
≪内容≫
エルサレムで事件を解決した名探偵のエルキュール・ポアロは、イギリスでの事件解決を依頼され、急遽、豪華寝台列車オリエント急行に乗車する。アメリカ人富豪ラチェットから、脅迫を受けているからと身辺警護を頼まれるが、ポアロはあっさりと断る。その夜、雪崩で脱線し立ち往生してしまった車内でラチェットが何者かに殺害される。鉄道会社から捜査を頼まれたポアロは、乗客たち一人一人に聞き込みを開始するが、乗客全員には完璧なアリバイがあることが判明するのだった……。
アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」が秀逸すぎて・・・
ミステリーの古典ってもう最新のミステリーでネタが分かっている気になっていたんですが、名作ってすごい。こんな話は読んだことも見たこともなかった。
罪は分け合えるのか?
豪華寝台列車オリエント急行に乗りこんだ名探偵・ポアロ。そこで、嫌な雰囲気の金持ち・ラチェットから身辺警護を頼まれるが、命を狙われる理由が詐欺まがいの商売をしたラチェット自身にあることを知ったポアロは冷たく断る。
そしてその夜、ラチェットは何者かによって殺された。ベッドの上に転がったラチェットは血まみれで、刺し傷は幾重にも重なっていた。
乗客全員にはアリバイがあり、ポアロは自分の問題ではないと事件への介入を拒むが、このままでは無実の人間が罪を着せられるかもしれないとの声に重たい腰を上げる。
事件を解く理由・・・それは罪を裁くためなのか、無実の人間を救うためなのか。真実を白日の下に晒すことは絶対に正しいことなのか。
ポアロはこの事件において、何が正しいことなのか分からなくなる。
それは乗客全員にアリバイがあるものの、乗客の全員が嘘をついているからであった。
この中に殺人を犯した者はいない。だが、殺された者がいる以上、殺した者がいるはずなのだ。
だれか一人が嘘をついたり、二人が口裏を合わせているなら、名探偵ポアロの洞察力でもっと早くに解決できたはずだった。
しかし、この者達は全員が嘘をついていた。その理由を解き明かしたポアロの答えが正しい判断なのか過ちなのか、それは観た人間に委ねられている・・・。
一期一会の人間たちが電車という限られた空間で過ごす奇妙な夜が、実は奇妙でもなんでもなく用意された舞台だったとしたら。
乗りこんだ電車の中、全員が他人だと思っていたら自分以外の全員が何かしらの縁で結ばれていたとしたら。
私立探偵・マーロウもそうですが、探偵という職業は頭の良さだけでなく人情や情熱がなければ成り立たない職業なのだな・・・と改めて感じました。
私は今回のポアロの判決に賛成です。自分たちの秘密を暴いた人間がいるということは、裁かれなくても永遠に十字架を背負うと同義に思えるからです。