《内容》
都内で発生した殺人事件。犯人は不明。事件を担当する検察官は、エリート検事・最上と、駆け出しの検事・沖野。最上を師と仰ぐ沖野は、最上が狙いを定めた被害者の取り調べに力を入れるのだが、一向に手ごたえが得られない。やがて沖野は、最上の捜査方針に疑問を持ち始める。「最上さんは、松倉を、犯人に仕立て上げようとしているのではないか?」…。互いの正義を賭けて対立する二人の検事。待ち受けていた決着とは―。
正義なんてものは誰もが求めるけど、期待していたものを得た人なんていないんじゃないかな。
そこには夜が広がっていた。
柔らかく静かな夜で、白い月光は冷やかに澄み切っていた。
人が夢見つつも手にすることのない正義のように。
(「高い窓」より)
個人で見る正義と、職業で見る正義
木村拓哉演じる主役のエリート検事・最上と、最上を慕う二宮和也演じる沖野。沖野は最上の指示で怪しい人物の取り調べを担当するのだが、その内容を聞いていた最上はその人物が過去のある事件の犯人・松倉であることに気づく。
そして今回こそこの事件の犯人として裁くことができると思ったとき、本当の犯人が現れる。沖野は自分に何かを隠し単独行動をする最上を怪しむが、沖野以上に最上を怪しいと思っていたのは同じチームの橘(吉高由里子)だった。
沖野は尋問によりすでに時効となった過去の事件を松倉に吐かせた。その内容に同席していた橘は涙ぐみ、最上の怒りは最高潮となった。
なぜなら、橘は被害者と同じ女性であり、最上はその被害者女性のお兄ちゃん的存在だったからだ。この三人のチームの中で個人ではなく職業として動いていたのは沖野だけであった。
職業で動く沖野は、指標となる最上の単独行動により軸がなくなる。次なる軸は橘だった。橘の冤罪によって命をたった友人の話を聞き、心を動かされた沖野は冤罪で松倉を逮捕しようとする最上に対抗し、松倉を守ろうと動く。その結果、松倉は永遠に過去の事件から逃げることに成功するのだった…。
この映画の肝は沖野で、沖野がもし橘より先に最上に過去の事件を聞いていたら協力したのかもしれないと思います。
軸が自分の中ではなく他人にあった沖野は、核となる執着とか執念とかそういうものがなかった。最上と橘の正義の入り口は、お互い失った大切な人への誓いのようなものだったのに、出口は違う場所にあった。
戦争みたいだな、と思った。どちらも正しいと思って動いて、沖野のように深い憎しみや怒りがない人間が右往左往して、本当の罪人が野放しになる、なんてね。
個人は強い。