深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】昔々、アナトリアで~自殺のほとんどは誰かを罰するためであり、殺人のほとんどは自分や誰かを守るためである~

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≪内容≫

 2014年カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督によるクライムサスペンス。殺人容疑者を連れて死体の捜索を始めた警察官たち。容疑者の曖昧な記憶に草原を転々と移動させられ、彼らは疲労と苛立ちを募らせていき…。

 

 うぉおおおおトルコ映画!

 これ苦手な人は最初から最後まで辛いかもしれない・・・。なぜならBGMなし、ほとんどが会話、劇的な起承転結なし、わりとすっきりしない終わり・・・だから。正直に言おう、私は3回寝落ちした。そしてその度に記憶にあるところまで戻ったから3時間はかかったと思う。正直眠い。体調があまり良くない時には俄然オススメしない。これは割と健康でかつ余裕があるときでないとメッセージが響きにくい

 逆に言うと、それだけのメッセージがあるということなのだけど。

 

ポジティブな厭世

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  この映画、マジックリアリズムが好きな人は割と好きかなーと思う。この雨の話とか百年の孤独(Obra de Garc´ia M´arquez)を彷彿させる。

 

 さて、トルコのアナトリアで起きた殺人事件。殺して埋めたという犯人の証言に導かれてやってきた草原だったが死体は見つからない。容疑者と警官と検死官と検事は一晩一緒に過ごす。そして翌日、曇った明かりの下で再度捜索が始まるのだった。

 

 主人公はこの検死官である。

 

数世紀も前から雨はこの地に降っていた
だが100年足らずで皆 消えていなくなる 

 

 犯人の示す場所の捜索は警官に任せ、ドクターと検事はある女の話を始める。

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  その女は5か月後のこの日に死ぬと言ってその日に本当に死んだのだった。妊娠していた彼女は子供を産んでしばらくして突然死んだ。理由もなかった。聡明で迷信も信じなかった美しい女性が、何か呪術的なやり方で死んだのだ。

 男は死因は心臓発作と医者が判断したと言うが、検死官は検死すべきだったと言う。人はそんな予告通りに死ねないのだから、と。

 

 つまるところ、検事は「友人の妻」と言っているが自分の話をしており死んだ妻の奇妙な行動を今でも不思議に思っている。なぜならそのことに心当たりがあるからだ。しかし医者が下した判断は心臓発作であり、自殺ではない。ただの偶然か彼女が千里眼でも隠していたのかも知れない。そう思って生きていたが、検死官は検死をすることで見える真実があるのだと語る。

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  翌朝、死体は発見された。

 発見された死体は縛られていて警察はなぜ殺した上に無残な縛り方をして埋めたのだと怒り狂う。犯人は何も答えない。ただ、一晩の間に彼はたった一つだけ告白したことがある。それは殺した男の息子の本当の父親は自分なのだということだった。

 

 被害者は何も知らなかった。酒でつい口が滑って言ってしまったとはいえ翌朝この男がそれまで平和だった家族をぶち壊すのは当然予想出来た。男は自分の息子を守るためにこの男を殺したのだった。縛ったのは彼が這い出てこないようにだろう。

  検死官は検死の最中に真実を知る。だが大切なのは真実や罪を白日の下に晒すことでなく、生き残った家族が石で打ち殺されないことである。

 検事が妻を検死に回さなかったのは妻が自分の罪を告発するために死んだと村に知れ渡るのを恐れたからだったが、検死を避ければ妄想の中で永遠にその死に縛られる。検死官という役回りは昔々、アナトリアで最後の砦であったのだ。