深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

エレンディラ/G・ガルシア=マルケス~男に閉じ込められた祖母と男によって新たな世界に飛び出した少女~

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≪内容≫

 コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短篇集。
“大人のための残酷な童話"として書かれたといわれる6つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を収める。

 

 小説家とは何が決めるのか、面白さか奇抜さか、技術とは何か?って話の中で「その人にしかない文体」というのがあるんですが、私は日本の小説を読んで「文体」という概念が生まれなかったんですね。そりゃあ人によって色が違うのは分かるけれど「文体?」みたいな。だけど、ガルシア=マルケスを読んでやっと「文体」、しかも「その人にしかない文体」というが自分の中で形作られたんです。すごいですよね、そういう自分の中に新たな芽が出る体験というのは。

 作家のすごさが何かといったら、本を通してどんな遠い場所にいても他者に体験させることができる力だと私は思います。これは短編集なので一話が短く分かりやすいのでかなりオススメです!

 

無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語

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  映画になった作品「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」は一番最後に収録されています。6篇それぞれすごく楽しいんですけど、やっぱりこの物語を書いておこうかな、と思います。

 

 14歳のエレンディラ白鯨を思わせる大きなお祖母ちゃんと二人暮らし。毎日毎日召使いの代わりにお祖母ちゃんのお世話をして一日が終わる。そんな日常のあるとき不吉な風がやってきて、エレンディラが消し忘れて眠ってしまった蝋燭を倒してしまいさあ大変!お家は丸焦げ!住まいも財産も燃え尽きてしまいました。お祖母ちゃんはエレンディラにこの負債を背負わせ返させるために、生娘を高く買う男の元に行って売りつけました。そして村中の男たちに売りつけてもう買う男がいなくなると、密輸のトラックに乗り込んで次の村を目指しました。

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 そうやってエレンディラとお祖母ちゃんは売春の旅を続けお金を稼ぎました。エレンディラは身体中の骨がガラスになってしまったように思いました。怖くて涙が止まらず並んでいた男たちを帰した日もありました。ウリセスと出会ったのはその日のことでした。

 ウリセスは初めてとお金を持ってエレンディラの元にやってきました。閉店後、お祖母ちゃんの目を盗んでやってきたのです。ウリセスはエレンディラと再会を誓い村を後にしました。しかし次にやってきたときエレンディラたちはすでに村を後にしていました。ウリセスは人づてに二人の行方を聞きだし、なんとかエレンディラの元にやってきます。

 そしてエレンディラの願いを叶えるべく白鯨にナイフを突き立てました。エレンディラはお祖母ちゃんの死をきちんと確認するとウリセスを置き去りにどこまでも遠くに走り去って行きました

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「わたしがいなくなっても」と祖母は続けた。「男たちに頼らなくてもすむんだよ。大きな市に家を持つのさ。そして自由に、仕合せに暮らすんだよ」

  この物語、予告された殺人の記録に出てくるアンヘラ・ビカリオという女の子の人生と似ていて、南米の貧しい村の女性は自ら人生を進む、ということが難しいという背景があると思います。

 エレンディラは祖母から隔離された時期もあったけど、結局自ら祖母と一緒にいることを選ぶし自分では祖母を殺せない。祖母に「怖い」や「疲れた」と吐露することはあっても「NO」は絶対にないのです。

 

 さらに予告された~でやってくる金持ちの男は本作ではウリセスが担います。アンヘラ・ビカリオが異国の男によって閉鎖された世界から飛び出し自らの意思と直面するように、エレンディラはウリセスの祖母殺しによって新たな世界に出て行くのです。

 

 男に頼らねば生きていけず結婚こそが全て、という世界を受け入れれば祖母の仕打ちは無情かもしれませんが、男に頼らず自由に生きたいと願うのならそのための道をエレンディラに課した祖母はそこまで悪人に思えない。白鯨に似て日傘が不可欠なところから祖母は白人であり、砂漠を流浪し海辺に戻るというところからもここではないどこか、を目指していたのかな、と思います。

 男に閉じ込められた祖母と男によって新たな世界に飛び出したエレンディラ。ラテンアメリカの異なる二人の女性の物語。必見です。