくないし、どんな人が精神病にかかるのか、何をもってして精神病というのかは分かりません。

 ですが、この病棟にいる彼は、ビリーが尋問されて閉口する姿を黙って見ていられないのです。

 

 誰かを救おうとする気持ちが、相手を思いやる気持ちより上回ってしまえば、それはもう善ではない。

 ただ、自分が相手を勝手に治したくてやってるエゴだと思う。

  原点は、苦しんでいる人を助けたいという尊い気持ちな気がする。

 だけど、それがいつしか治すために相手が苦しむのは仕方ないんだに変わってしまう。

 

 必要なのは、治ることじゃなくて、生きること。

どれだけ時間がかかっても本人が自立するのを見守ることだと私は思う。

カッコーの巣の上で [DVD]

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  時代背景に関して詳しく説明しているブログがありました。

 私はその時代には生まれていないけど、こうやって映画や小説が自分が今いる時間がどうやって作られたのか教えてくれる。

もしも私が、この作品が生まれる前に生まれてたらこんな考えにはならなかったかもしれない。

 自分で考えてるようで、本当は教えられてるんだと強く思った作品でした。