深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

ふたりの証拠/アゴタ・クリストフ~自分の地獄は人には見えない~

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≪内容≫

 戦争は終わった。過酷な時代を生き延びた双子の兄弟の一人は国境を越えて向こうの国へ。一人はおばあちゃんの家がある故国に留まり、別れた兄弟のために手記を書き続ける。厳しい新体制が支配する国で、彼がなにを求め、どう生きたかを伝えるために―強烈な印象を残した『悪童日記』の待望の続篇。主人公と彼を取り巻く多彩な人物の物語を通して、愛と絶望の深さをどこまでも透明に描いて全世界の共感を呼んだ話題作。

  

 一作目はこちら

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

 

  これ、映画になったのが「悪童日記」だけなので、続編二つの存在があまり知られていないような気がするんですが、これは続編を読んだ方がいいです。悪童日記自体が導入というが前書でしかないことに三部読んでから気付いた。

 

人知れぬ絶望

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 前作「悪童日記」では、一人が国境を越え、一人が国に残るという決別をしました。それまで一心同体であった双子の分裂で前作は終わっています。

 

 本作は残った方の双子・リュカの物語となっています。

 家に残ったリュカの元には、実の父との子供を産んだヤスミーヌとその子供マティアスが住み着きます。リュカは神父の元に料理を運び、居酒屋を廻って流しの営業をし、その後クララという図書館員の女性の元で眠りにつくという生活を送ります。

 

 更に前から通っていた文具店の主人ヴィクトールの話を聞いたり、そのつてでペテールという党書記と知りあい身分証明書を手に入れたりします。

 

 一人ぼっちになったリュカは毎日忙しい。色んな人の家に廻って世話をしてそれで一日が終わって行くのです。

 この登場人物たちの本当の正体が分かるのは次作「第三の嘘」で明らかになりますが、とりあえずのところ本作の重要な人物は未亡人ヤスミーヌの子供マティアスです。

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 マティアスは不具の子で足が悪かったのです。しかも本の通りだと容姿にも恵まれず、美男子たるリュカに対しての劣等感がありました。

 ヤスミーヌはマティアスを愛していましたが、リュカのすすめもありマティアスを置いて都市に旅立ってしまう。残されたマティアスは実の母親に捨てられた悲しみと、他人でありながら父親である似ても似つかないリュカに対しての執着を強めていくのでした。

 

 更にマティアスは学校に通います。リュカたち双子は煩わしいとして通わなかった学校に。しかし、そこでマティアスは凄惨ないじめにあいます。悪口は序の口で身体に傷をつけられて帰ってくることも多かった。

 しまいには担任の先生がマティアスを退学にした方がいいとリュカの元にやってくる。マティアスには才能はあるが、このままでは彼が壊れてしまうと。

 

 ここで、前作の双子が取る行動と言えば一つだけである。それに耐えることでも逃げることでなくそれいじょうにやり返すことである。

 そうやって生きてきたリュカは自分たちが使ってきた武器を与え、自分の身は自分の身で守るのだ、とマティアスに教える。

 しかし、マティアスはリュカとは違う生き方を示すのだった。

「ぼく、体になら傷を受けても大してこたえないよ。でも、もし僕がそんな傷を誰かに与えなければならないとすると、ぼくはもうひとつ別の種類の傷を受けることになって、それには耐えられないと思う。」 

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「われわれは皆、それぞれの人生のなかでひとつの致命的な誤りを犯すのさ。そして、そのことに気づくのは、取り返しのつかないことがすでに起こってしまってからなんだ」 

  リュカは血のつながらないマティアスをとても強く愛していました。国境を越えた半身と等しく、しかし後年はそれ以上に愛していました。

 マティアスが己のことを不具で見た目も悪く母に死なれたと散々卑屈になって、その怒りをリュカにぶつけてもリュカはマティアスを自分の子として愛し続けました。

 

 けれどもそこには「致命的な誤り」があったのでした。

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

 

  三部作を全て読んだ後にもう一度この中間子に手を伸ばすと、一番の悲しみはここに描かれているし、ここがハイライトです。しかしハイライトに気付くには真実という闇を覗かなければならない。その闇が「第三の嘘」です。