深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

ひまわりの森/トリイ・ヘイデン~正しいから愛するのではなく、ありのままを愛する難しさ~

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≪内容≫

少女時代のおぞましい体験によって心を蝕まれた母と、彼女を抱えて懸命に生きる家族の姿を、17歳の娘レスリーの目を通して感動的に描く。情緒障害児との心の交流を綴り、日本でも圧倒的な支持を集めているベストセラー作家が実話をもとに、愛と祈りをこめて贈る初の長篇小説。

 
あ~~~こういう本はホラーよりも怖い。

ホラーは怖いって分かってるし、出てくる幽霊や分かり合えない人たちや妖怪は自分たちの生活の延長にはないって分かってるから割り切れるけど、この作品と「機械じかけの猫」は、生活の延長や、生活そのものが、いわゆる異世界と交わってます。

 

こういうのをほんとうに"怖い"というんだよ・・・

 

正しいから愛するのではなく、ありのままを愛する難しさ

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その紙切れを手にしながらわたしの頭に浮かんだものは、自分の家族とこのカンザスにいても、母にとってはいまでも、すべてが戦争状態なのだということだった。母はホステルで生き延びた。収容所でも生き延びた。SSからも生き延びた。そしてわたしたちからもうまく生き延びようとしているのだ。 

 

レスリーの母親は第二次世界大戦を生き延びていた。彼女の肉親たちは皆死亡していて、彼女はたまたまアーリア人だったというだけですぐそばでユダヤ人が大量に虐殺されていったことに罪悪感を感じていた。

 

今、レスリーの家族は父と母、そして妹の4人で暮らしていたが、母は自分の前にもう二人子どもがいたという。捕らわれたホステルの中でその赤ん坊を産んだというのだ。

 

わたしはすごく若かったわ。クラウスが生まれたとき、まだ十七歳だった。十七歳と二カ月よ。それに十七歳にしてはすごくばかな子どもだったの。 

 

母親は一番最初に産んだクラウスのことが忘れられず、散歩中に出会った小さな男の子をクラウスと思い込んでしまう。

母親にとってその男の子は、SSに捕らわれて偽物の家族のところで養われているから、自分が引き取るべきだと信じて疑わなかった。

 

もちろん、クラウスがもし生きているなら40歳近くになっているはずだから、母親の探している子どもはその男の子ではない。

しかし母親は、家族やその男の子の家族に注意されても自分の考えを通し、遂に全てを終わらせてしまったのだった。

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母親が死んで、レスリーは母親の言っていた「花の森」に行こうと決心した。母親が何度も話してくれた素晴しい思い出と美しい花たちがいるウェールズへ。

 

しかしそこにあったのは、「花の森」ではなく「オオカミの森」という荒廃した静かな場所だったのだ。

 

こういうことが起こる前は、ずっとこう考えていたのよ。もしわたしたちさえーパパとわたしとメギーのことだけどーママを充分愛していれば、すべてを埋め合わせることができる、って。あのつらい時期、ママはずっと潔白だった、まだほんの少女で、それなのにあれだけのことに耐えてきたなんてすごく勇敢で強い人だったんだって、ずっと思ってきたの。もしわたしたちがママのことを充分愛することができれば、過去のことなんか忘れて、なんでもなかったって思える、って。

 

レスリーは母親が語ったことを全て信じていた。

子ども時代の思い出、ひまわり畑、男を待つだけのホステルに軟禁されたこと、二人目の赤ん坊を自分の乳房に押し付けて殺したこと・・・そういう色んなことを全てそのまま信じていた。

 

しかし、旅に出たレスリーが見つけたのは、母親がついた嘘だった。

ひとつの嘘によって、レスリーは母親が話していたことがどこまで本当なのか信じられなくなってしまった。

もしかしてほとんど母親が美化した思い出で実際は勇敢でもなんでもなかったんじゃないか、それならあんな母親を自分が一生懸命擁護して守ってきたのは何だったのか?そこまで尽くすほどの人じゃなかったのではないか?

 

父親は混乱するレスリーにこう告げる。

 

相手がいい人だからとか、完全な人だからその見返りにその人を愛するというものじゃないだろう。なにかの代償、つまり人生で経験したすべてのつらいことを埋め合わせるために、その人を愛するというものでもないだろう。愛するっていうのは、ただその人を愛するんだよ

 

母親のために学校を休み、介護をし、学校に行っても途中で連絡が来て放浪する母親を車で迎えに行く。わがままな妹と母親を溺愛する父親によって、ほとんどを我慢してすごしてきたレスリーにとって、結果は母親の死亡と、その後見つけた母親の嘘という残酷なものだった。

父親がレスリーにかけた言葉を、私もゆっくり噛み砕いていこうと思う。