≪内容≫
“あれ”が来たら、絶対に答えたり、入れたりしてはいかん―。幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。それ以降、秀樹の周囲で起こる部下の原因不明の怪我や不気味な電話などの怪異。一連の事象は亡き祖父が恐れた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか。愛する家族を守るため、秀樹は比嘉真琴という女性霊能者を頼るが…!?全選考委員が大絶賛!第22回日本ホラー小説大賞“大賞”受賞作。
こっわ!!!
まず、「ぼぎわん」という不穏な響きがセンスありまくりますよねw怖いよ!怖かったよ!!
呪いの系譜
ホラーの怖さって救われるか救われないかだと思うんですよね。昔ぬーべーがめっちゃ怖いけど好きで、でもその怖さって話によって違うんです。んで、自分なりに考えたところ、ぬ~べ~が「くっ・・・これは鬼の手でも無理だ・・・!」とか「俺には出来ないぃ!」とか言う話がめっちゃ怖くて成仏したやつは怖かった、とちゃんと過去形になり昇華されることに気が付いた。
だからね、ホラーはホラーでも日本のホラーって妖怪(もしくは幽霊)で死ぬでしょ?リングとか。これは最初リングの作者鈴木さんの「生と死の幻想」の中の 四話:闇のむこうと似たようなものを感じたんですよ。
救われるって。でもね、それがね・・・この本の怖さですね。
「
我慢するとな、心の中に、悪いもんが溜まるんや。ずっと後になって、しっぺ返しがくるんや。じっと我慢してたからて、正しいのんとちゃう。わたしは耐えた、せやから許される、そんな簡単な話ちゃうんや。世の中はーこの世は」
本作は主人公・秀樹が小学生のころ祖父母の家で留守番をしていたときにやってきた謎の訪問者が、結婚し娘が生まれてからもやってくる、という話である。
家の中にいた祖父は「絶対に返事をしてはならん」と言ったが、訪問者が何者なのかは答えずに死んで行き、また引用文を語った祖母も亡くなった。
この物語、ホラー好きならば割と序盤からははーん、となる部分が多くてワックワクで読んでいた。西洋の吸血鬼は招待されなければ家に入れない、というのがここですでに分かってくる。そして本作は和洋折衷なおいしいホラーなのである。
「ぼぎわん」という名前の解明と正体を探る展開から、純粋なホラーものかと思いきや、そこにはめちゃくちゃ人の悪意というものが絡んでくる。
部下の女は俺に気があるから口説けば絶対ヤレるだの、浮気相手の女子大生がメンヘラっぽいから別れたいけど結局その日もヤッただの、そんな話ばかり聞かされて気が変にならないか?時間を奪われていると思ったことは一度もないか?目の前で男のたしなみと言わんばかりにクダ巻いてる下衆どもを、絞め殺してやりたいと思ったことは?
大人になったら子どもを生むのが当たり前。
父親になったら一家の大黒柱として責任を負うのが当たり前。
家族サービス、近所づきあい、SNSでママ友、パパ友。
そういう世界に行けるのは結婚して子供を授かった家庭で、未婚、もしくは子が出来ない家庭には入る権利さえない世界。
SNSに流れる華やかな一瞬を自慢げに見せびらかし、だけど子供がいるから父親だからそれ以外がクソみたいな日常でもかまわないといわんばかりのニンゲン。
そのクソの部分に苛立ちを隠せないニンゲン。
死んでほしい消えてほしいと願うニンゲン。
そんな現代のニンゲンと昔から伝わるぼぎわんなる妖怪がタッグを組んだかのような現代的怖さが本作の特徴のような気がします。
この話、肝となっているのが「子供」です。
大人に殺される子供、大人のSNSの道具となっている子供、子供ができない大人、他人の子供・・・すべて子供が関わってくるのが特徴です。
んで、結局ぼぎわんって何なんや!ってなると、山にさらわれた子のなれの果てなんですね、たぶん。(ここらへん映画見たいな。)
だから最後の
「んああ・・・さ・・・」
「・・・さお・・・い、さ、むあ・・・んん・・・ち、が・・・り」
は、「お母さん、寒い、寒いお母さん、お家帰りたい」なんじゃないのかなー?と思っちゃうんですよね。ただ、これがバリッバリのホラーなら“Trick or Treat”になるかなぁ。ここら辺、私は子供だけにハートフルにしたいというか、やはりどこかに救いを求めちゃうんだなぁと思いながら読んでました。
素直に怖い。でもキャラが立ってて連続シリーズとしても楽しそうだと思いました。映画見たいなー!