深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】藁の楯~人では支えられなくて職業だけが支えてくれる時間がある。~

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≪内容≫

 懸賞金10億のクズ(-凶悪犯-)を、命懸けで移送せよ! 
5人 vs 1億2千万人 ――― 全国民が敵。 

「この男を殺してください。御礼に10億円差し上げます。」前代未聞の新聞全面広告に、日本中が揺れた! 広告主は巨額の資産を持つ財界の大物・蜷川。幼い 孫娘を惨殺した男、清丸の首に懸賞金を懸けたのだった。命の危険を感じた清丸は、潜伏先の福岡で出頭する。全国民の殺意が向けられる中、48時間以内に清 丸の身柄を警視庁に移送するため、5人のSPと刑事が選ばれた。護衛対象は“人間のクズ"。
一般市民、警察官、機動隊員までもが執拗に命を狙ってくる中、命懸けの移送が始まる。見えない暗殺者から逃げる為、護送車、救急車、新幹線と次々と移動手段を変えても、なぜか、ネット上のキヨマルサイトには移送チームの居場所が更新されてしまう。
いつ?誰が?何処から襲い掛かってくるか分からない、誰が裏切り者か分からない極限の緊張状態が続く・・・。
はたして、人間のクズを命懸けで守る事に価値はあるのか?それが“正義"なのか?SPチームは無事に清丸を警視庁に移送することができるのか?
物語は、誰も予測できない衝撃のクライマックスを迎える! 

 

 この手の「正義」に関するような物語って自分の場合、深くそのことを考えだすきっかけにするか、それを避けるためにアクションなり俳優の演技なり設定なりにわざと気を持っていくかの二択になります。

 これはね、ほんと・・・複雑ですね。

 

意味と価値

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清丸は7歳の女の子を死ぬまで殴り続けた
検死の医者が力を加えても瞼が開かないほど腫れあがった女の子の顔に
あいつは精液をぶちまけていたんだ

 

  全く反省もしておらず、SPには憎まれ口を叩き、幼い命を奪っておきながら人権云々と移動車の中で説教を垂れる、これほど醜い犯罪者を守る価値はあるのか?

 

 清丸に殺された女の子の祖父が出した懸賞金に手を伸ばしたのは、清丸の最初の被害者の父親や、借金に苦しむ男性など家族のために大切な人の命のために手を伸ばした。例えそれで自分の手が汚れようともかまわない、そういう強い意志が清丸を追いかけていた。

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ほんとうに無残な遺体だったよ
あんなの人間ができることじゃねえ

忘れられねえんだあの遺体が
俺はあの子の親じゃねえ
親じゃねえが

俺は清丸を殺してやりたいって正直思ってるよ

 

  清丸を追いかけるのは一般人だけでなく警察内部にも財閥にもいた。銃の使い方を知っている警察と武器を購入できるほどの財力をもった人間に立ち向かい、命を落としていく警察官たち。

 

人を殺し続ける男を守るため、法の元に裁くために更に多くの死者が出る。そのことは果たしてほんとうに「正しい」のだろうか?

 警察内部でも揺れる意見。法は平等の名のもとにあり、そこに辿り着くまでは清丸にも一般人と同じ人間の権利が適用されてしまう。身近にいるSPは銃を持ち、すぐにでも清丸を撃ち殺すことができる。

 だからこそその責任が重く個人にのしかかる。

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  職業というのは時に人を変える。

 人では支えられなくて職業だけが支えてくれる時間がある。

 いわゆる職業がアイデンティティの一端を担うのだ。働いてなければ、気を紛らわす何かがなければ立っていられないほどの何かに侵されてしまったとき、人は誰かと寄り添うより、形のない「約束」や「信念」を求める。一番分かりやすいのが宗教の勧誘である。あれって悩みはないかと必ず聞くんです。

 

 起きてしまった出来事に自ら飛び込んで行くより、自分より大きなものに預けるのです。神はもちろん、思想だったり社会だったり職業だったりね。だけどそれは形がないから、人には見えない。友達にどんなに宗教の勧誘をしてもその魅力が伝わらないのは、その教えに魅力がないのではなく、それが形のないもので、形のないものを信じる状況に相手が陥ったことがないか、自ら飛び込んで確かめたい人間だからだと思うのです。

 そういうものは形がないから、他人にはそれがその人にとってどれくらいの意味と価値があるのか、自分がその新しいものを受け取ることでどんな変化が起きるのか分からない。そして他人から否定され続けるものを信じられるほど強くないから、人は形のないものは心に秘めておく。 

 

 大沢たかお演じるSPは揺れる。

 もはや最後のシーンでは自分でも本心で言ってるのか、一般論なのか、誰が誰なのか分からないほど浅い言葉で被害者の祖父を納得させようとしている。自分に言い続けてきた言葉なのだろう。だが、私は祖父の意見の方がしごくまっとうに思うのだった。

藁の楯

藁の楯

 

 できないと思う。そもそも人間は平等じゃないとか言うのに、こんなときだけ平等です!って言われてもね・・・。