≪内容≫
孤児院で暮らすジェームズは、刑務所にいる父と過ごした僅かな思い出にしがみつく。グラハムは40をすぎたその歳まで独身で過ごした孤独な男だった。母は亡くなり、今や痴呆症で寝たきりの父を世話しながら淋しく暮らすうち、養子縁組みの広告を見て激しく急き立てられ、申し込みをし、やがてジェームズを紹介され、つまずきながらも他人同士の家庭を築いていこうとする。互いの心の痛みを分かち合い、やっと打ち解けた所に、なんの前触れもなく病に死にかけた少年の実父が現われる……。
これ昔の映画らしく画質が悪いんですが、シンプルにいい作品なのでぜひ見てほしい。
最初で最後の旅のその向こうへ
養父になりたいグラハムは、仲の良い両親の元一人っ子として育ち、35歳のときに母親を亡くす。母の死によって鬱になった父の面倒を見る生活を送っている。
一方、孤児院で暮らすジェームズもまた父が逮捕される前に、最初で最後の旅をしたのだった。ジェームズはまだ若いので父親との旅を鮮明に覚えているが、グラハムはその記憶をジェームズによって思い出す。
母親がいなくなってから、グラハムと父の関係は目に見えて辛いものとなった。別にケンカしているわけでもないけれど、心に距離があるのだ。
グラハムにとって一番幸せだったのは父親と二人で旅行したときだった。
一方、ジェームズは幼き日の父親との約束がまるで呪いのように常に頭にあった。
グラハムの大切な父との思い出が記憶の奥底にしまわれてしまったのは、父が母親に漏らしていた愚痴を聞いてしまったことによる。
あんなに幸せだった一週間が、父にとってはつまらない一週間だったのだ。父と息子の関係はここからこじれていったのかもしれない。
一方、ジェームズはまだ若く、しかも父親と離れて暮らしていることで父親に対する無条件の愛、盲信状態になっている。
父と息子という関係になりたいグラハムにとってジェームズの血の繋がった父親に対する愛情は彼の中の嫉妬を呼び起こさせた。
そんな中、ジェームズの父親が早期出所となりグラハムの家にやってきた。彼はエイズにかかっており余命4~5か月だという。グラハムは嫉妬を抑え、ジェームズと彼を直接会わせることにした。
しかし、あんなに盲信していたはずのジェームズは動揺した。
長い年月を経て再会した父親は、自分が想像していた若くてタフで生命力のあった父親ではなく、朽ち果てて汚らしくてみずぼらしい男だったのだ。
その夜、ジェームズは一人森の中に穴を掘り、そこで再び扉を閉めた。
まだジェームスが母と父と暮らしていた時、彼を閉じ込めたのは母親で、その扉を開けてくれたのは父だった。
二回目は彼が自ら進んで扉を開けて、そして閉めた。
私には分かる 何から隠れているのか
何も持たない 何も考えない
無になる私にも経験がある
グラハムもそうだし、大体の大人は子供や弱者に手を差し伸べようとする。
だけど、それでは子供はいつまでたっても誰かに手を差し伸べてもらわなければ、自らが作った穴の中から出られなくなってしまう。
ちなみに閉じこもってしまう人に穴を掘るのをやめさせるのは個人的には無理だと思う。なぜなら彼らも掘りたくて掘ってるのではなく無意識に掘って気付いたら閉じこもってるわけだから、自分でも出口が分からなくて出られなくなっている・・・と思っている。
だからグラハムは一緒にその穴に潜り、一緒に出たのだ。
こちら側から手を引くのではなく、向こう側に二人で出たのだ。
この物語の中の父親二人(グラハム除く)は悪い人ではありません。きっとグラハムの父親も照れ隠しだったのだと思います。子供を望んでいないと言っていた手前、母の前で嬉しい顔が出来なかったのでしょう。
だけど、そんな事情は子供には分からないし、そこで父もグラハムもそれ以上お互いに立ち入ることをしなかった。
ジェームズとの出会いにより、グラハムは自分の幼い時を追い体験します。
子供の時は父親に対して絶対的な信頼があった。だからこそ、その信頼が揺らいだときに生じる痛みや苦しみは、永遠に自分の中の子供をそこに留まらせるのだ。
ジェームズもグラハムもお互いの出会いによって第二の人生が始まり出す。
これたぶん超マイナー作品だと思われますし、華やかさも、意外性も衝撃もないんですけど、素直に暖かい作品なので寒い夜にぜひ見てほしい。