≪内容≫
科学者の父親と穏和な母親に育てられた医学生の馨にとって家族は何ものにも替えがたいものだった。しかし父親が新種のガンウィルスに侵され発病、馨の恋人も蔓延するウィルスに感染し今や世界は存亡の危機に立たされた。ウィルスはいったいどこからやって来たのか?あるプロジェクトとの関連を知った馨は一人アメリカの砂漠を疾走するが…。そこに手がかりとして残されたタカヤマとは?「リング」「らせん」で提示された謎と世界の仕組み、人間の存在に深く迫り、圧倒的共感を呼ぶシリーズ完結編。否応もなく魂を揺さぶられる鈴木文学の最高傑作。
自分が悪いんですけど、リングシリーズと羊たちの沈黙シリーズを同じ期間に見てるせいで、夜眠れないんです・・・バカだと分かってます・・・
眠いんですけど、目を瞑るとリングの世界のことばっかり浮かんできて、「やめろ!眠れなくなるぞ!」と思って楽しいこと考えようとするんですが、無理に考えてるせいでどんどん脳が冴えてくる。
まさに眠れないアル状態でアル。
寝る時って、息、口でするんだっけ?鼻でするんだっけ・・・?
手ってどこにおくんだっけ、うつ伏せだっけ、仰向けだっけ・・・
まだ後、「バースディ」「エス」「タイド」がある・・・。
終わるのが寂しいような、早く解放されたいような、ああ!アンビバレンスな愛!
この歌切なくてだいすき。
前回のおさらい(らせん)
- 呪いのビデオテープが映画や本に媒体を変えた
- 呪いは映像だけではなく文字や映画による鑑賞者の想像力にも介入
- 高野舞は山村貞子を産み、浅川は本の元となるルポタージュを産み出した
- 天然痘に酷似したウイルスはリング状から精子の姿へと変わり、感染者が女性の場合妊娠を促す
- 妊娠した女性は蛹となり、山村貞子を産み死ぬ
- 人間は死に、山村貞子が続々と生まれる世界へと突入
- 山村貞子は真実に辿りついた安藤の口を塞ぐべく、亡き愛息を自らの子宮から復活させる
- 竜司が残した暗号により、安藤は竜司によって動かされていたことを知る
- 竜司は「リング」の世界では死んだが、山村貞子の子宮から再度復活を果たす
致死率100%のガンウィルスが蔓延する世界
本作の主人公は二見馨(ふたみかおる)という青年。
今回は「リング」「らせん」の世界との共通人物はいません。
科学者の父と民間伝承に詳しい母との間に生まれ、幼いときから世界について興味を持っていた。
自分の存在を含めた世界の仕組みをどうにか解明したいという夢が彼にはあった。ある分野における先端の謎を解くだけではない。彼の望みは、自然界のあらゆる現象を説明しうる、統一的な理論を発見することであった。
この瞬間いや~なフラグを感じるのですが、なんてたってまだ冒頭ですからね。
信じない。←
人ってほら、信じたいものしか信じないから。
決定的な証拠が出るまで信じない・・・!という気持ちでページをめくっていきます。
この世界では一つの悪夢が人類を襲っていた。
致死率100%のガンウィルスである。
彼の父はガンを発症し、その都度ガン細胞に侵された臓器を摘出してきた。しかし、このウィルスは100%転移を繰り返す。宿主である人間が死なない限り永遠に生き続ける不死の細胞なのだった。名前を「転移性ヒトガンウィルス」と言う。
必要なのは感染しないこと。それしか現在の人類に分かることはなかった。
語られる「らせん」世界の結末
「ループの生命界は、同一の遺伝子のみに占められ、多様性をなくし、滅亡の道を辿ったのです」
「ループ」というのは仮想世界のことで、その実験に参加していたのが馨の父でした。
「らせん」の世界では、本や映画によって人に侵入するウィルスは精子の姿をしており、宿主を蛹に変えて山村貞子を産み出していた。つまり同一の遺伝子=山村貞子です。
この世界の歴史は現実世界と全く同じでした。つまり、仮想世界「ループ」の行き着いた滅亡は、現実世界の滅亡を予言しています。
馨は滅亡を回避するため・・・というか父を救い、母を守り、愛する礼子が希望を持てる世界にする為に、「ループ」について調べ始めます。
この実験に参加した生き残りの一人に話を聞いていると、読者には懐かしいあの人物が登場するのです。
転移性ヒトガンウィルスの正体がわかったかもしれない、カギを握るのはタカヤマだ・・・・
ここでも竜司が出てきます。
いつも主役じゃないのに、主役より重要なキャラクターです。
三部作全体の主役といったところでしょうか。
いつからここが現実だと錯覚していた?
ビデオテープを見ることによって一週間後の死がセットされ、ビデオテープをダビングすることによってセットされた死が解除される・・・・・・、その仮定を一歩先に進めたのだ。なぜそんなことが可能なのかという疑問を、一点に集中させた。
(中略)
仮想世界であるとすれば、理不尽な死をセッティングすることも解除することも自由自在である。操り手はだれか。仮想世界を作り上げたはずの上位概念である。
・・・・・・神。
竜司は死ぬ直前にこの世界が仮想世界なのではないかとひらめく。
確かに仮想世界を考えれば、本書に書かれているようにイエスの復活だってあり得ないことではないのだ。
なんかこういうこと考えるとホラーより怖いんですけど、怖くないですか?
たぶん怖いのは笑い飛ばせないからなんだろうなぁ。RPGをやったことのある人間は自分とプレイヤーの立場を考えなくとも理解している。
現実を無条件に現実だと思えているから、仮想を楽しめるのであって、前提が崩れれば恐怖でしかない・・・。
ちなみに本作での世界(仮想世界から見た神)では「リング」世界の呪いには関与していないと書かれています。原因不明。突然変異。
もしもここが仮想世界なら、起こる原因を全て神に求めてしまいそうですが、時には神にも予想外の出来事が起こるようです。
この人は本当に文章が上手いのだなぁと思う。
文章が上手い・・・うーん、なんていうか相手の立場に立って説明できるというか。本作は割と難しい内容ではあると思うのですが、それでも気になって時間がかかっても読み進んでしまう。そして、読み終わった後も簡単には消えない。
やっぱりベストセラーってそれだけの力があるんだなあと思ったし、巻末の参考資料の多さを見て、偉業を成し遂げる大変さを感じました。