深夜図書

書評と映画評が主な雑記ブログ。不定期に23:30更新しています。独断と偏見、ネタバレ必至ですので、お気をつけ下さいまし。なお、ブログ内の人物名は敬称略となっております。

【映画】父の秘密~心配かけるから言わない、は最も心配をかける行為だったりする~

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≪内容≫

妻・ルシアを失くした喪失感から抜け出せないロベルトと娘のアレハンドラは、メキシコシティへ引っ越す。新しい土地でやり直そうとする父と娘。だが、それだけでは悲しみが癒えるはずもなく、彼らは心の傷に向き合わないまま他愛ない言葉を交わすだけの関係になっていく。
アレハンドラは新しい学校で友だちもでき、楽しく過ごし始めるが、酔った勢いで関係を持った男子生徒に行為を盗撮され、それをネットにアップロードされたのがきっかけで、いじめの標的となってしまう。しかし、喪失感で仕事もままならない父親に、いじめられていることを告げることができず、苦痛な日々をやり過ごすしかなかった。そして、ある日、彼女は突然姿を消した。

 

 こちらメキシコのドラマ映画なんですが、色々ぶっ飛んでるのがお国柄と言うかなんというか。娘は高校生なんですけど、マリファナやってるし修学旅行は酒乱パーティーみたいになってるしで、なんか色々レベルたっけーなおい!って感じです。もちろんラストも。キーワードは「悪人」に近いものがたくさんありますが、ラストは真逆。これはこれでバッドエンド感があり、どちらも始まったら最後、バッドエンドしかあり得ない、という感じです。

 

語り合いの重要性

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 主人公・アレハンドラは事故で母を亡くした。そのショックは父の方が強く、亡くなった母の面影が残るものは全て捨てて新しい土地でやり直そうと二人は動きだしました。

 アレハンドラは新しい学校で人気者のホセ少年ホセ少年に恋する少女のグループに入りました。ホセたちはたぶんちょいワルグループで、皆でナイトプールで遊んでいるときにお酒やクスリが入りアレハンドラとホセはヤってしまいました。とくに深く考えていたわけではないアレハンドラは、ホセが動画を撮っていることを知りながら彼に身を任せました。

 翌日、その映像はクラス全員に送られていました。

 アレハンドラはそれからホセたち男子には性的な嫌がらせをされ、女子には嫉妬から下僕のような扱いをされるようになりました。

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  一方、父親は新地で仕事に馴染むのに必死でした。しかし一人娘のことは気にかけており、疑問に思ったことは聞いたり会話をないがしろにはしません。ですが、アレハンドラは何を聞いても上手く行っている風の答えを返してくる。そこに重大なSOSは見られない。

 アレハンドラは父に迷惑をかけまいという思いと同時に、語りあうことをしない父親にどこまで心を開いていいのか分からなかったのではないでしょうか。

 事態は父の知らぬところで一気に加速します。アレハンドラは修学旅行先でホセと一緒にいる男に強姦されてしまいます。しかしそれだけで済むはずもなく、海辺へと連れ出され、男子たちに小便をかけられ暗い夜の海に投げ出されます。

 

 そしてその夜からアレハンドラは姿を消したのです。

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  こんな恋人のような絡みをしていれば、客観的に見れば仲の良い親子でしょう。しかし、二人に共通するのは「結果」しか言わないことでした。

 どのような過程でそうなったのか、どんな気持ちでそうなったのか、こういった部分が抜け落ちた会話はクールですが時に重大な過ちを呼び起こします。

 そう、村上春樹の作品でよくある夫が消えた妻を探すパターンです。

「ねじまき鳥クロニクル♦第一部泥棒かささぎ編」の記事を読む。

「ねじまき鳥クロニクル第二部♦予言する鳥編」の記事を読む。

「ねじまき鳥クロニクル第三部♦鳥刺し男編」の記事を読む。

 夫、もしくは主人公の男は、相手が突然いなくなったり、突然別れたいと言ってきたりして、それに対して「なぜ?」と思う。

 でも、なぜ「なぜ?」と思うのだろう?

 一見、「なぜ?」と聞くのは当たり前のことに思う。なぜなら、どれだけ理解していると思っても他人なのだから予想はついていても聞いて確かめることは有効だから。でもそれが親子や夫婦や親友という、特別を意味する関係で結ばれている人なら「なぜ?」と聞くのも意味合いが違ってくると思うのです。

 その違いは目には見えない「情報量」です。

 

 アレハンドラの失踪後、父は仲の良い親子だったと警察に言うが、警察からは「それなのに友達の名前も知らない・・・と。」と返される。二人は確かに話していたし、友達がいることも知っている。だけど、その表面の出来事に奥行きがないのです。

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  話してくれるって以外にすっごい重大なことなんですよね。それに自分が話を反らせば相手も反らしてくる。自分に返ってくるんですよ。人は鏡。この言葉がしっくりくる映画でした。