深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】フューリー~集団の中で、人は簡単に個を失う。~

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≪内容≫

 1945年4月、戦車“フューリー"を駆るウォーダディーのチームに、戦闘経験の一切ない新兵ノーマンが配置された。新人のノーマンは、想像をはるかに超えた戦場の凄惨な現実を目の当たりにしていく。
やがて行く先々に隠れ潜むドイツ軍の奇襲を切り抜け進軍する“フューリー"の乗員たちは、世界最強の独・ティーガー戦車との死闘、さらには敵の精鋭部隊300人をたった5人で迎え撃つという、絶望的なミッションに身を投じていく。たった一輌の戦車でドイツの大軍と戦った5人の男たちは、なぜ自ら死を意味する任務に挑んだのか―。

 

フューリーって聞いたことあるなぁ、と思ったらローマ神話の復讐の女神でした。いまいちローマ神話とギリシア神話の違いが分かっていない私ですが・・・とにかくこの映画も「プライベート・ライアン」と同じくアメリカ映画で魅せるのが上手い。

プライベート・ライアン (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
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「プライベート・ライアン」の記事を読む。

個人的に思うのが、どこの国もそれなりの特色というかエゴイズムが垣間見えて、そのエゴ故に特定の人にしか響かない作品になったり特別になったりするんですが、アメリカ映画はそのエゴ自体がエンタメ(サービス)になってる気がします。常に相手がいる。常に観る人を楽しませる、という視点がある。

映画は、制作側が一般人に強要することはできません。それがどんなに素晴らしい内容で、芸術的だろうがなんだろうが、120分近くその人の心をとどめておくには、観る側の視点が必要です。アメリカ映画はここがめちゃくちゃ上手いと思う。

 

戦争は個を奪う

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対戦相手は「プライベート・ライアン」と同じく、ナチスドイツ国でナチス・ドイツの親衛隊(SS)です。アメリカにとって、VSナチスは自分たちが絶対的ヒーローだから書きやすいのかな?今更ながら戦争の対戦映画は日本かアメリカしか見ていないと思うので、ドイツ側も観てみたいなぁ。

 

ブラピことドンがリーダーとして君臨する戦車に戦闘未経験のノーマンが配属される。ノーマンって名前もNoManでまだ男になれていない子供という意かな・・・?

 

人を殺すくらいなら自分を殺してくれと言ってしまう、まだまだ心が追いついていないノーマンを置き去りにどんどん戦況は悪化していく。

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SSを追ってやってきた街にいたドイツ人の女性。ドンはノーマンを連れてこの女性の家に押し入る。物々交換として彼女との性行為をノーマンに渡す。

 

ドンとその仲間たちは、幾度の戦闘を切り抜けてきた猛者で、その経験故に「個」を失っています。一個人として人を愛する気持ち、人を殺す気持ち、そういうものにフィルターがかかっている状態です。

 

そこに新人としてやってきたノーマンは「軍人」になりきれない「個」でした。ドンは自分たちが失ってしまったものをノーマンに見て彼の個としての感情を見ることで自分の失くしたものを見つけたのです。

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こういう筋書きで戦争をドラマに仕上げるアメリカの手腕たるや。もしかしてアメリカ国民の軍隊へのイメージを良くするために、こういう映画を作ったのか?と考えてしまう。戦争の悲惨さや嫌悪に関しては敗戦国側の映画を見るべし。

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たった一輌の戦車でドイツの大軍と戦った5人の男たちは、なぜ自ら死を意味する任務に挑んだのか―。

 

の答えは、彼らが軍人だったから、だと思います。

個人なら逃げたいところですが、これが任務であり、自分たちは命を受けている、という条件が彼らを引き止めたんじゃないですかね。

 

集団の中で、人は簡単に個を失う。

それを証明するように、アーティストや作家は引きこもりというか一人を好む人が多い。自分にしかできないもの、自分という「個」と向き合うには、そこから何かを生み出すには個を失うわけにはいかないのだ。

学校や会社、干渉の強い家族、そういった大小様々な集団。別にそれが悪だとは言いません。集団にいる方が楽な人や心地よい人もいるから。

それに、集団でいる方が自分を保てるってあると思うんですよ。近くに誰かがいれば相対的に自分の存在が自然に"在る"。対して引きこもりって作品や何かを通して自分を出すので、それしなきゃ生きてるのか死んでるのか人には分からないし。

フューリー(字幕版)

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ただ、この映画かっこよすぎる。戦争がこんなにかっこよくちゃ困る。