≪内容≫
「行方不明の兄オリンを探してほしい」私立探偵フィリップ・マーロウの事務所を訪れたオーファメイと名乗る若い娘は、二十ドルを握りしめてそう告げた。マーロウは娘のいわくありげな態度に惹かれて依頼を引き受ける。しかし、調査をはじめた彼の行く先々で、アイスピックで首のうしろをひと刺しされた死体が…。謎が謎を呼ぶ殺人事件は、やがてマーロウを欲望渦巻くハリウッドの裏通りへと誘う。
これは、絶対最後は「リトル・シスター」で終わるべきではなかったw
マーロウがやさぐれすぎてるし、裏切られまくってるし、「ぇえええええええ」という感じ。
奇妙な依頼主と見せかけのハリウッド
私は一匹のワニの鱗に向かって話しかけていた。そのワニの名前はマーロウという。我らの繁栄するささやかなるコミュニティーで私立探偵を営んでいる。世界でいちばん頭が切れるというわけではないが、格安だ。最初は格安料金で始め、おしまいにはもっと格安になる。
まず、本作はマーロウが蠅たたきを手に蠅と格闘するシーンから始まる。
それぐらい退屈していたのだ。退屈で頭がおかしくなっていたんだろう。マーロウはわずか20ドルで兄を探してほしいという健気な妹の依頼を受けることになる。
シリーズを読んでいくとマーロウのやり方というのがささやかながら感じられる。マーロウが依頼主に求めるのは報酬額だけでなく、信頼関係だ。
依頼主が嘘をついたり持っているカードを全て見せない場合、マーロウもまた依頼主を信じることはできない。
だけど、不器用なハードボイルドであるが為に信じられなくても依頼主は守るしどうしたって気になってしまうのがマーロウなのであった。
「常々不思議に思っているんだ。どうして人は恐喝屋に金を払うんだろうってね。金で何かを買い取ることなんてできやしない。なのにみんな金を払う。ことによっては何度も繰り返し払い続ける。そして結局は出発点から一歩も動いちゃいないということになる」
物語は妹の兄探し、という涙を誘うような筋書きから、一枚の写真を巡った殺人事件へと発展していく。
どうやら兄がその写真を撮影し、それをネタにハリウッド女優とその界隈の人物を脅していたようだった。
依頼主である妹は、自分の泊まっているホテルも告げず、渡した20ドルも難癖をつけて返してもらおうとする。結局マーロウと妹は何度も20ドルを渡したり返したりして、結局のところマーロウの依頼主は妹からハリウッド女優と入れ替わってしまう。
妹もハリウッド女優も、その友達も、困ることがあれば、マーロウを誘う。
性交渉を持ち出しやり過ごそうとする。マーロウはたびたび「もう女は見たくない」と本書の中では嘆いている。しかしそんなときにも誰かしらから電話がきて、その誰かしらから痛い言葉と、真実のない頼みごとと言う名の面倒事を仕込まれるのだ。
チャンドラー自身が編集者に言っていたようだが、確かにこの作品は全体的に心苦しい内容だと思う。どこまで行っても真実に出会えないことほど人を打ちのめすものはないのかもしれない。