《内容》
文豪、エミール・ゾラの原作をフランスの巨匠、マルセル・カルネ監督が映画化したサスペンスドラマ。病弱な夫と口うるさい姑にこき使われ、暗く孤独な日々を送る主婦・テレーズ。ある日、彼女はたくましい青年・ローランと出会い、惹かれ合うが…。
昔の映画ってシンプルだからなのか、テーマがストレートでなおかつ美しい。本作は悲しみしか知らない女性が人生を変えようとするけれど・・・というお話です。
欠乏が人を変える
好きでもない男と結婚させられることは昔々の時代にはどこの国でも当たり前のことだったのかもしれない。だけれど、好きではなかったけれど、夫の愛によってだんだんと心惹かれ愛し愛される夫婦になる物語は気持ちよい。
だが、この物語はそんな美しい話ではない。好きでもないし、結婚させられた理由はただ生まれつき病弱な男の従妹というだけで小さいころから世話をしていたから。
愛を知りたくて映画に行きたくても姑からはそこら辺のカップルのキスでも見てろ!と言われる始末。
このままつまらない毎日を送って死ぬのだと思っていたテレーズに運命の男が現れる。
夫の友人であるローランはタフで行動力のある男だった。病弱で母のいいなりで家でいかさまゲームに興じる夫とは正反対だった。
かけおちしようと誘うローランに惹かれながらも、生活を変えることに不安を抱くテレーズは何度も断るが、ついにローランと生きることを決意する。
しかし、そんなテレーズに夫は脅しをかけるのだった。
二人で一度パリに行けばすべて認めるという夫を信じたテレーズだったが、それは夫の罠だった。そしてひょんなことからパリ行きの電車で夫は命を落とすこととなる。
不慮の事故だったが、ローランとテレーズにとっての障害はなくなったと思っていた。とあるゆすりがやってくるまでは・・・。
事件の真相を知っていた男は、二人に黙っていてほしければ金を出せとゆする。二人は金を払い二人で新たな人生をやり直そうとするが、その矢先、男は交通事故に巻き込まれて死んでしまう。
そして、男が二人が金を出さなかったときのために保険として用意していた真相を書いた手紙が、メイドの手によってポストに投函され物語は幕を閉じるのだった。
自分の息子だけを大切にする母、その愛を一心に受けた息子は愛されることが当たりまえで愛することはできなかった。
そんな二人の関係に投げ込まれたテレーズはただ愛がほしかったんだと思う。その愛を求めることさえ許されない時代だったのか、家の事情だったのかは分からないが、愛がほしいという誰もが求めることを求めた結果が悲しすぎるのは事実。
人は善人とか悪人とかあるけれど、誰だって満たされないなにか、欠けているなにかがあったらそれを手に入れるために牙をむき悪に染まることもあるのではないでしょうか。
ゆすりの男が死ぬ間際、手紙の存在を伝えようとして死ぬのは、人は満たされていれば悪には染まらないという説法のように思えました。
よく、泥棒や悪党がきたらまず相手の空腹を満たせ、と言いますよね。人間どこか満たされていないと荒んでしまうものなのだと思う。